古代~中世北欧初心者にもおすすめ。ヴァイキングの考古学(世界の考古学11)

というわけで、今月の書籍代リミット分まで活字を補充すべく書店へ。
だいぶ前から在庫切れになって欠けていた「世界の考古学」11巻が補充されていたので早速入手。

ヴァイキングの考古学 (世界の考古学)
同成社
ヒースマン 姿子

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こいつがまた読みやすくバランスもよく、なかなかに読み応えのある良書だった。この本自体に書いてあるとおり、古代北欧についてトータルで書いてくれている本は、日本ではあまりないと思う。よくあるパターンだと、ルーン文字ならルーン文字、エッダならエッダ、サガならサガのみ。この本のようなのは珍しい構成だ。


「北欧神話に興味がある」という人は多いと思うが、いきなり「エッダ」とかアイスランド・サガに入っちゃって、そもそもエッダはアイスランドのローカル神話も含むので偏ってるよとか、ノルウェーとスウェーデンの王権がどうだったかとか、ヴァイキングはどの辺りの地域で何時頃まで活動したのか、とか知らない人は結構多いはず。そういう人には特にお勧めしておく。


神話について考えるにしても、考古学資料でないと見えてこない部分も多い。
たとえば、

 いわゆる”北欧神話”は、古代北欧で実際に信仰された宗教とは違う。

実はオーディン・トール・フレイ以外の神様は信仰された物的証拠が希薄だ。今残っている神話は、それが書き残された時代には既に「神話」(=昔話)になっていて、ヴァイキング時代には少なくともこの三神以外はほとんど用事がない。

しかも北欧人はシンボル的な模様が好きで、神像はあまり作らなかった。
ルーン文字で神の名前やシンボル文字を記したり、トール神ならハンマーなんかの護符を身につけたり、ということはあっても、神の姿を具体的に描くことは好きではなかったらしい。石碑に描かれた神の姿が超手抜きの棒人間だったりする(笑)

だから現存する神の像は少ないし、神々の姿も想像しにくい、というわけ。


ゲームやマンガの影響で、若い世代に一番人気があるのは「神話」だと思うけど、その神話が作られ、語られてきた背景を知ると、より神話の記述が面白くなると思う。ただ漠然と「北欧」「ヨーロッパの北のほう」と思っているより、具体的な地理が分かっていたほうが意味も分かりやすいだろう。

たとえば、ノルウェーやスウェーデンの北のほうに行くと白夜があると知っていると、神話の中での太陽の地位の低さや、天を馬車で駆ける発想の出所に見当がつくかもしれない。
スカンジナヴィア半島にはゲルマン人とは異なる、サーミ人(ラップ人)という、いわゆるエスキモーも住んでいるとか、実は意外とロシアも近いとかが見えてくると、世界の外側にいる様々な巨人や小人たちが、実は異民族を指しているんじゃないかと思えてきたり。


この本では、そうした示唆的なことはあまり書かれず、トータルバランス的に話が進むので、今まで断片的に掘り下げる勉強をしていた人が既に持っている知識をからめつつ視野を広げるのに丁度いいと思う。ていうかまさに私がそこに当てはまりそうだ…。




この本で初めて知った内容もいくつかある。

たとえばアイスランドが今のような木の無い荒地になったのは、そもそも最初に移住した人たちが伐採しまくったのと、山火事を起こしたのと、家畜を持ち込んで木の芽を食わせてしまったのが要因らしい。人が住み始めた初期の頃は、森が島面積の4割、植生は7割近くを占めたという。もちろん環境破壊なんて言葉のない時代のこと、これは文字資料には残っておらず、科学調査で判明した過去だ。

ルーン石碑は実は初期のものが一番出来がよく、後になるほどテキトーになっていくということ。
技術がいきなり頂点から始まってあとはレベルが落ちていくということは、どこかからやって来た職人がはじめたのかもしれない。独特の渦巻き文様や絡み合う植物はケルトの文様を思わせる。あるいは最初にブリテン島を襲撃したヴァイキングに連れてこられたブリトン人だったのかもしれない。

ヴァイキング時代の船は優れていたが、当時の最高レベルというわけでもなく、どうやらそれに乗るヴァイキング自身の手腕と計画性のなさ(笑)が最大の武器だったらしいこと。どこに襲ってくるか分からなければそりゃまぁ防ぎようはないよな。



あと、不思議に思っていたビルカ襲撃の謎もようやく解けた。


ビルカというのはヴァイキング時代の貿易都市のひとつで、度重なるヴァイキングの襲撃のあと放棄された痕跡のある遺跡だ。立地条件はよく、そこからロシア方面やバルト海沿岸にヴァイキング行に出かけるにも良さそうなのに、なんでそこが同じヴァイキングに襲撃されるんだと。防衛に力をつぎ込んだあとや、戦いで殺された人の墓が発掘されていると知って、ヴァイキングというのは味方の港も収奪するものかと不思議に思っていたものだ。

実は、異教時代にあって、この町だけはキリスト教の町だったらしい。

なんでそんなド真ん中に作るんだ… と言いたいところだが、司祭を呼んだりしてるので布教目的だったのだろう。ビルカが放棄されたということは布教の試みは失敗したように見えるが、実は違う。単に引越しただけだ。その後、スウェーデンもキリスト教化していくことになるのだから、ビルカを含むキリスト教王権の試みは成功したことになる。

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それと、北欧に旅行にいった知り合いが、「オスロよりスットコ(ストックホルム)のほうが日照時間が長かった。緯度的におかしいよね?」と言っていたのも、実はこういうことだったらしい。

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スットコのほうが日照時間が長くて正解。

地軸の傾きが関係するんだなー…。
スットコの夏の日照が月300時間越えてる時に、オスロは240くらいか。1日2~3時間は違う計算になる。




と、いう感じで、得るものは多いので、北欧に興味のある人は、古代文明ファン・神話フリーク問わず読んでみる価値はある。


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巻末に、昔えらいご迷惑をおかけしまくった某先生のお名前を見つけて懐かしくなったり(笑)
そういえば某先生は、当時、サガは歴史だよ派だったなぁ… とか。

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