「ピラミッド・パワー」を巡る歴史と考察 オカルト叩きじゃないから、ちょっと話を聞いていけ

ふとしたことで人と話していて、私がピラミッド・パワーについて認識していることが全く異なっていることに気がついた。見解の相違なのか、どれかがデマなのかが解らなかったので、とりあえず調べてみることにした。

その人いわく「Wikipediaがソース」とのことなので早速、検索してみることに。


Wikipedia 日本版の情報(本日時点での情報)

ピラミッドパワー(pyramid power)とは、ピラミッド形の物体に宿っているとされる、不思議な力のことである。

1930年、エジプトのギザにあるクフ王のピラミッドを見学していたアントワーヌ・ボビーが、ピラミッド内に残された死骸が脱水状態であることに不審を抱いて、再現実験を行ったのが最初と言われる。

腐敗を防いだり、精神を集中させて悟りを開いたり大幅に頭の回転が速くなったりさせるといった効果があるとされているが、科学的根拠が無いため疑似科学の一つと考えられることが多い。充分管理された実験によってピラミッドパワーがはっきりと立証されたことはない。


まあまあ、学者の見解に吉村さんがいるのはご愛嬌として。(トンデモ学者よりひどいこと言ってるなこの人…)


おいらの持ってる情報はこれ。

1949年、チェコスロバキアのプラハに住んでいたカルル・ドラバル(Karel Drbal)さんが特許申請をしたことから話が始まる。それは現在言うような"ピラミッド・パワー"に関するものではなく、大ピラミッドの千分の一模型を作り、その中に磨耗したカミソリの歯を置くと切れ味が良くなるという「剃刀歯の保存再生装置」だった。
当初は却下されたが、実験データなどを重ねて1959年についにプラハ特許庁が特許ナンバー91304(※)でこの申請を受理。始まりは「剃刀の刃」しか再生できないピラミッド模型だったのに、評判が広まるにつれ、いつのまにか、中に置いたものが腐らない、体や精神を癒す等の効能が付け加えられていった。また、当初は、「大ピラミッドの」厳密な模型しか効果はないとされていたのに、そのうちピラミッド型の枠ならなんでもいい、というように改変されていった。
ブームは1970年代に頂点に達し、日本でもピラミッド型のフレームが販売され人気を博すに至った。



で、時代的には1930年のアントワーヌ・ボビーのほうが古いけど内容がよくわからんなと思いつつ念のため英語のWikipediaも見てみると。


Wikipedia 英語版(本日時点での情報)

The term pyramid power was coined by Patrick Flanagan in 1973, to describe alleged supernatural properties of the ancient Egyptian pyramids and scale models thereof.

Pyramid power is one of the several alternative theories regarding pyramids, commonly referred to as pyramidology.


1973年、Patrick Flanagan(パトリック・フラナガン)さん…また別の名前出てきたぞな。
しかしこれは私も知っていた。1970年代のピラミッド・パワーのブームに火をつけた仕掛け人の一人ですね。
ただ、時代は後なんですが、この人のやってることはカルル・ドラバルさんの想定したピラミッドの効果・効能ではない。


それぞれを適当に検索してみると、意外なことが判明。

・1930年のフランス人というのは旅行者。ピラミッドの中で干からびていたネコの死体(ミイラではなく迷い込んだネコのものらしい)を見つけてピラミッド・パワーを思いついたらしい

・その当時に何か研究されたり実験された結果というりが見当たらなかった

・「ピラミッド型の模型を使えばモノが腐らないよ!」という現在知られているピラミッド・パワーに関する迷信は、上記のフランス人旅行者の男性が発見した「腐っていないネコの死体」から来たものらしい。ピラミッド・パワーに関するグッズ販売やオカルトサイトを作っている人の多くがこの話に触れていた

・ピラミッド装置で特許申請をしたカルルさんは、チェコスロバキアで話題になったピラミッドの持つ「モノを腐らせない」という話にヒントを得ている。ちなみにカルルさんはふつーの無線技師で学者などではない

・カルルさんの特許は特許なのでとても細かい。効果のあるピラミッド模型のサイズはいくらだとか、傾きはこの誤差範囲内にしろだとか書いてあって、「カルル方式ピラミッドの作り方」というサイトやペーパークラフトまであってお茶吹いた。これはこれでアリかもしれない。


さすが英語圏は情報が山盛り転がっているので、とても追いきれませんでしたが、少し事情が見えてきました。
つまりこういうことではないんでしょうか。

 「ピラミッド・パワーは、そのパワーに何を期待するかによって説明文が異なる」


最初のピラミッド・パワーは、古代エジプトに関する知識がなかったことから生まれた空想上の力でした。

半世紀以上前… エジプトで発見されている多くのミイラについて、正確な知識がなく、「どうやったら何千年も腐らない肉体を作れるのか」を人々が知らなかった時代、肉体が腐らない理由を、遺体処理の技術や化学薬品ではなく"ピラミッドの持つ神秘的な力"に帰属させた。つまり、内臓を取り出して丁寧に乾燥させるという現実的な方法ではなくて、ピラミッドの下に遺体をおいておけばミイラになる! みたいなことを考えた。

死体が腐らないというのは最後の審判後に蘇るつもりのキリスト教徒にとっては素晴らしい効能に思えるかもしれないし、精神や肉体の癒し、ひらめきをもたらす、といった効能は、ピラミッドを作った人々が危険な建設現場で命を危険に晒しながら働いていたことについての理由づけにもなります。(剃刀の刃が再生するというのも、ピラミッド建設の作業効率が上がるとかいう連想から来たものかもしれないなあ…。このへんはカルル・ドラバルの著書でも読んでみないとですが。)

1930年の腐らないネコの話はこちらに当てはまりそうです。
ピラミッドの持つ神秘的な力に関する空想や言及は、探せば、おそらく他にも色々あるはずです。古いものはギリシャ・ローマの時代とかからね。


しかしのちに、ミイラの作り方がある程度わかってきて何千年も昔のミイラが残っているのは神秘的な理由からではないのだとなると、ピラミッド・パワーに対する「現代人の」信仰は変化する。ミイラ作りに必要ないのだとすると、他に巨大なピラミッドを作る理由が思い当たらない。でも「ピラミッドは、古代人にとってめっちゃスゴい力を秘めていたはずだ」。
そこで、モノを腐らせないだけでなく、肉体や精神に癒しを及ぼす力を持つというように考えを広げていく…。

この時点で、「ピラミッド・パワー」という言葉の意味は、"ピラミッドに対して古代人が期待していたor 利用していた効果"から、"現代人が期待し、証明しようとする効果" へと変化します。考古学や宗教学の世界から、オカルトないし個人の独自信仰の世界へ。

これが1970年代にブームを起こしたピラミッド・パワー。現在も言われているところのピラミッド・パワーの意味は、大半がこちらと思っていいかと。根底にあるのは古代人の世界の概念ではなく現代人の世界の概念なので、ピラミッド模型が精巧なものである必要も、そもそもピラミッドについての知識さえなくても、別にかまわんのです。精神的な癒しの大半は気持ちの問題なので、強い思い込みさえあればいい。


…ふむ。こんなところでしょか。
と、いうわけで、このネタは、これはこれで調べてみると色々楽しいことが出て来そう。だいたい「ネコが腐ってない」だけでピラミッド・パワーなんて評判になるわけがないし、それだけなら「普通に乾燥した死体」だと誰かがツッコむだろうし、1930年のアントワーヌ・ボビーの思いつきの時点で何かがあったんでしょう。

オカルトの影に研究と理解の歴史あり、か。


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※特許ナンバー91304

ナンバーが資料によって違っていたけど、「Patent File Number 91304」なので91304が正しい。

ちなみにドラバルさんが出したピラミッド特許の内容は、こんなかんじだ。

超面白いので英語が若干なりとも解る人、または自動翻訳できる人は是非とも読んでいただきたい。「ジョークRFC」に匹敵する面白さだ。(褒めてるのか?)

「実験に使用したブランドは、チェコスロバキアで作られた"Dukat Zlato"である。」とか、妙に細かいのが面白い。

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