第六王朝の王たちは「歴史に忘れられた」? 確かに記録は残っていないが。

ディスカバリーチャンネルの番組「歴史に忘れられたファラオ」を録画してじっくり鑑賞。
めっさじっくり鑑賞。
相変わらず再現VTRに金かけてて良い出来です。なんかファラオ村のキャストの皆さんにしか見えないですが…。(ウシとか。)

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で、タイトルの「歴史から消されたファラオ」ってのが誰かと思ったら第六王朝のウセルカラー王なのだそうで。
中身見るまでスメンクカーラーのことだと思ってたよ、そうきたか。

ただし、番組内容はウセルカラー王の時代に王の側近を勤めた神官、ハウ・ネフェルの生涯とその墓の発掘について。古王国時代、第六王朝の王様。そして王様は序盤のちょこっとしか関係ない。
ハウとその一族の墓が破壊されていること、第六王朝の王たちの墓(=ピラミッド)のうち4つが残っていないこと、王位の継承の際に暗殺などキナ臭い陰謀があったとされること…から、「何者かが王の痕跡を消そうとしたのではないか」と仮定して話が進んでいく。

4つのピラミッドというのも「? どれだっけ」だし、出てくるものは間接的な、証拠とも言えないような証拠ばかり。陰謀や暗殺を仮定を前提にして話を進めるのは微妙すぎる…。

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想像力は大事だが、何の手がかりも掴まないうちから空白に絵を描いて「私はこう思う」と口に出して語るのは、単なる空想であることを知るべし。


ウセルカラーのピラミッドないし墓がみつかっていないのも、記録が少ないのも、誰かに意図的に消されたからとは限らない。単に在位が短すぎただけじゃないのか。 同じように短命に終わった王といえばクフ王の息子が思い浮かぶけど、彼の場合はピラミッドを作る場所をきめて測量して穴を掘ったところで終了していた。わずか数年じゃあピラミッドの土台部分だけしか作れませんよ…。そら埋もれて見つからなくなりますよ。

ハウの墓が略奪されているからウセルカラーのいた時代は不安定だった! という話の進め方も微妙。
他の人も墓も略奪はされているわけだし、個人墓といえど無傷の墓なんてほとんど出てこないだろうに。壁の碑文が削られてる? ハウの一家に個人的な恨みがあった可能性は? 王名のカルトゥーシュだけ削られてるとか、王の名前がすげかえられてるとかがあってはじめて「誰かに消された」まで言っていいと思う。無理やりミステリーに結び付けなくていいよ。



ただし、ウセルカラーの生きていた時代が、暗殺の危険のある時代だったのは事実。
その前後の王はいずれも暗殺の危機に晒されている。

<第六王朝の系譜>

テティ1世 ←暗殺により死亡

ウセルカァラー ←短命に終わり数年で死亡

ペピ1世 ←暗殺計画が立てられるが阻止、犯人の裁判記録あり
        メンフィスという地名はこの王様の壮麗なピラミッドが語源

メルエンラー ←なんらかの原因で急死

ペピ2世 ←古代エジプトの歴代王の中で最も長命。100年近く在位したバケモノ
かつては100歳近くまで生きたという説があったが、即位年齢が6歳前後と推測されているため、実際の死忘年齢は70歳すぎくらいとする説が有力。6歳で即位→64年在位→72歳で死亡。

(メルエンラー2世) ←孫ほどの年齢だった息子(?)、短命に終わる
              暗殺されたという後世の伝承もあるが証拠は無い

(ニトクリス女王) ←王位を継げる男子がいなかったため即位
*本来の名前は不明 
※のちに伝説のみで存在しないというのが定説に

 ↓ ↓ ↓

第六王朝とともに古王国時代は終了、時はまさに世紀末な乱世の時代(第一中間期)へ。
のちに、王を自称する諸侯の中から突出する人物がテーベに現れ、全国制覇。


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[2017/10/8追記]
王名表は研究が進むと書き変わっていくので最新データはこのへんとか参照
http://www.moonover.jp/bekkan/chorono/index-old.htm
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…でも、それが王の短命の原因だったかどうかはわからんのだよな、、
この王朝、ペピ1世も2世もえらい長生きしていて、ペピ2世などは現代人以上に長生き。暗殺が跋扈するような危険な時代だったにしては平均寿命は普通だったり。
エジプト王家での暗殺ネタなら一般人の食いつきがいいのは解るが、暗殺されたことを前提におどろおどろしいBGMなんか流されると、私なんぞは逆に「ああ、なんの証拠もないのに言ってるんだな」と思ってしまう。(笑)


そして、神官ハウ一家の家庭内不和については、完全に濡れ衣…
墓の内部に刻まれた家族の像が削られているからといって、何の証拠もないのに「きっと長男でしょう」「父と同じ名を持つ長男ハウは、妹である長女が家庭の中心になって快く思わなかったハズ」とか言い出しますよこの番組。余計なお世話だ。 墓を荒らした上、そんな適当なこと言わないで下さいよ。ハウさんはきっとそう思ってるはずだ。

故人には「xxに仕えしもの」のような肩書きがつけられるから、神官ハウさんの奥さんがハトホル女神の巫女だったのは、墓の肩書きを見れば解るだろう。ハウの娘にも同じ肩書きがついていたなら、その位を継いだことは予測できる。
でも長女の絵だけが傷つけられていたことについては、傷をつけた犯人は名乗らないのだから、誰がやったかわからないでしょ…。番組が勝手に捏造したのか、何か番組では出さなかった証拠があったのかわからないけど、こういう論の飛躍やワイドショー的な勘ぐりは全くもって好きではない。先入観や思い込みは、当然見つかるべきものを見逃す原因になってしまう。



まあ、そんなわけで、映像と音楽はとてもよかったのですが、内容はかなり微妙。
いいネタのはずなのに料理方法を間違えて安っぽい特番みたいな出来に…。

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言いたいことはわからんでもないが、もっと調査して信用できる証拠や調査を整然と並べるべき。また「可能性」と「事実」は混同しちゃダメ。少なくとも再現可能性のない古代の出来事や証明することの出来ない人間の感情などは断言すべきではない。



** めも *******************************************************

発見者はフランスの考古学者 ヴァシール・ドブレフ
墓の発見ニュースが流れたのが2003年4月24日
(フランスチームのサッカラでの発掘開始は2000年9月、サッカラ南西の発掘は2002年10月に開始)

神官ハウ・ネフェルは英語だと priest Haw Nefer か Hau-Nefer ですが、これで検索すると2006年に捕まった墓泥棒の話ばかりヒットします。さすがに2003年の記事はネットではほとんど無い。
個人サイトやブログ記事が何件かヒットしましたが、どれもウセルカラー王に言及していなかったのが謎。
当時どういう報道のされ方をしたのだろうか。

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あともう一つ。
測量と数学の女神で、知恵の神トトの妹または妻として扱われるセシャトについて、「王妃がセシャトの役をする」という映像が流れていたんだけど。

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ピラミッド建設の前にセシャト女神に祈りを捧げるという話は知っていたけど、王妃が女神の役をやるというのはソースが不明。見たことが無い。これは調べねばねば!

実際は女性の書記はいなかったはずなのにも関わらず、セシャト女神は書記の女神として高位神官の印であるヒョウの皮を纏うから、実際にそういう儀式があったとしてもおかしくはない。が、女性神官ではなく「王妃が」その役目をするとか、役割を果たすために「実際にヒョウの皮などをまとってコスプレする」というところまで具体的に言われるからには、何か根拠がなくてはならない。


ちなみに、人間が神のコスプレをして役目をなぞる儀式は他に、即位の儀式で王がホルスになりきってセトに見立てた動物を倒すとか、ミイラ作りの際に職人がアヌビスに扮するとかいうのがある。それと同じような儀式としてセシャトになりきったのなら、王妃にはある程度の建築と数学の知識が求められたはずだ。最低でも、測量機器の使い方は知っていたはず。でなければ、最初の測量を行うというセシャト女神の役割は果たせない。

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