トゥールのグレゴリウス「歴史十巻」(フランク史)

トゥールのグレゴリウス、とは、トゥールという都市で司教をつとめたグレゴリウスさん。
本名はゲオルギウス・フロレンティウス・グレゴリウス。名門中の名門貴族の出身だ。

歴史十巻は歴史十書とかフランク史とも訳される。主にメロヴィング王朝の出来事を書いているのだが、最初は天地創造や聖書の話からはじまっている。延々と長い前置きが続くようなものなので、何も知らずにこの本を開いた人は(そもそも知らずに開くような本じゃないとは思うが…)、飽きて途中で止めてしまうだろう。

実は彼は目に見える現世の歴史を書きたかったのではなく、「この世の始まりから終わりまで」、いつか来る世界の終末に向けて、自分の生きた荒廃の時代の記録を残したかったらしい。(グレゴリウスにとっては、激動のヨーロッパが終末の世界に至る荒廃と見えていたのだろう)
そのため文書の途中途中に、「世界が始まってからこの時点まで○○年」といった記述が挟まれている。ドラゴンボールで言うところの「ナメック星爆発まであと○分」みたいなものだ。そんな喩え方するなって言われそうだけど。


で、なぜこの本がウチにあるかというと、内容の部分部分に文学資料として使える部分があるから。
グレゴリウスさんが生きていたのが、西暦538年から594年というヨーロッパの歴史が大きく動いたまさにその時代であるということ。トゥールの司教であり、王たちの直接進言の出来る高位の立場であり、この十巻に及ぶ書の大半がその王家の内情・実体に深く関わる部分だったこと。
まず関係するのが「ニーベルンゲンの歌」、「ベーオウルフ」。これは登場人物のモデルとされる人物が記録されている。
次に関係してきそうなのがアーサー王に関係する一連の伝説。アーサー王が死んだのは「539年 カムランの戦い」ということになっているから、ちょうどこのあたりの時代だ。ブリテン島でアーサー王伝説が作られつつあった時代、海を渡ったガリアの地でグレゴリウスさんは著書を記していたことになる。
西ゴートとの国交についても書かれているから、ディートリッヒの伝説についても、その形成される時代背景の資料として使えるのかな…。

ま、そんな感じで、ひとつの文学作品として面白いかは疑問なのだが、描かれた「その時代」を感じ取るにはうってつけという本なのだ。



で、ここから下が自分メモ。
この本の大変なところは、固有名詞が聞きなれた音じゃないってところ。ラテン語なので、ドイツ語・英語・ノルド語などの資料と読み替えなくちゃならんのです。


第三巻(3)
クロイキラック = 「ベーオウルフ」のヒィエラーク/ヒゲラーク 王のこと

これらのことが行われている間に、デンマーク人はクロイキラック(Chlochilaichum)というかれらの王と共に船にのって、海路ガリアへやって来た。かれらは陸地に上陸してテオドリックの王国の一区を荒らし、捕虜を得た。


第四巻(23)
フンという言葉がアジア系の遊牧民族を指す言葉として使われている例。
ここでは「フン族」はアヴァール人のこと。562年、フランク王国に破れたことを指す。

さてクロタール王の死後、フン族がガリアに侵入して来た。シギベルトはかれらに対して軍隊を指し向けた。そしてフン族と戦争が行われ、シギベルトは彼らを破って逃走させた。しかし、その後かれらの王は使者を送ってシギベルトと友情を結んだ。


王妃ブリュンヒルデについて
暗殺されたシギベルト王(グレゴリウスが司教になるのに助力をもらい、忠誠を誓った相手)の妻がブリュンヒルデ。
「ニーベルンゲンの歌」のブリュンヒルデ(ブリュンヒルト/プリュンヒルト)のモデルではないかと言われる人物。
ダンナ暗殺後は王位奪還大作戦をやったらしいが何故かグレゴリウスはそこをぼやかして書いてある。

以前メモした内容


第五巻(15)
エスービー族とサクソン人の争い。
グレゴリウスはスェービーとアレマンネン族を同一に扱っているが、タキトゥスの分類とは異なる。

第五巻(21)
この時代で言うブリトン人=ローマ化されたケルト人。
ブリテン→ブルターニュということは、島のケルトが大陸ケルトと行き来していると理解していいと思う。

当時、厳しい禁欲生活をしていたブリトン人ウィンノックは、イェルサレムへ行こうとしてブルターニュからトゥールへ来た。かれは毛の付いていない羊の皮の衣しか持っていなかった。




歴史十巻〈1〉―フランク史 (1975年) (東海大学古典叢書)
東海大学出版会
兼岩 正夫


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読むことの「意義」を見つけられればこれほど面白い本もないのだが、
西暦6世紀のフランス・イスパニアあたりに用事がない人にとっては全く面白くないかもしれない…

ちなみにグレゴリウスさん上流階級でエリートで超マジメな人らしく、文章は無骨でもギャグや華美な言い回しや面倒くさい喩えなんかは全然無いです。

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