著者の”立場上の言い訳”が面白い。「ファラオ 古代エジプト王権の形成」

本屋を通りかかったら新刊コーナーにエジプト本があったので、流れるように(以下いつもの) 正直、この本は普通のエジプトマニアも初心者にもオススメしない。記述の甘いところが多いのと、これは間違えてるでしょ的な内容もあるのと、自分の専門外はひたすら「xx氏の研究では…」を書き連ねた薄味で、よく知ってるマニアにはあんま面白くないだろうなあと思…

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古代エジプト・民衆にとっての宗教観「古代エジプト人の祈り 信仰のエジプト学」 

新刊情報眺めてたらよさげなのがあったので、さっそく手に取ってみた。似たテーマの本で「古代エジプトの埋葬習慣」を出しているのと同じ著者のエジプト本。王や貴族、上流階級ではなく、古代エジプトの一般庶民たちはどういう民間信仰をしてたのか、というテーマの本である。 古代エジプト人の祈り―信仰のエジプト学 - 和田 浩一郎 (03…

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第18王朝の植民地・ヌビアのトンボスでピラミッドに埋葬されたのは誰なのか。着眼点は面白いけど結論はちょっと甘いのでは

ナイル第三急湍にある新王国時代の要塞都市、トンボス周辺の墓を調べたところ、ピラミッド型の墓に埋葬されているのはエリートじゃなさそうだった、という研究。なので「ピラミッド墓は労働者にも使われたのでは」という結論を出している。 まあこれ、だいぶツッコみどころはあるなと思ったんだけど、今後どこかで取り上げられるかもしれないので、先回りして触…

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ラムセス大王展に来てる「ヒッタイトの盾の鋳型」は、もしかしたらヒッタイト王女のおつきが持ってきたかもしれないという話

現在開催中のラムセス大王展に来ている品の中に、ヒッタイト様式の盾の鋳型、というものがある。 黄金のジュエリーなど派手な展示品などに比べると地味だし、あまり説明もないのでスルーしている人も多かった印象があるのだが、実はこれ、バックグラウンドを知っているとたいへん興味深い品なのである。図録にもそのへん書いてなくてちょっと勿体ない気がしたの…

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エジプト東部Tell el-Maschuta、古代の要塞跡から色々見つかる。

長らくエジプト東部の要所だったTell el-Maschuta、古代名はペル・アトゥム(ペル・テム→旧約聖書でいうピトムとされる※)。 そこの発掘調査で、ラメセス3世の時代の軍司令官の墓が出てきた、というニュースが流れていた。が、実は他にも色々見つかってて、ギリシャ。ローマ時代の兵士たちと思われる墓も一緒に出てきている。 ここは歴代…

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アッシリア帝国/アッシュルバニパルによるエラム攻略戦で撒かれた「塩とsihlu」の正体とは。

にくい敵地を攻略したあとに塩を撒く。というとローマによるカルタゴ攻めを思い出す人も多いかと思うが、「塩を撒いた」という描写はアッシリアの記録にもある。おそらく古代世界の常套句みたいなものだったのではないかと思う。 塩作るのも大変なんで、貴重な塩をわざわざ大量に撒くかっていうと…やらんだろうし…。 ただ、このアッシリアの「塩を撒い…

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エジプトのとこ聞きにいってきた。第32回西アジア発掘調査報告会(2日目)メモ

初日の音声トラブルは2日めは直ってた。 というわけで2日めも聞いたとこメモ。午後はエジプトセクションまでで撤退。 ****** (13)ディルムンを掘る─バハレーン、ワーディー・アッ=サイル考古学プロジェクト 道路の両脇がずーっと古墳、めっちゃ古墳ある。空撮で見るとちょっと気持ち悪いくらい バーレーン狭いもんなあ……

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今年もちょっと聞きに行ってきた。第32回西アジア発掘調査報告会(1日目)メモ

例年紛れ込みにいってる発掘報告会。 イスラエル軍がレバノンやガザに大規模な攻撃を仕掛けたせいで西アジア地域は治安悪くなってるところも多いんですが、ロシアがウクライナにかかりきりなせいでアゼルバイジャンあたりは戦争が停止したって話もあったり。今年はさすがにイスラエルの発表は無さそうだったな…。 一人20分の制限を越えて話し続ける人…

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行き過ぎたポリコレ思想からの揺り戻し、今後の考古学関連研究にも影響があるのかどうか

周知の通り、アメリカでは政権交代を機に、少し前まで支配的だったポリコレ的な思想が急速に払拭されつつある。というか弾圧に近い揺り戻しも起きている。 その中で自分が注目しているのが、女性の権利とかフェミニズムに関する思想である。 実は考古学研究では少し前まで、そうした思想を前面に打ち出した研究が目立っていた。おすすめTopicとかにもよ…

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中国に持ち込まれた最初の飼い猫はシルクロード経由の「白い珍獣」? 最新の調査結果から

数年前、飼い猫の起源に関する研究が出た。猫は農耕の始まりとともに人間の側に居着くようになり、おそらく農耕技術の広まりとともに各地に広まっていった、というものだ。 遺伝子の多様性から探る「飼い猫の起源」。猫の家畜化の始まりは農耕開始とともに https://55096962.seesaa.net/article/494880925…

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日本で就職する中国人留学生は勉強熱心なコたちが多くて助かる。逆に日本人の学生のやる気のなさが辛い。

ブログが歴史とか旅行とかばっかりなので人文系の人と勘違いされることも多いですが、中の人の本業はそのへんのITインフラ屋さんです。インターネットの中の人です。そこそこ歴の長い技術屋なのでたまに求職者の面接に「現場責任者」ポジで出てスキルの計測とかも担当します。 で、やっててここ数年で思うのが「中国人の若手の求職者が増えてきた」こと。…

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古代エジプト(プトレマイオス朝)の香水、メンデシアンについての覚書き

古代都市メンデスは香水が特産で…という話を読んだついでに、その特産だった香水「メンデシアン(Mendesian)」についてメモしておこうと思う。ラテン語ではMendesium。香水が作られたのは、プトレマイオス朝以降の、いわゆるギリシャ・ローマ時代なので、古代エジプトっちゃ古代エジプトなのだが、ファラオの統治した古代からは少し時代がズレ…

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「アララト山の調査で海洋生物の痕跡が見つかった!大洪水の証拠だ!」→そこ昔は海だっただけでは…?

何年かに一度、定期的にニュースサイトに取り上げられる話題に、「アララト山にあるノアの方舟の遺構」というものがある。 たまたま船の形に見えなくもない地形Durupınar site(ドゥナピル遺跡/構造、実際には遺跡ではない)があり、地質学者が「これは自然の造形ですよ」と言ってるにもかかわらず、人工物と言い張ってノアの方舟の存在を証明し…

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エジプト・アビドス近郊で調査された中世の墓、実際には第二中間期の墓が再利用されていた。→未知の王の墓かもしれない

なかなかおもしろいニュースが流れていた。 エジプト中部、古代からの聖地であり墓地でもあるアビドス近郊のソハーグで中世に使われていた墓が、よくよく調査してみたらどうも第二中間期(第13王朝末ごろ)のものと分かり、10年ほど前に新たに認知されたアビドス王朝のものかもしれないという。 古代の墓の再利用はエジプトではよくあるのだが、コプ…

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ウマを偵察に使う利点は機動力だけではない。「背の高い生き物の上に乗ると視野が広がる」

古代エジプトには騎兵がいない。 ウマがエジプトに入ってきたのは第二中間期の終わりごろ~新王国時代だが、その頃にはまだ乗馬という技術が発展していないし、鞍もあぶみも発明されていない。 古代エジプトに騎兵はいないが、「もしも馬に乗れる人がいたら」という仮定で話をする https://55096962.seesaa.net/arti…

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