古代エジプトのビール検証(2) 論文発見
>>まえ
ちょこちょこと調べるはずだったのに、なんだかえらい大層な研究がぞろぞろ出てきて手に負えなくなってきた件(笑)
古代の食物の再現なんて、壁画の絵だけから何の下調べもなくひょいと再現出来るレベルの話ではないと思う。ほかに「学術的な研究」という下地があってはじめて出来た実験なのに、その下地の部分を隠して、あたかもイチから自分たちがやりました的なニュアンスで書いてるから何か胡散臭さを感じるんだろうなと、ふと思った。
論文や研究発表が存在しないのは、古代エジプトのビール製法についての新説を思いついたのは吉村教授ではないし早稲田大が最初でもないからなんじゃ…。
ま、それを検証するのが元々の目的なのですが。
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まずは適当に、ビールの造り方についてのページを紹介。
あとで出てきますが、文中でさしている論文は1996年か1997年のものみたいです。
http://www.blavatsky.net/russian/pebeer.htm
「これはイイ記事」と思ったので、以下、下半分の部分をてけとう翻訳しますよ。
注)てけとうなので間違いや抜けの責任は持てないよ、多分もっといい翻訳をしようとすれば出来る。間違ってたら指摘よろ。
学者たちは、エジプト人がビールを醸造した方法を確信していない。いくつかの神殿の壁画では、ビールは、水の中でパンを崩れさせ、もみがらに泳がせて(?)、イーストでパンから発酵することによって作られたと載っている。 しかし、イギリスのケンブリッジ大学の研究者たちは、今、エジプトの墓から発見されたビールの残りと、乾燥したパンの塊から、B.C 2000年頃の、知られているよりはるかに精巧な醸造のテクニックに関する証拠を見つけた。
ケンブリッジの考古学のリサーチ員であるサミュエル博士(Delwen Samuel) は、今日のサイエンス誌で発表されたレポートで、「古代のエジプトのパンとビールづくりに関する現在の概念は、変更されるべきです。」と、語った。ビールの残りを顕微鏡で分析したところ、より入念な進行中の過程を示した。料理されたものと料理されていないモルトを水とあわせ、殻の無い精製された液体を作り出していた。
サミュエル博士が結論づけた残りのミクロ構造は「近代的な穀物食物のものと同様だった」。
付随の記事では、イギリスのシェフィールド大学の研究者、ジョーンズ博士(Glynis Jones)は、調査結果が 「古代の穀物加工技術に関する、最初の科学的な証拠」であると言いました。
古代エジプト人が、来世での暮らしのため墓に食物とビールを入れる習慣だったため、研究は可能だった。そして、乾燥した気候で、それらは保存されて現存する。サミュエル博士は光学と顕微鏡を使い、労働者の村の跡の中で、200以上の陶製の器に残されたビールの残りから、およそ70のパンの塊を見つけた。
パンはたいていの場合、コリアンダーで風味を添えられたエンマー小麦から作られた。また、大麦(以前に思われるとしての大麦だけでない)も醸造に使用された。
ビールの残りから、調味料は全く検出されていない。
でんぷん粒の分析は、エジプト人が軽く焼かれたパンを醸造のメイン材料として使用しなかったのを特に示した。代わりに彼らは、2つのパートに分かれたプロセスでビールを醸造している。麦粒は、糖分と風味を提供するために故意に発芽させ、加熱された。この前準備によって、麦はでんぷんを糖分に変換する酵素により影響されやすくなる。この麦は加熱していない麦粒と水の中で混ぜられた。イーストは砂糖とでんぷんの組み合わせに加えられ、これらは、ビールを作るために発酵された。
今年のはじめ、サミュエル博士とバリー・ケンプ博士(Barry Kemp)は、イギリスの醸造所とケンブリッジ大のコラボレーション企画において、この最近の研究から推論されたレシピを使ってエールを醸造した。出来上がった飲み物は、わずかに濁った金色だった。
「私が以前試したことがあるどんなビールの味でもない。」と、サミュエル博士は言う。「とても豊かで、ちょっとシャルドネを思い出すくらい、非常にメルティ&フレーヴァーなカンジの風味ね。」
たぶん、古代エジプト人はビール好きと白ワイン好きたちの両方を喜ばせる方法を見つけたのだろう。
***
Delwen Samuelさんの経歴はこんな感じ
論文 ★PDFです
「サイエンス」に掲載されたもの
Investigation of ancient Egyptian baking and brewing methods by correlative microscopy.(1996)
「SGM Quarterly」に掲載されたもの
Fermentation technology 3,000 years ago - the archaeology of ancient Egyptian beer.(1997)
(注:5.5Mあります。DLに時間がかかる)
ほか、面白そうな論文がたくさんあります。
いい仕事してますね!
http://www.ancientgrains.org/html/delwen_s_papers.html
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と、いうわけで、キリンビールのサイトで「従来の説と新説」として比較されている、このページの内容で、提示されているものは「従来の説」ではないようです。
その説は違っていたようだ、と、既に否定する論文がその前に発表されているわけなんだから…。
で、新説とされているものも、まったくの新説ではない。その論文に載っているものとほぼ同じ。
ただ、サイエンスに掲載されていた論文についていた醸造過程の図と、キリンのサイトに載っていた図は全く同じ過程ではないみたい。
ケンブリッジ方式に近いのは「古王国時代」として表記されているほうの図。出来上がったビールの色が「やや濁った金色」であることからも、こちらの方法は上に提示した論文で触れられているものと同一と思われます。
ただ、図のタイトルに「New kingdom」とついてるとおり、サミュエル博士の研究の想定では、これが新王国時代のエジプトビールの作り方だったようで。
と、いうわけで、キリンのサイトで提示されていた下の図でいう「新王国時代の製法」というのがまだ未確認です。
サミュエル博士の論文をもう少しきちんと読まないと、なのだけれど、デュラム小麦とサワードウを使った製法が見つからない。
それと、Japan Timesの過去記事に載っていた「Kirin re-creates beer of ancient Egypt(2004)」に、「元にしたのは新王国時代の壁画」と書かれているところからして、早稲田大が再現したのは、この新王国時代の製法だけじゃないの?
他にも何か下地になっている研究がありそうな気がするんで探してみますよ。
と、いうわけで、ここまでのまとめ。
まだまだいくよ~
>>つづき
ちょこちょこと調べるはずだったのに、なんだかえらい大層な研究がぞろぞろ出てきて手に負えなくなってきた件(笑)
古代の食物の再現なんて、壁画の絵だけから何の下調べもなくひょいと再現出来るレベルの話ではないと思う。ほかに「学術的な研究」という下地があってはじめて出来た実験なのに、その下地の部分を隠して、あたかもイチから自分たちがやりました的なニュアンスで書いてるから何か胡散臭さを感じるんだろうなと、ふと思った。
論文や研究発表が存在しないのは、古代エジプトのビール製法についての新説を思いついたのは吉村教授ではないし早稲田大が最初でもないからなんじゃ…。
ま、それを検証するのが元々の目的なのですが。
********************************
まずは適当に、ビールの造り方についてのページを紹介。
あとで出てきますが、文中でさしている論文は1996年か1997年のものみたいです。
http://www.blavatsky.net/russian/pebeer.htm
「これはイイ記事」と思ったので、以下、下半分の部分をてけとう翻訳しますよ。
注)てけとうなので間違いや抜けの責任は持てないよ、多分もっといい翻訳をしようとすれば出来る。間違ってたら指摘よろ。
Scholars have not been sure how the Egyptians brewed their beer. In some temple art, it appeared that beer was made by crumbling bread into water and letting it ferment by yeast from the bread, yielding a coarse liquid swimming with chaff. But a researcher at Cambridge University in England has now examined beer residues and desiccated bread loaves from Egyptian tombs and found evidence of much more sophisticated brewing techniques in the second millennium B.C.
学者たちは、エジプト人がビールを醸造した方法を確信していない。いくつかの神殿の壁画では、ビールは、水の中でパンを崩れさせ、もみがらに泳がせて(?)、イーストでパンから発酵することによって作られたと載っている。 しかし、イギリスのケンブリッジ大学の研究者たちは、今、エジプトの墓から発見されたビールの残りと、乾燥したパンの塊から、B.C 2000年頃の、知られているよりはるかに精巧な醸造のテクニックに関する証拠を見つけた。
In a report being published today in the journal Science, Dr. Delwen Samuel, a research associate in archeology at Cambridge, said "the current conceptions about ancient Egyptian bread and beer making should be modified." A microscopic analysis of beer residues, she said, indicated a more elaborate brewing process, blending cooked and uncooked malt with water and producing a refined liquid free of husk. The microstructure of the residues Dr. Samuel concluded, "is remarkably similar to that of modern cereal foods."
ケンブリッジの考古学のリサーチ員であるサミュエル博士(Delwen Samuel) は、今日のサイエンス誌で発表されたレポートで、「古代のエジプトのパンとビールづくりに関する現在の概念は、変更されるべきです。」と、語った。ビールの残りを顕微鏡で分析したところ、より入念な進行中の過程を示した。料理されたものと料理されていないモルトを水とあわせ、殻の無い精製された液体を作り出していた。
サミュエル博士が結論づけた残りのミクロ構造は「近代的な穀物食物のものと同様だった」。
In an accompanying article, Dr Glynis Jones, a researcher at the University of Sheffield in England, who studies cereal-processing methods, said the findings were "the first real scientific evidence for the ancient brewing techniques."
付随の記事では、イギリスのシェフィールド大学の研究者、ジョーンズ博士(Glynis Jones)は、調査結果が 「古代の穀物加工技術に関する、最初の科学的な証拠」であると言いました。
The study was possible because It was the practice of ancient Egyptians to leave food and beer in their tombs for sustenance in the afterlife and the arid climate preserved those remains. Dr. Samuel examined with optical and electron microscopes nearly 70 loaves of bread from several sites and beer residues from more than 200 pottery vessels found among the ruins of workers' villages.
古代エジプト人が、来世での暮らしのため墓に食物とビールを入れる習慣だったため、研究は可能だった。そして、乾燥した気候で、それらは保存されて現存する。サミュエル博士は光学と顕微鏡を使い、労働者の村の跡の中で、200以上の陶製の器に残されたビールの残りから、およそ70のパンの塊を見つけた。
Almost all of the bread was made from a type of wheat known as emmer, sometimes flavored with coriander and fig. Both emmer and barley - not barley alone, as previously thought - were used for brewing. No flavorings have been detected in the beer residues.
パンはたいていの場合、コリアンダーで風味を添えられたエンマー小麦から作られた。また、大麦(以前に思われるとしての大麦だけでない)も醸造に使用された。
ビールの残りから、調味料は全く検出されていない。
An analysis of starch granules, in particular, showed that the Egyptians did not use lightly baked bread as the main ingredient in brewing. Instead, they seemed to use a two part process. The grains were deliberately sprouted and heated to provide sugar and flavor. The cooking made the grain more susceptible to attack by the enzymes that convert starch into sugars. This batch was then mixed with sprouted but unheated grains in water. Yeast was added to the combination of sugar and starch in solution, and this fermented to make beer.
でんぷん粒の分析は、エジプト人が軽く焼かれたパンを醸造のメイン材料として使用しなかったのを特に示した。代わりに彼らは、2つのパートに分かれたプロセスでビールを醸造している。麦粒は、糖分と風味を提供するために故意に発芽させ、加熱された。この前準備によって、麦はでんぷんを糖分に変換する酵素により影響されやすくなる。この麦は加熱していない麦粒と水の中で混ぜられた。イーストは砂糖とでんぷんの組み合わせに加えられ、これらは、ビールを作るために発酵された。
Earlier this year, Dr. Samuel and Dr. Barry Kemp, a Cambridge Egyptologist, in collaboration with a British brewery, brewed an ale according to the recipe inferred from this recent research. The beverage was slightly cloudy with a golden hue.
今年のはじめ、サミュエル博士とバリー・ケンプ博士(Barry Kemp)は、イギリスの醸造所とケンブリッジ大のコラボレーション企画において、この最近の研究から推論されたレシピを使ってエールを醸造した。出来上がった飲み物は、わずかに濁った金色だった。
"It does not taste like any beer I've ever tried before," Dr. Samuel said. "It's very rich, very malty and has a flavor that reminds you a little of chardonnay."
Perhaps the ancient Egyptians had found a way to please both beer drinkers and the white wine crowd.
「私が以前試したことがあるどんなビールの味でもない。」と、サミュエル博士は言う。「とても豊かで、ちょっとシャルドネを思い出すくらい、非常にメルティ&フレーヴァーなカンジの風味ね。」
たぶん、古代エジプト人はビール好きと白ワイン好きたちの両方を喜ばせる方法を見つけたのだろう。
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Delwen Samuelさんの経歴はこんな感じ
論文 ★PDFです
「サイエンス」に掲載されたもの
Investigation of ancient Egyptian baking and brewing methods by correlative microscopy.(1996)
「SGM Quarterly」に掲載されたもの
Fermentation technology 3,000 years ago - the archaeology of ancient Egyptian beer.(1997)
(注:5.5Mあります。DLに時間がかかる)
ほか、面白そうな論文がたくさんあります。
いい仕事してますね!
http://www.ancientgrains.org/html/delwen_s_papers.html
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と、いうわけで、キリンビールのサイトで「従来の説と新説」として比較されている、このページの内容で、提示されているものは「従来の説」ではないようです。
その説は違っていたようだ、と、既に否定する論文がその前に発表されているわけなんだから…。
で、新説とされているものも、まったくの新説ではない。その論文に載っているものとほぼ同じ。
ただ、サイエンスに掲載されていた論文についていた醸造過程の図と、キリンのサイトに載っていた図は全く同じ過程ではないみたい。
ケンブリッジ方式に近いのは「古王国時代」として表記されているほうの図。出来上がったビールの色が「やや濁った金色」であることからも、こちらの方法は上に提示した論文で触れられているものと同一と思われます。
ただ、図のタイトルに「New kingdom」とついてるとおり、サミュエル博士の研究の想定では、これが新王国時代のエジプトビールの作り方だったようで。
と、いうわけで、キリンのサイトで提示されていた下の図でいう「新王国時代の製法」というのがまだ未確認です。
サミュエル博士の論文をもう少しきちんと読まないと、なのだけれど、デュラム小麦とサワードウを使った製法が見つからない。
それと、Japan Timesの過去記事に載っていた「Kirin re-creates beer of ancient Egypt(2004)」に、「元にしたのは新王国時代の壁画」と書かれているところからして、早稲田大が再現したのは、この新王国時代の製法だけじゃないの?
他にも何か下地になっている研究がありそうな気がするんで探してみますよ。
と、いうわけで、ここまでのまとめ。
ディオドロスの書いた話から再現した古代エジプトのビールは、原始的ですっぱくて口噛み酒のような味になってしまう。しかし、それに疑問を抱いたケンブリッジ大学の学者たちが神殿や墓の壁画から再現した別の方法では、ワインに似た風味の酒が出来ることが分かっている。
また、キリンビールのサイトに載っていた「新説」のうち「古王国時代の醸造法」については、1996年にDelwen Samuel博士によって報告されている内容とほぼ同一なので、新説ではないが内容的にはデタラメではない。ただし、Delwen Samuel博士は、この製法を新王国時代のものとしている。
まだまだいくよ~
>>つづき