非日常的ニッポンミステリ「人柱はミイラと出会う」

なんとなく本屋に行って、なんとなくタイトルが気に入って半分立ち読みして買って帰ってきた本。

ミステリなんだけど、表紙のポップな感じがよろしい。いや、この内容で「いかにもミステリ!」って表紙だったらミスマッチなんですが。全部で七本のお話が時系列に収録されている。探偵役は、北海道の道議員の甥っ子でどこか浮世離れした若い男性。職業:「人柱」。

そう、この小説は現代日本でありながら、ごく僅かに現実とは異なる風習の息づいている国。いまだ神道の神が生きている国。「人柱」は土地神と契約し、工期が終了するまでその土地に留まって一人で暮らす神様への担保であり、人と土地の神の間をとりもつ大事な職業なのである――。


タイトルになっている「人柱はミイラと出会う」は一話目。主人公はアメリカからの留学生リリー。主人公の親友でホームステイ先の一人娘と、その従兄弟である探偵役の人柱氏というメイン登場人物が紹介される。
橋の建設現場、はじめて見る人柱の儀式に、日本の風習がわからないリリー(と読者)はビビってしまうが、人柱というのは昔のように本当に人を死なせるわけではない。柱の部分に人を埋めるわけだが、じつはそこには部屋が作られていて、外から空気も水や食べ物も送り込まれる。(風呂には入れないらしい) いわば密室でたった一人、建設が終わるまでの期間を過ごす修行のようなものである。これには強い精神力を要するため、人柱というのは高給取りで、しかも若い頃しかできない特殊な職業なのだという。

…そんな感じで、実際には日本には存在しないが、「意外とありそう?!」な職業や風習がこの物語の主題を成す。「ファンタジー小説で推理ものをやるのは厳禁です。だって何でもアリになっちゃうでしょうが」そんな声が聞こえてきそうな、これはある意味、ミステリ小説のお約束に挑戦した作品集と言える。


さて、この小説の最大の魅力は、まさしくその、チョコッとだけ現実とは異なるパラレルな日本という世界観にある。しかしながら、この小説の最大の弱点もまたそこにある。実在しない風習をネタにしている以上、作者が好きに世界のルールを決められてしまうのである。たとえば「人柱は人柱である期間、一人で部屋に籠もっていて出てくることもない」「衣食住はあらかじめ中に持ち込んでおくので、基本的に外から生死を確認することもない」――「従って、人柱の部屋の中で殺人が起きていても、工期が終わるまで発覚することはない」。これらはすべて作者の決めた世界のルールである。ミステリをミステリたらしめるための舞台が100パーセント作者の手に因ってしまうのでは、もちろん、その世界のルールを知らない読者に推理は不可能。

作中で主人公リリーは、探偵の直海君のことを 「この人は、すごい」 と評価するが、それは直海が凄いというよりは、読者に推理させないため、つまりネタがバレないために推理に結びつく決定的な情報を一部隠して書いているからで、実質、直海以外には解けない謎かけだから、大してすごくない。子供騙しだ。伏線はいちおう張られているものの、推理を聞いても何故そう推理したのかが良くわからない…。

まあでも、鷹匠のおじさんの話だけは、おじさんが鷹を悲しげに腕に止まらせた瞬間、なんとなくオチは読めました。
殺された犯人の人が、おじさんの孫娘を殺したカタキでした。とかいうベタベタな設定を入れると、そのまま「金田一少年の事件簿」シリーズの原作として使えます(笑)


というわけで、面白かったけど、ミステリ…というよりも、ちょっとおかしな日本、という世界観を楽しむ作品かな。
トリックというか、謎解きの部分は概して甘々なので、ミステリ専門の作家さんの挑戦的な作品に慣れてしまうと、ご都合主義的な展開に見えてしまうかも。ただし短編としてはよくまとまってるし、キャラクターも魅力的。そこらへんの小難しくて登場人物も覚えられないような推理小説よりは楽しめます。この作者さんの今後の作品に期待。




まぁ、肩肘張らずに読めってことだな!


人柱はミイラと出会う
新潮社
石持 浅海


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