映画「マイティ・ソー」 北欧神話+アメコミなカオス映画を観てきたぞ感想。

と、いうわけでこの映画の企画が上がった時からある意味楽しみにしていた「マイティ・ソー」、行ってきました。

公式ページ
http://www.mighty-thor.jp/

元ネタのアメコミ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%BC

タイトルの「ソー」はthor、つまり北欧神話の雷神トールのこと。 ちなみにマンガ「ヴィンランド・サガ」の主人公トルフィンの「トル」もthorから来てたりします。北欧では一番人気の神様なので、 トルケル トーラリン ソルフィン トールディース etc、男女とも人物名に使われることがとっても多い。

北欧神話が元ネタではありますが、北欧神話を元ネタにしたアメコミを元ネタにした映画 なので注意が必要。北欧神話がモチーフのアメコミヒーローアクションを、原典をかなりいじって時間内に収めたものなので、大元の北欧神話はかなり原型なくなってますが、まぁそんなもんです。

「マイティ・ソー」自体、かなり昔から北欧神話マニアの間ではネタとしていじり対象です。なもんで自分はギャグ映画として見に行きましたが、結果的にそれが正解です。北欧神話ネタの重厚さや、アメコミが元ネタの派手なヒーローアクションとして観に行くと、どっちつかずの中途半端さにガッカリすると思う。3Dで見たけど、ぶっちゃけ3Dの意味はあんま無い。ていうかアメリカの片田舎のバーやキャンピングカーなんかのやたらスケールの小さいシーンが続く映画を、わざわざ3D上映する意味があったのか(笑)

…お察し下さい。


自分は楽しかったけど、おそらく一般人ウケはしない。マーベラスは続編出す気満々だけどこれはムリだと思う。^^;


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さて、この映画を「北欧神話元ネタギャグ」として見た場合の見所。



何といっても、主人公トールさんの滑りっぷり


演じる俳優もイケメンマッチョ、アスガルドの王オーディンの長男で巨人殺しの異名を取る気高き戦士であるところのトールさん、映画開始5分でライトバンに派手に撥ねられる。

ここで爆笑したのが私だけで、前後左右のカップルがポカーンとしていたのが寂しい。トールさんだよ? あのトールさんが今、すごい勢いで車に撥ねられたんだよ?! 例えるならアントニオ猪木が子猫のパンチで鼻血出したくらいの勢いなのに! やはり凡人にこの笑いのツボは分からないのか。

さらに跳ねられたトールさん、暴れたところをスタンガンで気絶させられ、病院から脱走しようとするところをぶっといお注射を刺されて若干アヘな顔しながらノックアウト。ああん、そんな無防備なトールさんの姿は・ぢ・め・て。

さらにさらに、ミョルニル・ハンマーを取り戻そうと政府の秘密機関が監視する施設に侵入、ハードボイルドなアクションを繰り広げるも失敗して拘束・緊縛・尋問プレイ

何気にロキさんの言葉攻めもいい感じ。


まさに、 トール 総 受 け 。


と、いう感じで、ハンマーの無い無力なトールさんが虐げられる様をニヨニヨしながら見ると楽しい映画。
この楽しさはまさに、巨人スリュムにハンマーを奪われ女装姿で巨人の国に潜入せざるを得なくなったトールさんの珍道中「スリュムの歌」に見るトールさん弄りの伝統を受け継ぐもの。ペットショップに「ウマは売ってないのかー!」と言いながら突っ込んだり、場末のバーで一気飲みしたりするトールさんのお姿も必見。このへんは原典(北欧神話)を知ってると爆笑まちがいなし。

逆に、トールさん弄りのミームを持たない一般人には、笑うにしても楽しむにしても、どうしても一つ壁があるような気がしてならない…。



尚、この映画で一番カッコ良かったのは、文句なしにヘイムダルさんです。

画像



虹の橋ビフレストの番人、アスガルドへの侵入者を見張り続ける門番さん。ある意味ロキの不倶戴天の敵、ラグナロク時はロキさんと心中 相打ちと定められた、古来よりBL展開の一番人気とされていたアノお方。

「白きアース」とも呼ばれるヘイムダルさんを黒人が演じることについて、キャストが決まった時点で白人に変えろと下世話な反対運動が起きたりしてたわけですが、何のことはない、むしろ一番しっくり来てた。何故かトールの仲間に中国人(?)が居ることに比べれば、全然マシじゃねーかと。

黒い肌に金ピカの鎧なんかまとっちゃってるもんだから、ビジュアルは完全にゴールドセイント(笑)
そしてやたら強そう。
ロキさんの氷結魔法も自力で破ってるくらい強いし、映画の中では一番の常識人だった…。原典でも、ロキがいじりネタを見つけられないくらい私生活に隙がない超マジメ仕事人間ですはい。



しかし、その他のキャストやビジュアルについては絶望的なまでにミスマッチング。

トールさんが、赤毛じゃないこと以外は辛うじてグローバルイメージに近いのに比べ、オーディン、ロキ、フリッガ、シフ、ラウフェイ(!)なんかは、「誰?」状態。ロキは黒髪の細身だからまだいいとしても、金髪じゃないうえにガチムチのシフに存在価値はあるのか。ラウフェイに至っては、ロキの「母」のはずが性別変えられてるばかりか原典の名残が全く無いという。スタッフの北欧神話への愛・知識は絶望的なまでに低い。原作のアメコミに忠実な作りでもなく、意味のよーわからん改変を加えた結果、北欧神話マニアにとってもアメコミファンにとっても中途半端なものに仕上がった感がある。

せめて、せめてトールは赤毛に…。
せめてロキはヨトゥンヘイムじゃなくてムスッペルヘイムの巨人族に…。


曲りなりにも北欧神話原典なら、ジェーンとかいう金髪のアメリカ女とのラブロマンスは要らなかったよな。
おまいの奥さんは金髪のシフ(シヴ)さんだろ! あんだけ妻ラブだったトールさんは何処へ行ったんだ。
シフの目の前でアメリカ女とチッスとか、アメコミファンは許しても北欧神話ファンは許さないよ!!

確かに金髪じゃないシフさんはシフさんではない。が、映画のシフさんが金髪じゃないからって別の金髪女とイチャイチャして許されるわけがない。おまいは結局ただの金髪フェチなのか。いいやそんなはずがない。戦いは得意だけど女口説くのはめっぽう苦手で、女装ロキにすらドキドキしちゃう、そんな朴念仁なトールさんが、俺は好きなんだ! 頼む元の…原典寄りのトール、早く戻って来てくれーーーッ!!



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 小  休  止
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ちなみに、映画の主人公はトールさんだが、もう一人の主人公は、間違いなくその「弟」であるところのロキさんだ。(元ネタの北欧神話では、父神オーディンと「義兄弟の契りを交わした」ことになってるので、義叔父なのだが…)

このロキさん、とかくキリスト教圏では扱いが悪い。特にアメリカではサタン呼ばわりされたり狡い卑怯者扱いされたりと正しい扱いがされていない。所詮、善か悪かの二元論でしか物事を理解出来ないアメリカ野郎にはロキさんを理解することは難しいのである。だが八百万の神を擁する日本文化に浸った諸君はきっと分かってくれるはずだ。

善でも悪でもないトリックスター的存在こそ最も原始的な英雄の姿であると。




ロキさんの真骨頂とは!



イケメンで頭も切れて口喧嘩では神々一

ヘイムダルと相打つくらい実は強いんだけど

しょーもないことで失敗してしょっちゅうピンチになっている

あとハラペコキャラで大食い





他人の嫁も容赦なく寝とるタラシと見せかけて

掘られたこともある両刀使い 獣姦OK

脱いで露出したり女装したりする





この属性のカオスっぷりなんですよ!!




アスガルドの神々の中でいちばん体張ってるのはロキさんなんですよ?
誰のおかげでオーディンやフレイの武器乗り物が手に入ったと思ってるんです? スキールブラズニルもスレイプニルもロキさんの手柄ですよ?

トールさんがうっかりハンマー無くした時も、巨人族がアスガルドの城壁を築くときだって、ロキさんいなかったら神々の世界は終わってたじゃないですか!
めっちゃ役にたってるんですよ!


ただ気分で裏切るけどな


そのあんま深く考えずにノリで行動して世界を揺るがせちゃうトラブルメイカーっぷりがロキさん最大の魅力なんだ。有事の際にはためらいなく体を張れる勇気の持ち主でもある。いつもいつもブチ切れてハンマー振り回してるトールなんかよりよっぽど神なんだぞ。

たとえば、トールさんがいつもの癇癪でブチ殺しちゃった巨人の娘がアスガルドに乗り込んできて、「和平? フン、わらわを笑わせることが出来たら考えてやってもいいけどネ!」って言ったときなんか、ロキさん迷うこと無く局部を露出ですよ。
でもってキ○タマをヤギのヒゲに結びつけて、ヤギが頭を動かすたびにプラプラしてロキさんが悲鳴を上げるというわけのわからん下ネタ満載な一発芸を披露して、あわや一触即発だった雰囲気を和ませたばかりか巨人族との和平も成立させてしまったという逸話があったりするんだ。原因作った癇癪もちのトールは何も出来なかったのにだよ。

ヨゴレ役になるため自ら脱げる男、それがロキさん!
まぁそのあと、笑わせたスカジさんをベッドで美味しくいただいちまったわけだけどな! とにかく自由奔放で読めない愉快な奴なんだ。


そんなロキさんが、神々の王になりたいとか、まず思うわけがない。自由気ままにやりたいことをやるだけだ。鷹の衣で巨人族の国もすいすい飛び回るロキさんには、すべてを見渡すオーディンの玉座すらつまらんはずだ。


あと、奴は父の愛がどーのとか真剣に悩んだりしない。愛されるより愛したい派。
オーディンに追放された娘や息子のことも愛しているので、結局はそれがラグナロクを引き起こす原因になっているとも言える。世界のクライマックスなラグナロクの時、遠ざけられていた子供たちとの連合ファミリー軍勢でアスガルドにカムバックするのは、自分がオーディンに愛されなかったからではなくて、自分の家族がアスガルドの神々に愛してもらえなかったからだと思うんだ。家族愛はあるんだけど、あんなウジウジした家族愛ではないんだよ。たとえ魔女に産ませた化物じみた狼でも、半分死んでる娘でも、自分の子として愛せちゃう懐の広い男なんだぜ!



というわけで、トール弄りは良かったがロキさんの真の魅力が全く反映されていなかったことについては非常に残念に思う。というか、あんなのロキさんじゃねぇ。映画のロキさんに性格が一番近いのは、オーディンの息子でバルドルの弟、盲目神ヘズだろう。
本当のロキさんはもっとお調子者で気分屋で、クールに見せかけて三枚目で、毎回トールに「ブッ殺すぞテメェ」とか言われながら腐れ縁の親友なんだ。そのへん語り出すと夜が明けてしまうので、今日はこれくらいにしといたらァ!

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