流言と信ぴょう性 デマにひっかかる人々 ―ネット上のデマの心理学
心理学用語における「デマ」は、demagogy、すなわち政治的な目的のために意図的に流される情報のことを指し、ウソや不正確な情報という意味では使われない。
その意味で使われるのはrumor(流言)。
…なのだが、現在では日本語のカタカナ「デマ」は、いい加減な情報一般を指すものと認識されているので、まぁ、まぁ、ここではそのへんは適当でいいとしよう。
このエントリの中では、「流言」を人間集団の中で変容する偽情報、「デマ」をネット上でコピペ拡散される偽情報と仮定義した上で話を進めていく。
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誤った情報の流布というのは、人々が不安をいだいた時に起こりやすい現象である。…という話を前のエントリで書いた。
しかし、前のエントリで書いた話は、あくまでも集団心理である。
自分が所属し、意見の拠り所としている「準拠集団」内でのうわさや、スーパーに並んでいる人の群れを見て流されてしまう、つまり周囲に他人がいて、直接他人からの情報を受け取っている状態で発生するものであり、基本構造は「伝言ゲーム」。
ネット上で広まるデマは、これとは発生の構造が少し違っている。
ネット上のデマは、誰かがツイッターでつぶやいた内容や、掲示板に貼りつけたコピペを見たひとがそれを真実と信じ、別の場所に拡散することによって発生する。すなわち、集団心理としての「流言」と異なり、情報の発信者が誰であるかを認識する必要はなく、情報は首尾一貫して変化しないことが多い。
これが、人から人へ伝わってゆくうちに変容してゆく従来の集団心理としての「流言」と、誰から発信されたものか特定しないまま拡散されていくネット上の「デマ(偽情報)」の決定的な違いである。
「流言」は、前のエントリで述べたとおり、発生時点では嘘ではない。
豊川信金の取り付け騒ぎでは、発生する前に実際に倒産した信用金庫があり、「信用金庫は危なくないのか?」という疑問が人々の心にある中で「危ないかもしれない→危ない」へと情報が変化することによってパニックが発生した。
オイルショックの際のトイレットペーパー買い占めは、たまたまスーパーの特売でトイレットペーパーが安く売りだされていたのに人々が群がっているのを見た人が勘違いしたことから発生している。(※これについては当時の状況が正確ではないため、決定的な原因かどうかは断言できないが。)
しかし、ネット上でコピペ拡散される偽情報は、発生した時点から嘘である。
ネット上のデマには、必ずと言っていいほどその情報を広めてくれという切迫した懇願が添えられている。しかし、この懇願はほとんど意味をなさない。なぜならば、赤の他人からの協力要請は、知人・友人からの協力要請にくらべ、応じようとする意識の動きがはるかに弱いからである。発信者がいかに多くの友人を持っていたとしても、「この情報を広めてくれ」という切迫した懇願だけでは、デマ情報が短期間に大規模に広まることは、ない。
原因は、その情報が正確か否かを判断することが出来ない個人にある。
短期間に大規模に拡散するためには、道端でメガホンもって叫んでる誰かの言葉を、たまたま通りすがった赤の他人が「真実だ」と思わなければならない。叫ばれていたその言葉が雄弁であるかどうかは関係ない。通りすがった赤の他人である拡散者自身が、その情報をすぐに拡散するか、スルーするか、はたまた落ち着いて真偽を確かめようとするか、受け手の行動の違いだけだ。
ここまでは、いいだろうか。
ネット上のデマ拡散の要因は、集団ではなく個人に原因がある。
ここで使えそうなのが、偽の情報に騙されやすい人というのが存在する、という心理学の研究。
題材として有名なのが、1938年にアメリカで放送されたラジオ番組「宇宙戦争」。
火星人による地球侵略を臨場感あふれるドラマ仕立てにしたもので、ジョーク番組のようなものとしてラジオで放送されたのだが、出来がよすぎたのか、本当に火星人が攻めてきていると思ってパニックを起こした人がおり、警察や自治体などに問い合わせの電話が殺到したのだという。
このときに放送を真実だと思ってしまったのは、どんな人たちだったのか。
キャントリルによる1971年の論文によると、パニックにおちいった人々の多くが低学歴層で、中でも所得の少ない層ほど多かったという。中卒かつ低所得の人だと50パーセント以上がウソ番組を真実だと信じていたというデータが出ている。
※詳しくは邦訳本「火星からの侵入」川島書店。
多くの場合、人は、物事に判断を下すとき、まずは自分の経験や知識と照らし合わせるという内部処理を行う。
一般的には高学歴、高所得の人ほど多くの知識を持っているため、「侵略されてるにしては、近所の軍基地がピクリともしないってことはジョークだろ」とか、「地球に宇宙船でくるにしても、大気圏突入したら燃えるんだから目立つに決まってんだろ」とか、いろいろ考えて総合的に判断することができる。知識が少なければ、自分で判断する材料が乏しいため、メディアの言うことを鵜呑みにする可能性が高まる。
現代においても基本は同じだと私は考えている。
インターネットの発達によって安価に大量の情報に得られる時代にはなったが、その膨大なネットの情報から取捨選択していくのは結局は受け手なので、転がっている情報の真偽や価値を見極められる基礎知識がなければ、パニックに陥りやすい、信じやすき危うい人間にしかなれない。
これは、低学歴の人が一概にバカだと言っているわけではない。各々、得意なジャンルがあり、苦手なジャンルの情報は批判的にとらえることが出来ないのではないか。という可能性を示している。
たとえば、最近のニュースではやたらと放射線の数値がどーたらいう話をしているが、人は、普通に生活しているだけでも常に被爆している。 何でかというと、太陽さんが放射線もだしているから。あれは宇宙に浮かぶ巨大な原子炉みたいなもんなんだよね…。
登山やってると、山の上に行くと太陽に近づくぶん紫外線や放射線が強くなるのでお肌は守りましょうー ってのが常識だったりして、「被爆」という言葉を聞いても、通常より高い放射線がー とか言われてもパニック起こすほどのこともないのだが、そんな知識ない人からすると、通常よりチョット放射線が上がりましたってだけでメチャクチャびびってしまうものなのかもしれない。
ビビった状態で情報を受取ると、正常な判断が出来なくなる。
そして、このテのジャンルの場合、高学歴な裁判官様より工業高校卒業の技術者のほうが詳しい、なんてこともあり得るだろう。単純な学歴比較ではなく、その情報のジャンルについて自分がどの程度の知識を持っているか、である。
自分が興味を示して情報を探さなければ手に入らない世界と違って、ネット上にはありとあらゆるジャンルの情報が玉石混交で流れており、しかも自分から見つけに行かなくても向こうから一方的に流れてくることも多い。
そんな中で情報の真偽判断基準を見失い、個人としての処理限界を越えてしまう…というのが、ネット上で偽情報が拡散される原因ではないのか。
だとすれば、それを防ぐ方法は、そのジャンルに知識のある人が大きな声を上げる ことしかない。
すべてのジャンルに対し高度な教育をうけた人間など存在しない。誰でも苦手ジャンルはある。
その苦手ジャンルの情報を偽情報と気づかずに拡散してしまう可能性は、誰にでも存在する。
拡散すること自体が止められないのなら、初期で拡散を止めるしかない。真実を知っている人が、偽情報が大規模に拡散する手前で適切なツッコミと適切な修正を加えてそこで拡散を止めること。これが一番の対処法になるはずだ。
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ちなみに、ちょっと系統は違うが、迷信や誤解に関わる研究本としては、「人間 この信じやすきもの」がある。
人間、なんかの判断下すときの接続先DBってだいたいlocalhostなんスよね。
んで、迷信や誤信っていうは、処理の簡略化やショーカットの一種だったりする。それがないとDB処理がめちゃめちゃ重くなって、それはそれで生きていくのに不具合があったりするんで、まぁ巧く付き合っていこうぜってことですかね。
その意味で使われるのはrumor(流言)。
…なのだが、現在では日本語のカタカナ「デマ」は、いい加減な情報一般を指すものと認識されているので、まぁ、まぁ、ここではそのへんは適当でいいとしよう。
このエントリの中では、「流言」を人間集団の中で変容する偽情報、「デマ」をネット上でコピペ拡散される偽情報と仮定義した上で話を進めていく。
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誤った情報の流布というのは、人々が不安をいだいた時に起こりやすい現象である。…という話を前のエントリで書いた。
しかし、前のエントリで書いた話は、あくまでも集団心理である。
自分が所属し、意見の拠り所としている「準拠集団」内でのうわさや、スーパーに並んでいる人の群れを見て流されてしまう、つまり周囲に他人がいて、直接他人からの情報を受け取っている状態で発生するものであり、基本構造は「伝言ゲーム」。
ネット上で広まるデマは、これとは発生の構造が少し違っている。
ネット上のデマは、誰かがツイッターでつぶやいた内容や、掲示板に貼りつけたコピペを見たひとがそれを真実と信じ、別の場所に拡散することによって発生する。すなわち、集団心理としての「流言」と異なり、情報の発信者が誰であるかを認識する必要はなく、情報は首尾一貫して変化しないことが多い。
これが、人から人へ伝わってゆくうちに変容してゆく従来の集団心理としての「流言」と、誰から発信されたものか特定しないまま拡散されていくネット上の「デマ(偽情報)」の決定的な違いである。
「流言」は、前のエントリで述べたとおり、発生時点では嘘ではない。
豊川信金の取り付け騒ぎでは、発生する前に実際に倒産した信用金庫があり、「信用金庫は危なくないのか?」という疑問が人々の心にある中で「危ないかもしれない→危ない」へと情報が変化することによってパニックが発生した。
オイルショックの際のトイレットペーパー買い占めは、たまたまスーパーの特売でトイレットペーパーが安く売りだされていたのに人々が群がっているのを見た人が勘違いしたことから発生している。(※これについては当時の状況が正確ではないため、決定的な原因かどうかは断言できないが。)
しかし、ネット上でコピペ拡散される偽情報は、発生した時点から嘘である。
ネット上のデマには、必ずと言っていいほどその情報を広めてくれという切迫した懇願が添えられている。しかし、この懇願はほとんど意味をなさない。なぜならば、赤の他人からの協力要請は、知人・友人からの協力要請にくらべ、応じようとする意識の動きがはるかに弱いからである。発信者がいかに多くの友人を持っていたとしても、「この情報を広めてくれ」という切迫した懇願だけでは、デマ情報が短期間に大規模に広まることは、ない。
原因は、その情報が正確か否かを判断することが出来ない個人にある。
短期間に大規模に拡散するためには、道端でメガホンもって叫んでる誰かの言葉を、たまたま通りすがった赤の他人が「真実だ」と思わなければならない。叫ばれていたその言葉が雄弁であるかどうかは関係ない。通りすがった赤の他人である拡散者自身が、その情報をすぐに拡散するか、スルーするか、はたまた落ち着いて真偽を確かめようとするか、受け手の行動の違いだけだ。
ここまでは、いいだろうか。
ネット上のデマ拡散の要因は、集団ではなく個人に原因がある。
ここで使えそうなのが、偽の情報に騙されやすい人というのが存在する、という心理学の研究。
題材として有名なのが、1938年にアメリカで放送されたラジオ番組「宇宙戦争」。
火星人による地球侵略を臨場感あふれるドラマ仕立てにしたもので、ジョーク番組のようなものとしてラジオで放送されたのだが、出来がよすぎたのか、本当に火星人が攻めてきていると思ってパニックを起こした人がおり、警察や自治体などに問い合わせの電話が殺到したのだという。
このときに放送を真実だと思ってしまったのは、どんな人たちだったのか。
キャントリルによる1971年の論文によると、パニックにおちいった人々の多くが低学歴層で、中でも所得の少ない層ほど多かったという。中卒かつ低所得の人だと50パーセント以上がウソ番組を真実だと信じていたというデータが出ている。
※詳しくは邦訳本「火星からの侵入」川島書店。
多くの場合、人は、物事に判断を下すとき、まずは自分の経験や知識と照らし合わせるという内部処理を行う。
一般的には高学歴、高所得の人ほど多くの知識を持っているため、「侵略されてるにしては、近所の軍基地がピクリともしないってことはジョークだろ」とか、「地球に宇宙船でくるにしても、大気圏突入したら燃えるんだから目立つに決まってんだろ」とか、いろいろ考えて総合的に判断することができる。知識が少なければ、自分で判断する材料が乏しいため、メディアの言うことを鵜呑みにする可能性が高まる。
現代においても基本は同じだと私は考えている。
インターネットの発達によって安価に大量の情報に得られる時代にはなったが、その膨大なネットの情報から取捨選択していくのは結局は受け手なので、転がっている情報の真偽や価値を見極められる基礎知識がなければ、パニックに陥りやすい、信じやすき危うい人間にしかなれない。
これは、低学歴の人が一概にバカだと言っているわけではない。各々、得意なジャンルがあり、苦手なジャンルの情報は批判的にとらえることが出来ないのではないか。という可能性を示している。
たとえば、最近のニュースではやたらと放射線の数値がどーたらいう話をしているが、人は、普通に生活しているだけでも常に被爆している。 何でかというと、太陽さんが放射線もだしているから。あれは宇宙に浮かぶ巨大な原子炉みたいなもんなんだよね…。
登山やってると、山の上に行くと太陽に近づくぶん紫外線や放射線が強くなるのでお肌は守りましょうー ってのが常識だったりして、「被爆」という言葉を聞いても、通常より高い放射線がー とか言われてもパニック起こすほどのこともないのだが、そんな知識ない人からすると、通常よりチョット放射線が上がりましたってだけでメチャクチャびびってしまうものなのかもしれない。
ビビった状態で情報を受取ると、正常な判断が出来なくなる。
そして、このテのジャンルの場合、高学歴な裁判官様より工業高校卒業の技術者のほうが詳しい、なんてこともあり得るだろう。単純な学歴比較ではなく、その情報のジャンルについて自分がどの程度の知識を持っているか、である。
自分が興味を示して情報を探さなければ手に入らない世界と違って、ネット上にはありとあらゆるジャンルの情報が玉石混交で流れており、しかも自分から見つけに行かなくても向こうから一方的に流れてくることも多い。
そんな中で情報の真偽判断基準を見失い、個人としての処理限界を越えてしまう…というのが、ネット上で偽情報が拡散される原因ではないのか。
だとすれば、それを防ぐ方法は、そのジャンルに知識のある人が大きな声を上げる ことしかない。
すべてのジャンルに対し高度な教育をうけた人間など存在しない。誰でも苦手ジャンルはある。
その苦手ジャンルの情報を偽情報と気づかずに拡散してしまう可能性は、誰にでも存在する。
拡散すること自体が止められないのなら、初期で拡散を止めるしかない。真実を知っている人が、偽情報が大規模に拡散する手前で適切なツッコミと適切な修正を加えてそこで拡散を止めること。これが一番の対処法になるはずだ。
結論
・ネット上のデマの拡散は止められないが、ツッコミ入れられる奴がツッこんで初期で止めることはできる
・分かってる奴は黙ってないでツッこんでやれ
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ちなみに、ちょっと系統は違うが、迷信や誤解に関わる研究本としては、「人間 この信じやすきもの」がある。
人間、なんかの判断下すときの接続先DBってだいたいlocalhostなんスよね。
んで、迷信や誤信っていうは、処理の簡略化やショーカットの一種だったりする。それがないとDB処理がめちゃめちゃ重くなって、それはそれで生きていくのに不具合があったりするんで、まぁ巧く付き合っていこうぜってことですかね。