エジプトって墓以外に何かあんの? と聞かれたから。

「墓は沢山あるけど、一般人の住居なんかはあんまり出て来ないらしいよね」… いやまあ、うちら子供の時の本だとそう書かれていた気もしますが。最近はだいぶ状況も変わってましてですね。というお話。

 "古代エジプトについて、一般人の家や生活については分かっていないのか?"

「永遠の家」である墓以外のものは石ではなく日干しレンガで造っていたために現在まで残っていないか、保存状態が悪い。というのが、おそらく良く言われる答えだと思うのですが、その回答では不十分だと思います。
と、いうわけで、エジプトネタで庶民の話があまり聞かれない理由について自分なりに、このへんじゃないのかというのを挙げてみます。


● 金目のものが出てこない遺跡が発掘されるようになった歴史が短い

ツタンカーメンが発見された頃まで、エジプトでの発掘は宝探しでした。発見したものは発見した人のもの。財宝目当て、金目のもの以外は興味なし。
なので発掘をする人たちも王の墓やピラミッド、金銀財宝の出てきそうな裕福な人の墓を暴くことに集中していて、財宝が出て来る可能性の低い一般人の墓やガレキの山である住居跡には目もくれなかったのです。一般人の集落跡や、金銀財宝が出てくるわけではない小さな神殿跡などはほとんど調査されないまま放置されてきた過去があります。

また、発掘にはお金がかかります。
ぶっちゃけて言うと、今でも、儲からない発掘には専門家もノリ気じゃないケースがあるんでは…?

現代の考古学者にも「何か発見するとエライ」みたいな考えの人がいるようです。豪華なもの美しいもの、世の中に成果をアピールしやすいものが見つからない地味な発掘は避けられる傾向にあるかもしれません。「かもしれません」と言ったのは、考古学業界のことは知らないから。知らないけど、そう考える人がいても不思議じゃない。

ツタンカーメンの墓を再調査します! なら、何も言わなくてもスポンサーが嫌ってほど付きそうですが、誰も聞いたことの無いような遺跡を発掘する場合、たとえ見つかったものがそう素晴らしいものではなくても、何か見つかったらすげー世界的な大発見みたいに報道してもらってスポンサーを言いくるめるような、或いはその遺跡がさも素晴らしいものであるかのように喧伝するような、そんな小細工が必要かもしれませんよね。大人の事情ってやつです。



● 報道されない/されても扱いが小さいので記憶に残らない

最近では、一般人の住んでいた町や村、遺跡も発見されてはいます。ただ、王の墓やミイラ、財宝が見つかったわけではないから、テレビニュースや新聞で大々的に報じられることはないようです。
何か派手なものが見つかったらそれを報道しとけばいいわけで、一般人ウケしない地味なものはあまり表に出てこない。というわけで、見つかっていないように感じられるだけかもしれません。

あと日本のマスコミのいかんところは、早稲田と吉村作治が絡まないエジプトネタを流さないところ(笑)
あれじゃ、早稲田発掘隊以外の発見はすべからく無き者にされてるのと同じことだ。マスコミの役目は提灯持ちじゃないと思うんですがね?



↑ここまでダークな理由
↓以下は表向き言われやすいであろう普通の理由


● ナイルの氾濫で、昔の遺跡が分厚い体積土の下になっている

アスワン・ハイ・ダムが出来るまで、ナイルは毎年、定期的に氾濫を起こしていました。なので、ナイル下流地域は何千年も運ばれ続けた分厚い体積土の下に埋もれています。ナイル下流の川沿いは、まず遺跡があるんだかどうなんだか、何メートルも掘らないと分からない…。
今までに古代の町が発掘されている場所の多くは、ナイルの氾濫の影響を受けていないオアシス地帯や上流の内陸などのようです。

ナイルのもっと上流になると、アスワン・ハイ・ダムが出来たときにダム湖の下に沈んでいる場合がありますが…
なにぶん何千年も昔の遺跡なので、全てが残っているはずもなく、時を越えて見つかることは大変な幸運なのでしょう。



● 昔、人が住んでいたところに今も人が住んでいるから、古代の町は発掘しにくい

テーベもメンフィスも、今も人が住んでいる場所です。ほとんどの遺跡は村や町のド真ん中。
ローマ支配の時代に栄えた港町、アレキサンドリアなどは、海に沈んだ部分を除けば今もそのまま人が住んでいるので、発掘は困難。(アレキサンダー大王の墓が簡単に見つからないのも、エジプトに墓があるとすれば市街地の下になっているからだそうな。)
なので発掘が難しい。日本で言うと奈良京都みたいなもの。道路工事や水道管工事の最中に遺跡が見つかったりしてます。



● 遺跡が軍事施設の近く or 中にある

砂漠の中に、陸軍基地があったり、大砲ぶっ放してる演習場があったりするんですね。
その近くで発掘をすることが困難でして。運悪く遺跡が立ち入り禁止区域にかかってるとどうにもならないです。




理由としては、このくらい挙げればだいたいどれかに当てはまるのではないかと。

エジプトの場合、古代の遺産が国の宝だと認識されるようになるまでの発掘の歴史は、イコール「公認盗掘の時代」と言ってもいい。盗掘と学術的な発掘、宝探しと考古学は違う。盗掘者は分かりやすい価値のあるものしか求めない。古代人の生活なんかどーでもいい。
古代の人々の暮らしが残っていなかった…よりも、興味がもたれるようになってからの歴史が浅いから、ピラミッドや王の墓に比べてデータが少ないように思えるというのが一番大きな要因のような気がします。

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