映画「ロビン・フッド」 ~キャラとストーリーはどうでもよく、世界観を存分に楽しむ映画

買い物しようと町まで 出かけたら、なんか裸足で森を駆けてく馬が見えたんですよ。
映画「ロビン・フッド」って文字があるじゃないですか。で、今日から上映だとか。これは… 見とかなきゃだろ…!


公式サイト: http://robinhood-movie.jp/



と、いうわけで買い物を忘れてフラフラとレイトショーのチケットを買ってしまったわけだが。
一言で言うならば、


 メインキャラに 誰ひとりまともな人間がいないのに

 不思議といい話にまとまっている映画。



ヒーローはいない。主人公でさえヒーローではない。死体漁りもすれば敵前逃亡もする、ウソもつく。
でもそれは正しくて、そもそもロビン・フッドというのは「圧制に苦しむ」民衆にとってのヒーローであって、一般的にはならず者という。当時の言葉でいえば、アウトロー。ロビン・フッドふくむアウトローたちは、高い税金を払えなかったり、政治の腐敗によって無実の罪に問われたりして森に逃げ込むしかなかった、無宿者たちのことを指す。
世の中が不安定で、政治に不満の大きかった時代だからこそ持て囃された存在であり、平和な時代であれば秩序を乱す存在として畏れられ、嫌われていたのだと思う。

必要以上に美化しすぎていないのはいいなと思ったんだけど、でもあの「自由を」と叫ぶシーンはいらんかったような気がする…。封建主義真っ盛りの12世紀イングランドでとつぜん村人が民主主義を叫びだすのはおかしいだろ。

でも面白かったっす。とくに前半が。
後半のフランスvsイングランドは、わりとどうでもいいっていうか、ラッセル・クロウ臭が強すぎてなんかあんまりロビン・フッドじゃなかった。


***


ちなみに映画を見に行く前、情報として持っていたのは映画の紹介文↓だけ。

12世紀末、十字軍の兵士としてフランスで戦っていたロビンは、帰国途上で英国の騎士ロクスリーの暗殺に遭遇する。「家宝の剣を故郷に持ち帰って欲しい」というロクスリーの遺言を受け、彼の父親が領主を務めるノッティンガムを訪れたロビンだったが、やがて英国侵略を目論むフランスの陰謀に巻き込まれていく。



…最初見たときに思ったのは、「何この無茶な設定」ってこと。
ヤマトタケルが兄の将軍に隠岐に流されてヒミコと戦う みたいな無茶ぶり。何でも混ぜればいいってもんじゃねーだろ。

そんなわけで、全く期待せず、というか荒唐無稽なただの派手なアクション戦争映画だろー、と思って見に入ったんだが… 違ってた…。

毎回思うんだが、映画配給会社は、ちゃんと映画の内容を見てから紹介文を書け。 理解できなかったんなら少しでも理解できる人を呼んできて紹介文書かせろ。間違っては無いけど、映画の主軸ってこれじゃないだろ。


"リチャード王なき後、失敗に終わった十字軍のツケで財政の傾いたイングランドに即位した、リチャードの弟ジョンは、王としての資質に乏しく、財政の穴を埋めるためさらなる重税を民に課す。そのため北部の有力な州候たちが反旗を翻し、内乱の兆しを見せるが、それは王の腹心ゴドフリーの仕組んだ巧妙なワナ。内乱に乗じてイングランドを攻めようとするフランス王の軍勢が迫る中、ロビンは、父やロクスリーの遺志をついで「自由を守る権利」(たぶん、のちの「マグナ・カルタ」草稿)を王に認めさせるための戦いを開始する。"


…っていう、「いかに民が自由を獲得するか」が主軸の映画やん。
んで王が認めないのならば森でアウトローとして生きるしかない → ロビン・フッド誕生 ってことになるんだよね。ロビン・フッド個人の映画というよりは、ロビン・フッドという「義賊」が誕生せざるを得なかった理由、なぜ彼が英雄として民衆に語り継がれたのか、という時代背景がメインテーマ。


だからなのか、個々のキャラは片っ端からリアリティあるロクデナシで、冒頭のロビンの死者の遺品漁りに始まり、身分詐称、税金逃れ、王の浮気、きまぐれ、王の側近の保身や根回し、僧侶が教会で密造酒作ってるとか代官が税金の取立てにやってきて人妻を口説くとか、とにかく当時としては当たり前だったんだろうなー という色々をやらかしていて、ほほえましい。でもゴドフリーは氏ね。


背景は美しい。
北部イングランドの町中にケルト十字架やドルメンや青銅器時代っぽい塚があるのは本物らしさが出ていたし、地面がぬかるみだらけだったり、手づかみで食事する(当時はフォークもナイフもまだない)ところ、ケルト音楽で踊る人々、チェインメイルを脱ぐのが一人では出来ない…等々は当時の風景を忠実に再現しようと試みた結果だと思われる。そんな知識あるわけじゃないけど、少なくとも「キング・アーサー」よりはかなり歴史に忠実。まあ5世紀と12世紀じゃ、歴史記録の量がぜんぜん違うんだろうが。

そういう、作りあげられた世界観の中だからこそ、キャラ自体の魅力に頼らなくても物語としてはまとまっていたのだと思う。


キャラ単体で見ると、どいつもこいつもロクでもないうえに、設定自体が無茶。ロビン・フッドが十字軍に参加するだけならまだしも、自由の条文とか、剣に書かれた言葉の意味と出生の秘密とか、ラストバトルで何故か兵士が一丸となって彼の本名を叫んでるか、あれはねーわ。(笑) まあゴドフリーは論外として。

ストーリーは、とにかく伝説上のロビン・フッドに歴史的なリアリティをもたせようとしてコジつけにコジつけを重ねた感があって、あんまりよろしくはない。ただ、そのストーリーの無茶を補ってあまりあるのが、随所で光るリアリティのある世界観。この映画の主体は背景、画面の端っこにいる村人たちの暮らしとか、走り回ってるガチョウとかにある、と言える。あとゴドフリーのイケてなさ。


ちなみに一つだけ残念だったのは空撮シーン。
ホワイト・ホースというシーンが出てくるが、あれは、実際に存在する。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%82%A2

石灰岩のうえに薄く芝の生えた土が載っている場所で、土を剥ぎ取ると下の石灰層があらわになって、地面に線を引いたようになる。これを使って、地面に描かれた「ローマ兵」や「馬」などの、イングランド版地上絵とでも言うべきものが、いくつか存在する。

が、それらは12世紀の時点では、すでに古代の遺産だ。いくら12世紀といったって、あんなクッキリ馬の形が浮かび上がってることはねーよ…。まるで貼り付けたかのような不自然さ。もうちょい草でエッジを隠すとかなんか出来なかったのか。

まあゴドフリーのスキンヘッドほどの酷さではなかったけどね。


****


以下 微ネタバレ










マリアン最強。

ラスボス戦に来るとか(笑) 予想通りすぎてわろた。
「アイヴァンホー」の姫もやたら強かったけど、サクソン系の貴婦人はみんなああなのか。ヴァルキュリア的な何かか。

ゴドフリーは氏ね。マジで氏ね。なにあのスキンヘッドのカマ野郎。よくも私のじーちゃんを。
ロバートはどうでもいいけどウォルターじいちゃんのことは許さないよ。油断して84歳に斬られるとかマジかっこ悪いんですけど。ヒゲ剃ってるシーンその剃刀で首切ればいいのにとかおもた。悪役演技巧すぎだぜチクショウ。こんなに殴りたくなった悪役は久しぶりだ。ジョン王もたいがいアレだけどゴドフリーに比べたら全然マシ、むしろゴドフリーはもっとショボいラストでもよかった。マリアンはあの隠しナイフをゴドフリーにこそ使うべきだったんだよ。


終わり方は微妙だった。ロビンとマリアンのその後は描かれていたけど、マグナ・カルタ草稿(と思われる文書)の起稿に加担した州候たちは、どうなったんだろ。署名した人たちを守るためにロビンの父親は死んだんじゃなかったっけ? いまいち歴史の流れを理解しづらい終わり方になってた。エンディングもうちょい短くして、あと5分でその後の世界を描いたほうが良かったんじゃないのか…。

この記事へのトラックバック