古代エジプト わんこ事情

ネコの話は散々出したので、じゃぁ次は犬でも…。

と、思ったのだがエジプトの犬に関する面白い研究が少なかった。壁画に出てくる犬の種類の研究はあったけど、それじゃパッとしない。どうしたエジプト学者たち。犬好きのエジプト学者はいないのか? もっとこう… 何か、ネタになりそうなものはないのか。




古代エジプトでは、猫と犬では犬のほうが地位が高かったように思う。
それは専ら、犬を連れているのが「貴人」だったからで、犬とは王や貴族の狩りに同行するもの、貴人に相応しい同伴者として描かれることが多かったからだ。

しかし猫が劣っていたわけではない。犬の神様としてアヌビスやウプウアウト(ウプワウト)という重要な神様がいたように、猫の神様としてバステトやマフデトがいて古くから崇められていた。犬にアシウトのような重要な埋葬地があったように、猫にベニ・ハッサンやブバスティスといった専用墓地があった。

エジプトで犬が飼われはじめたとはっきり判るのは、猫とほぼ同時期か少し前くらいの中王国時代。第十一王朝の王墓には、王の飼った犬たちの姿と名前がハッキリと記されている。この時点で、犬には種類があったらしく、ジャッカルのようなものやダックスフンドのようなもの、マスチフ犬に見えるものなどが伺える。

つまり猫と犬は、古代エジプトでは重要度において同等だったと言える。


だが、庶民の生活に密着していた動物となると、どうしても猫というイメージが強い。なぜか。答えはもしかしたら、 エジプト人は狩りを農耕ほど重要視しなかった というところにあるのかもしれない。

猫や犬は、何のために人間と共存するようになったのか。猫は穀物を荒らすネズミを食べ、かわりに人間の住居を借りる。犬は群れの一員として狩りの供をする。

先述したように犬は狩りのお供として登場することが多い。そして狩りは、貴人たちの遊びだった。ちょうど中世イギリスで、貴族がハンティングやフィッシングを楽しんだように、王や貴族は自分の領地に狩場を設け、宅内にいけすを作った。

だから、古代エジプトの庶民にとって農耕のほうが重要だったとすれば、庶民にとって猫のほうが大切な家畜として扱われた可能性があると言えるだろう。



それから犬というのが、人間に害を及ぼすこともある動物だったこともあるかもしれない。
現代でも飢えた野犬の群れは危険な存在だが、古代においては尚更のこと。夜の砂漠を旅することについての注意として「野犬に気を付けろ」という話があったり、古代エジプト人にとって最大の罰として、「死後ミイラにせず死体を犬に食わせる」(=ミイラにしてもらえないし体もバラバラなので、死後の復活が出来なくなる)というものがあったりする。犬の姿をとる神々が冥界神なのは、野犬たちが墓場をウロつくことから来たとも言われる。犬は猫と違い、マイナスイメージも強かったかもしれない。

人に害を及ぼすことのない猫は家庭や子供の守り神となり、愛や歓楽も意味するようになる。
しかし、時として人に害をなすこともあり、庶民よりは高い身分の人々により必要とされた犬は、王権と結びつき、王の儀式や戦争、死、来世、正義… といったものと結びついていく。
ちなみに、猫の姿をとる神は女性(女神)であり、犬の姿をとる神は男性である。基本的に…というか、知っている限り例外はない。ここにも、古代エジプト人が見ていた、犬と猫のはっきりとした性格の違いを見て取れるように思う。

現代でこそ「ネコ派かイヌ派か」なんてものがあるが、古代エジプト人の見ていた猫と犬は、もしかしたら、そもそも並列に語ることの出来ない異なる次元に属する生き物だったのかもしれない。

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