ウガリット神話でエジプトの都市名が出てくる場所を確認

ウガリットは、現在のシリア・パレスティナあたりにあった都市国家。

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地図見ると分かるかと思いますが。
地中海沿岸部でペルシャ湾側ではないので、メソポタミア神話とはちょっと系統が違います

ウガリット神話で最も有名でアクティヴな神様はバアル。他には、のちにイスラエルの国名にもなる大神「エル」や海神「ヤム」、戦の乙女「アナト」、太陽の女神「シャパシュ」などが登場します。この神話は、のちに旧約聖書のベースともなり、一部神様の名前や設定が引き継がれていくことになります。



ウガリットは大雑把に言うと、古代エジプト人がレバノン杉を輸入していたあたりの地域で、先王朝時代には既に関係が成立しており、そもそも初期の古代エジプト人の一部はこの地方から移住してきた可能性があります。

エジプトとの交易(交易というより実際は朝貢ですが…。)で栄えてきた歴史もあり、初期からエジプトとの関係は深い。

エジプトとの後にトルコのあたりにヒッタイト帝国が誕生すると、エジプトとヒッタイトというに大勢力の間に挟まれてどっちにつくかで苦労することになります。「アマルナ文書」で知られる、エジプトから発見された楔文字の石版による外交記録は、ヒッタイトとエジプトのどちらにつくかで、この地方の国々が揺れていた時代のものですな。




と、いう予備知識のもと、ウガリット神話の中で語られるエジプトの都市の例を。


カフトルは実に遠い、神々よ、
メンフィスは実に遠い、神霊らよ。
二つの層が大地の泉の下にあり、
三つの広がりが低地の下にある。

(バアルの神話/第一章バアルとヤム 129)



カフトル=キプロス島。ヤッファやベイルートの向かい側にある、ファマガスタのある島ですな。
遠くねーべ? と思わんでもない(笑)
ここでは神々の活動範囲にキプロス島~エジプトのナイル下流域までが含まれていることが分かる。チグリス・ユーフラテス川の流域は入らないらしい。


ビブロスを通り、
ケイラを通り、
天のノフの島々を通れ。

(中略)

それから顔を差し向けよ、
ものみな壮麗なメンフィスの方に。
カフトルが彼の座る玉座、
メンフィスは彼の遺産の地。
其処は千里万里の彼方にある。

(バアルの神話/第二章バアルの神殿 'nt:VI)


「天のノフ」もメンフィスのことなので二回同じ地名が登場していることになる。ここでもカフトルとメンフィスがワンセット。
ちなみにこの二箇所、「メンフィス」は原語では「プタハの町」と書かれている。(メンフィスの主神はプタハ神だからだ。) 遺産の地、というのは、民がエジプトに移住していることを指すらしい。そして旧約聖書の「出エジプト」に繋がる。


ウガリットの人々にとってエジプトは無視できない地域であり、遠いといいつつ世界を描くときには常に意識の端にある場所であったらしい。ほかの都市ではなくメンフィスを挙げているのは、最も古いエジプトの首都がそこだからなのだろう。




後、ウガリット神話を読んでいると、ヤーウェの正体(起源)がうっすらと見えてくるから面白い。神殿や偶像にトラウマがあるのも、バアルを崇拝すると預言者が飛んできて叱るのも、実は過去からの因縁だったりして。


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★元テキスト

解説が丁寧な対訳書。楔文字とかわかんねーよ! な方にオススメ。
原語のニュアンスにすこしでもイメージを近づけたい方に。

バアルの物語―ウガリトの神話
新風舎

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