「カッコいいとは、こういうことだ」 アイスランド・サガ的なカッコいいストーリー ~グレティルのサガ~
ヴァイキングをネタにしたマンガで、「ヴィンランド・サガ」というものがある。
現在連載中で、歴史や当時のヴァイキングについてよく調べている作品のようなのだが、一巻と、雑誌で連載していたぶんを見て、自分的に何かが違う、と思った。
登場人物の行動理念がヴァイキングじゃない…
舞台や背景はヴァイキングなんだけれど、登場人物の行動、思考、求めるもの、言動、そういったものが、サガの名を冠する作品としては相応しくないものに思えてしまう。ま、そのへんは個人の好き嫌い、と言ってしまえばそうなのだろうが。
と、いうわけで、自分的に「これをマンガ化したら凄いことになる」と思っている大好きなサガ、「グレティルのサガ」の主人公について、 ”カッコいいとはこういうことだ” を書いてみたい。
「グレティルのサガ」は、アイスランドを主な舞台としたアイスランド・サガの一つだ。五大サガにも数えられる有名どころのサガで、グレトラの愛称で呼ばれる。
主人公の名前グレティルは「しかめ面」を意味する。この男は短気な荒くれ者であり、腕っ節は強いが口が悪く、それなのに何故か愛されているのである。
物語は主人公グレティルが生まれる前、曽祖父エヌンドがアイスランドへ移住してくるところから始まる。その頃のアイスランドは、ノルウェーを統一しようとするハラルド王との戦いに破れ、土地を没収された有力な人々がこぞって移住して来ていた。グレティルが生まれた頃には、アイスランドは移住者たちの国となり、民会や法律制度も作られている。
子供時代のグレティルは、仕事を言いつけられても、サボったり、ひどいいたずらをしたりで巧くこなせない。見ためは美男子なのだが、口が悪く、頭の回転が早いので何かにつけてザックリくる一言を言う。悪口すらも韻を踏んだ「詩」で語るのだから、なかなかに肝の据わった人物だが、当然ながら敵も増える。
おまけに短気なものだから、若い頃から人殺しをして追放されるダメダメっぷり。
だが、何か普通の人では解決できない困ったことが起きるとすこぶる役に立つ。たとえば船が転覆しかかった時。男が一人しかいないのに十二人の盗賊が攻めてきたとき。誰も手を出せない幽霊の出る塚があったとき…。普通の人でも出来る仕事を言いつけられると「ものぐさものの仕事ですよね」とか言ってサボっちゃうのに、普通の人では出来なさそうな困難に立ち向かう時のグレティルはやたらカッコよくて、こいつに任せとけば問題ない! みたいな感じなのだ。
社会的には逸脱していて手に負えないはみ出し者、カッとなったら平気で人殺しだってしちゃう。それでいて、分かってみると実は頭もいいし腕っ節もたつ優れもので、頼れる時には頼れる人物。女子供には手を上げない。それがグレティル。
このパターンは、少年ジャンプなんかのヒーローにもありがちで、現代日本でもカッコいいと思われる主人公だろう。
だが、グレティルが特に愛されるのは、そんな基本設定に加えて「不運」と「弱み」が加わっているからだろうと思う。
「不運」とは、彼のもともとの短気からくるものに加えて、幽霊を倒したときにかけられた呪いによる。死んで化け物と化した羊飼いグラームと戦って倒したとき、グレティルは生涯続く呪いをかけられる。”今後は殺人と追放が業となり、孤独となるだろう”、”目の前に亡霊がちらつき、一人でいることが苦痛となるだろう”。幽霊の呪いによって、グレティルには不運が付きまとう。また、闇を恐れ、幽霊に怯えるようにもなる。それまで恐れ知らずだった男に「おばけこわい」という弱点が出来るのだ。
納屋に忍び込んだらうっかり背後を取られてただの農民に捕まっちゃったよ! なんていうお茶目(?)なエピソードもあり、完全無欠で強いだけではない人なのだ。
それから、そうと分かる描写は少ないが、グレティルは家族や故郷を大事に思っていたようだ。
追放されても、命を狙っている敵がいると分かっていても母親のところへ戻るし、兄アトリが殺された時には何も言わずに復讐のために立つ。グレティルを慕っている末の弟イルギが道を共にすると言ってくれたときには喜びも口にする。(そしてのちに、二人は同じ場所で背中あわせに戦って死ぬことになる)
一人でいると幽霊に付きまとわれる呪いを受けて、孤独を恐れていたこともあるのだろう。自分勝手に自由気ままに生きているように見えて、グレティルは最期まで人との関係を断絶することは出来なかった。人里離れたどこか遠くへ、故郷を離れれば長生きできたかもしれないが、そうすることは選ばなかった。
サガの世界で愛される英雄たちは、大抵が「不運」とともに「悲劇」の要素を併せ持つ。グレティルは、自らに下された追放刑があと1年で無効になることを知らないまま戦いで命を落とした。彼に致命傷を与えたのは”魔女による呪い”(描写からすると実際は破傷風だったのだろう)であり、それでも死ぬ直前まで剣を振るい続ける。ヴァイキング的な価値観からすれば、英雄は戦いの場で戦って死なねばならない。病に冒されながら、それでも敵を殺してから死んだ悲劇的なグレティルの死に様は、物語からすれば最高の死に方だったのだろう。
生きている間、絶えず揉め事を起こし続け、時には殺人も犯した厄介な逸脱者だったが、それでもグレティルを思う味方は少なくはなかった。
物語は、異母兄トルステインがグレティルの仇を討つ所で終わる。グレティルを殺したトルビエルンは、グレティルの首をはねた剣の刃こぼれを自慢していたところをトルステインに見つかり、その剣で自分の首も失うことになるのだ。
グレティルが、トルステインと交わす会話がある。
「お前の腕は太いな。こんな腕をしている男は見たことがない」
「兄貴の腕はなまっ白いな。まるで女みたいだ」
「だが、お前が殺されたら仇を討ってやれるのはこの腕なんだぞ。」
予言や運命は、サガの世界では主人公たちが変更不可能なものとして扱われる。予言の成就、運命の完結は、物語が終わるために必要な要素なのだ。グレティルは予言されたとおり不運に見舞われ、孤独と戦いながら最後まで安住の地を得ることなく死んだ。だが、同じく予言されたとおりに、かつて自分が女のようだと呼んだ兄に仇を討ってもらうのである。
…それもまた、サガの世界では不可欠な「カッコいい終わり方」だと言えるだろう。
<自分が思うサガ的なカッコいい主人公の条件>
・ 腕っ節が強いのは必須条件
人間が出来てるよりは短気で熱い人のほうが愛される傾向
・ 家族や兄弟にだけは優しい
・ 詩才がある。
殺されかけてるときにサラッとカッコいい詩を詠むとか
・ 慕ってくれる部下や親友がいる
・ 予言された運命がある
だいたいこのへんを抑えてる人がストーリーの中で「カッコよく」輝いてる気がする。
まー現代日本にいたら迷惑この上ない人種なんだろうが。(笑)
現在連載中で、歴史や当時のヴァイキングについてよく調べている作品のようなのだが、一巻と、雑誌で連載していたぶんを見て、自分的に何かが違う、と思った。
登場人物の行動理念がヴァイキングじゃない…
舞台や背景はヴァイキングなんだけれど、登場人物の行動、思考、求めるもの、言動、そういったものが、サガの名を冠する作品としては相応しくないものに思えてしまう。ま、そのへんは個人の好き嫌い、と言ってしまえばそうなのだろうが。
と、いうわけで、自分的に「これをマンガ化したら凄いことになる」と思っている大好きなサガ、「グレティルのサガ」の主人公について、 ”カッコいいとはこういうことだ” を書いてみたい。
「グレティルのサガ」は、アイスランドを主な舞台としたアイスランド・サガの一つだ。五大サガにも数えられる有名どころのサガで、グレトラの愛称で呼ばれる。
主人公の名前グレティルは「しかめ面」を意味する。この男は短気な荒くれ者であり、腕っ節は強いが口が悪く、それなのに何故か愛されているのである。
物語は主人公グレティルが生まれる前、曽祖父エヌンドがアイスランドへ移住してくるところから始まる。その頃のアイスランドは、ノルウェーを統一しようとするハラルド王との戦いに破れ、土地を没収された有力な人々がこぞって移住して来ていた。グレティルが生まれた頃には、アイスランドは移住者たちの国となり、民会や法律制度も作られている。
子供時代のグレティルは、仕事を言いつけられても、サボったり、ひどいいたずらをしたりで巧くこなせない。見ためは美男子なのだが、口が悪く、頭の回転が早いので何かにつけてザックリくる一言を言う。悪口すらも韻を踏んだ「詩」で語るのだから、なかなかに肝の据わった人物だが、当然ながら敵も増える。
おまけに短気なものだから、若い頃から人殺しをして追放されるダメダメっぷり。
だが、何か普通の人では解決できない困ったことが起きるとすこぶる役に立つ。たとえば船が転覆しかかった時。男が一人しかいないのに十二人の盗賊が攻めてきたとき。誰も手を出せない幽霊の出る塚があったとき…。普通の人でも出来る仕事を言いつけられると「ものぐさものの仕事ですよね」とか言ってサボっちゃうのに、普通の人では出来なさそうな困難に立ち向かう時のグレティルはやたらカッコよくて、こいつに任せとけば問題ない! みたいな感じなのだ。
社会的には逸脱していて手に負えないはみ出し者、カッとなったら平気で人殺しだってしちゃう。それでいて、分かってみると実は頭もいいし腕っ節もたつ優れもので、頼れる時には頼れる人物。女子供には手を上げない。それがグレティル。
このパターンは、少年ジャンプなんかのヒーローにもありがちで、現代日本でもカッコいいと思われる主人公だろう。
だが、グレティルが特に愛されるのは、そんな基本設定に加えて「不運」と「弱み」が加わっているからだろうと思う。
「不運」とは、彼のもともとの短気からくるものに加えて、幽霊を倒したときにかけられた呪いによる。死んで化け物と化した羊飼いグラームと戦って倒したとき、グレティルは生涯続く呪いをかけられる。”今後は殺人と追放が業となり、孤独となるだろう”、”目の前に亡霊がちらつき、一人でいることが苦痛となるだろう”。幽霊の呪いによって、グレティルには不運が付きまとう。また、闇を恐れ、幽霊に怯えるようにもなる。それまで恐れ知らずだった男に「おばけこわい」という弱点が出来るのだ。
納屋に忍び込んだらうっかり背後を取られてただの農民に捕まっちゃったよ! なんていうお茶目(?)なエピソードもあり、完全無欠で強いだけではない人なのだ。
それから、そうと分かる描写は少ないが、グレティルは家族や故郷を大事に思っていたようだ。
追放されても、命を狙っている敵がいると分かっていても母親のところへ戻るし、兄アトリが殺された時には何も言わずに復讐のために立つ。グレティルを慕っている末の弟イルギが道を共にすると言ってくれたときには喜びも口にする。(そしてのちに、二人は同じ場所で背中あわせに戦って死ぬことになる)
一人でいると幽霊に付きまとわれる呪いを受けて、孤独を恐れていたこともあるのだろう。自分勝手に自由気ままに生きているように見えて、グレティルは最期まで人との関係を断絶することは出来なかった。人里離れたどこか遠くへ、故郷を離れれば長生きできたかもしれないが、そうすることは選ばなかった。
サガの世界で愛される英雄たちは、大抵が「不運」とともに「悲劇」の要素を併せ持つ。グレティルは、自らに下された追放刑があと1年で無効になることを知らないまま戦いで命を落とした。彼に致命傷を与えたのは”魔女による呪い”(描写からすると実際は破傷風だったのだろう)であり、それでも死ぬ直前まで剣を振るい続ける。ヴァイキング的な価値観からすれば、英雄は戦いの場で戦って死なねばならない。病に冒されながら、それでも敵を殺してから死んだ悲劇的なグレティルの死に様は、物語からすれば最高の死に方だったのだろう。
生きている間、絶えず揉め事を起こし続け、時には殺人も犯した厄介な逸脱者だったが、それでもグレティルを思う味方は少なくはなかった。
物語は、異母兄トルステインがグレティルの仇を討つ所で終わる。グレティルを殺したトルビエルンは、グレティルの首をはねた剣の刃こぼれを自慢していたところをトルステインに見つかり、その剣で自分の首も失うことになるのだ。
グレティルが、トルステインと交わす会話がある。
「お前の腕は太いな。こんな腕をしている男は見たことがない」
「兄貴の腕はなまっ白いな。まるで女みたいだ」
「だが、お前が殺されたら仇を討ってやれるのはこの腕なんだぞ。」
予言や運命は、サガの世界では主人公たちが変更不可能なものとして扱われる。予言の成就、運命の完結は、物語が終わるために必要な要素なのだ。グレティルは予言されたとおり不運に見舞われ、孤独と戦いながら最後まで安住の地を得ることなく死んだ。だが、同じく予言されたとおりに、かつて自分が女のようだと呼んだ兄に仇を討ってもらうのである。
…それもまた、サガの世界では不可欠な「カッコいい終わり方」だと言えるだろう。
<自分が思うサガ的なカッコいい主人公の条件>
・ 腕っ節が強いのは必須条件
人間が出来てるよりは短気で熱い人のほうが愛される傾向
・ 家族や兄弟にだけは優しい
・ 詩才がある。
殺されかけてるときにサラッとカッコいい詩を詠むとか
・ 慕ってくれる部下や親友がいる
・ 予言された運命がある
だいたいこのへんを抑えてる人がストーリーの中で「カッコよく」輝いてる気がする。
まー現代日本にいたら迷惑この上ない人種なんだろうが。(笑)
