写真のない時代の女装騎士 シュヴァリエ・デオンの数奇なる人生

「女装の剣士シュヴァリエ・デオンの生涯」という本がある。

何年か前になるが、WOWWOWで「シュヴァリエ」というアニメを放映していた。フランス革命前夜、黒魔術、王家の秘密… 姉の死の真相を追う主人公、騎士デオン(騎士はフランス語で"シュヴァリエ"という)が、やがてフランスを揺るがす真実へと導かれていく、壮大なストーリーだ。

この物語の主人公になっているデオン・ド・ボーモンは、ルイ15世の時代に実在した。劇中に登場する、王直属の密偵部隊である「王の機密局」も実際にルイ15世が設立したもので、デオンは一時期、そこに所属して活動していた。そして女装でロシアの女帝に仕え、男性としてイングランドで外交生活をし、さらに女装で本国に帰還する―― 生涯の半分を男装、もう半分を女装で生き、彼が男のなのか女なのかで賭け勝負まで成されたほどだというから、まさに真実は小説よりも奇なりである。


と、いうわけで、本屋でこの本を見つけた時は、このアニメのことを思い出していたのだった。


史実のデオンには姉はいなかったが、妹はいたらしい。リアという偽名を使い、密命を帯びて女装でロシアへ行ったのは事実。ただしその時エリザヴェータ女帝に差し出されたのは空の宝石箱ではなく二重に細工された本。(この本がアニメの"王家の書"のイメージにつながったのかも?)

またドレス姿でのフェンシング試合というのも、アニメならではの無茶かと思ったらほんとにやってたから笑ってしまった。しかもそれで当代きっての名うての騎士に勝てたのか。アニメでは軟弱者なのに史実のほうが主人公らしいじゃないか、デオン(笑)

だがしかし、史実のデオンは性格が悪かった…。

テラゴリーやデュラン(彼らも実在した)といったアクの強いキャラに囲まれて軟弱気味に仕上げられていたアニメのデオンと違って、史実のデオンは一人で突っ走り周囲を置いてけぼりにする。職務に忠実ではあるが、果たした役割に十分に報いられていないし感じるとしたんにキレて暴れだす。
友達は多いが親友はいない。いないっていうか手加減なしでツッコミ入れて関係を壊し、一度破綻した関係は二度と修復されない。
女にモテるけど興味なし。
男にもモテるけど興味なし。
他人は愛するものにあらず、利用するものと心得たり。

―…ここまで来ると、確かに少々やりすぎのきらいがある。
優秀なんだけど、自信満々過ぎるのかもしれない。


人間として、あまり好きになれるタイプでないことは確かだが、アニメを見た後で、その"原作"としての歴史を辿るぶんには、奇妙な女装癖も、自意識過剰なところも、「報復」にやたらとこだわるところも、許せるはずだ。(きっと最愛のアンナを失って精神的にアッチに逝っちゃったんだよ。と自己解釈)
何よりこの人は、無茶苦茶やってるけど愛国心は人一倍なのだ。
「フランスのために」やってたはずなのに、そのフランスが解体され、革命によって王家が無くなってしまうという皮肉な運命。時の流れの中で起こったことは確実に一つだけだが、それによって人の感情に何が引きこされたかは証明することはできない。デオンの生涯をどう捉えるかは、解釈次第だろう。

アニメは、伏線の回収とストーリー中盤の進行、エンディングに難在りという感想だったが、画面は美麗、音楽もすばらしく、及第点といったところだろう。設定についても、史実と違うという野暮なツッコミさえしなければ、よく練りこまれている。ポンパドゥールやプラスラン、ブロリーといったヴェルサイユの人々だけでなく、デオンが最後に同居人として選ぶ(イングランド王妃とは別人だが)メアリーや、サンジェルマン伯爵まで実在の人物をモデルにしているとは思わなかった。デオンに絡む人物を総決算で詰め込んだ感じだ。
まあそのお陰で、人数多すぎてそれぞれの立ち位置がわかりにくかったのがマイナスだが…。


WOWWOW放送は終了しているが、バンダイチャンネルでは有料で見られる。一話目は無料。美麗なグラフィックで描かれるヴェルサイユ宮殿を見てみたい人はどうぞ。



女装の剣士シュヴァリエ・デオンの生涯
白水社
窪田 般弥


Amazonアソシエイト by ウェブリブログ




…しかしまあ、写真のない時代で本当に良かった。
…写真で見たら、30代以降のデオンの女装はキツいものがあったやもしれん…。

この記事へのトラックバック