2010年8月18日「World Heritage Day」

いまさら感が漂う2ヶ月前の事案への追いつきでございます。

検定ブームに乗っかって出来た「世界遺産検定」。
DOLプレイヤーの間でもギャグで受ける人が出た試験なのですが、それの運営元である「世界遺産アカデミー」という団体の過去リリースに、こんなものがありました。

吉村作治先生が長年のエジプトへの功績を称えられ「エジプトの世界遺産に寄与した考古学者に与える金メダル賞」を受賞されました。
http://www.wha.or.jp/?p=945


サイバー大学学長、NPO法人世界遺産アカデミーの理事でエジプト考古学者の吉村作治先生が長年のエジプトへの功績を称えられ「エジプトの世界遺産に寄与した考古学者に与える金メダル賞」を受賞されました。

「2010年4月18日に、エジプトのギザ台地、3大ピラミッドの前の大スフィンクスの前で7人のエジプト考古学者が表彰されました。賞の名前は『エジプトの世界遺産に寄与したエジプト考古学者に与える金メダル賞』というものです。これは外国人でエジプトの世界遺産を調査研究したり、発掘をしたり、保存に力を注いだ世界の7人を表彰したものです。


…吉村さん、この団体の理事なんてやっとったんだ^^;
この人が絡んだとたん、世界遺産に興味もってもらうための検定が急に金儲け目的の胡散臭さを漂わせ始めるから困る…。

と、まぁ、それはともかく、こんな賞聞いたことないし、なんじゃらほい? 状態だったので、ちと調べてみました。




--結論から言うと、この賞、なんも情報が出てこないところからして、 完全に内輪ネタの賞 なんじゃないかと思います…。




まずは、こちら↓の受賞者一覧からお名前を拾い出してみました。
http://www.wha.or.jp/yoshimura/award.pdf

以下、それぞれの略歴と主な発見物を調べられた範囲で。



Prof. Dr.Manfred Bietak(オーストリア)

ナイル下流の発掘権威。
第19王朝の首都、ピ・ラメセスの町と、テル・エル・ダバア(ヒクソス王朝の首都)の発掘で知られる。


Prof. LECLANT Jean(フランス)

パリ・ソルボンヌ大学の教授を務めるフランスのエジプト学者重鎮。グレコ・ローマン時代の遺跡の発掘で知られる。また、ピラミッド・テキストの資料整理と編纂で知られており、現在手に入るピラミッド・テキスト関連の書物には頻繁に名前の出てくるおなじみの方。


Prof. Dr. Werner Kaiser(ドイツ)

エジプト文明の黎明期を語るうえで避けて通れない、「ナカダ文化」について長年研究している研究者。
ピートリの作った、ヌビアの時代年表を書き換えた人。分かりやすく言うと、「縄文時代」と「弥生時代」の区分を作った人、みたいなかんじ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Naqada#Werner_Kaiser



Prof. Sergio Fabrizio Donadoni(イタリア)

1997年に発刊された「Egyptian」という本と、1999年に発刊された「Tabe」という本が見つかったけど、それ以外よくわからない。


Dr. MARIA DEL CARMEN PEREZ DIE(スペイン)

エジプト学者のマリア・デル・カルメンさんは見つからず…。
何をやってる方なのか分かる人いたら教えてください…。


Dr. Horst Jaritz(スイス)

テーベ周辺で、新王国時代のメルエンプタハの葬祭殿の発掘をした人。
(なんとなく、スイス隊はテーベ周辺でよく発掘しているイメージがある。)




数人わかんない人がいましたが、何をやったかわかる人だけ見ると驚きの豪華メンバー。
呼ばれてる人のうち数人は間違いなく一流と呼ばれる人たちだ。(すません、ほかの方を存じ上げないのは、単に私の勉強不足かもしらんので、そのへんはノーコメで…)

うちの国の、日本の代表… ほんとごめんなさい状態。
誰か、余計なこと言ってボロ出さないようにフォローしたんですかね。世界のトップ学者たちの中で日本のレベル疑われるようなことしてないですよね…。

では、この、錚々たるエジプト学者を集めて行われた「エジプトの世界遺産に寄与した考古学者に与える金メダル賞」とは、一体なんなのか。それが分からない。ザヒ・ハワス博士のサイトにも、自分の知ってるエジプトニュース関連のサイトにも出てこないんですよね(^^; 



そもそも「World Heritage Day」というのは、人類の共通遺産を大事に保存していこうぜー 的な日で、毎年8/18に全世界で何かやってるものらしいです。なんか今年は記念碑的な遺跡がテーマだったようで、去年は科学的な遺産、その前は宗教的な遺産… とか書いてありました。まあエジプトは世界遺産にことかかない国なので、自国の遺跡保存に資金を提供してくれた国の代表者呼んで表彰してやろうと思ったところで不思議はありません。


しかし腑に落ちない点もあります。

冒頭でリンクした「世界遺産アカデミー」のページにも書いてありますが、賞をもらっている学者さんたちの経歴を見ると、少なくとも何人かは確実に、アブ・シンベルを含む、アスワン・ハイ・ダムで水没する予定だったナイル上流の遺跡救済の功労者なんですよね。ユネスコが関わって、各国から学者と資金がエジプトとスーダンに送られた。(ただし、水没地域のうちスーダン側には、アブ・シンベルのような目立つ遺跡がなかったため、ほとんど調査が行われなかったという経緯があります)

でも、一千万ドルを負担したアメリカの学者が入ってない。アメリカにエジプト学者がいないってことはないでしょう。
そこで思いつくのが、エジプトとアメリカがあんまり仲良くないという過去の事情。
エジプト、ナイル川にはふたつダムがあります。アスワン・ダムと、その上流にあり、アスワン・ダムよりデカいアスワン・ハイ・ダム。アスワン・ダムはアメリカ資本ですが、ハイ・ダムはロシア資本。これは、当時の大統領だったナセルさんが、アメリカの影響を弱めるために、その敵対者であるロシアの手を借りたから。(「双方の利害が一致した」と言い換えてもいい)

イギリスも入っていません。かつてフランスとイギリスがエジプトを取り合ったのはいわずもがな、フランスがエジプトにスエズ運河を作ろうとしたとき、圧力かけてジャマしようとしたのがイギリス。さらにロゼッタ・ストーンの変換を拒んでいるのもイギリスの大英博物館。

このあたりを鑑みるに、単に「エジプトにある世界遺産の保存に助力した」という理由だけで選ばれた賞ではないと思うのは、そう的をはずしていないと思うんですが、いかがなものでしょう。政治的な理由があって、戦略的に選ばれた七つの国の「代表」として選ばれたのが、その国で、今現在、いちばん名前の売れてる人たちだった、というだけじゃないんですかね。



要するに、この賞は吉村さん個人がもらったものではない。
カネと人を送り込んで、これからもエジプトの観光資源を増やしてくれるであろう「友好国」に対する"感謝"の意味があるんだと思います。

* そういう意味の賞だと、ペルー政府が出してる「ペルー功労勲章」がありますね
* もらっているのが学者ではないので分かりやすい


もらってヤッター って大喜びするものではなく、ウラにある大人の思惑を理解したうえで、内輪で「あー、はいはい。ありがと」って貰っておくべきものなんじゃないかな…。

勲章って出すのタダですしねえ。
それで円借款でガッポリ資金投入してもらえるんだったら、いくらでも出すわな…。


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てか、ザヒ・ハワス博士のサイトでも完全スルーなんで、これ受賞したこととか関係者しか知らないんじゃ(笑)

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