エジプト東方砂漠の局地的な大雨と城壁の関係

エジプトの真ん中あたりにあるアコリス遺跡は、日本の調査隊が詳しく調べている遺跡なので日本語の資料がたくさんある。
町として人が住んだ期間も長いので、エジプトの都市文明を知る上では面白く、参考になる遺跡なのだが、この都市の特徴の一つとして立派な城壁が町を囲んでいるというのがある。

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エジプトの都市で城壁を持っている(城壁が残っている)ものは、たぶん他の国に比べれば少ない。
それはファラオ時代を通じて内戦が少なかったことや、川や砂漠といった自然の環境が天然の城壁として機能したことと関係があるのだろうが、理由はともかく、数としてはあまり無く、ゆえに城壁を都市機能の第一と考えるヨーロッパの学者などは、エジプトを「都市なき文明」と呼んだりもしていた。実際は、エジプトで言うところの「都市」の定義がヨーロッパの「都市」の定義と異なるだけだと思うっているのだが…。

余談はさておき、このアコリスを囲む城壁。

実は、ヨーロッパのように、敵から身を守るためという目的で築かれたものではない。もちろん幅2m以上にも及ぶ立派な城壁だから、野盗や野犬から身を守るのに多少は役に立ったかもしれないが、その第一の目的は実は「洪水から町を守ること」だったのだという。

それも、ナイルの洪水ではない。立派な城壁があるのは、ナイルと逆の砂漠側なのだ。

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実はエジプトの東方砂漠では、局地的な大雨が降ると大地が水を吸収し切れずに、水が涸れ谷を一気に流れ落ちて狭い範囲で深刻な洪水を引き起こすのだという。頻度としては数十年に一回。アコリスの城壁の外側には洪水の痕跡が残っており、また現代の村の外側にも、排水のための深い溝が掘られているのだという。

エジプトのこの局地的な雨は、古代から頻度としてはあまり変わっていないのではないかと思う。
現代でも数十年に一回の豪雨で遺跡の倉庫が浸水しましたテヘッ☆ …みたいなニュースはたまに聞く。年間降水量が10ミリにも満たないような国だが、全体として見ればそうだというだけで、まんべんなく降らずに一箇所に一回で一気に全部降るということか。異常気象のせいというわけではなく、元から局地的な雨が降りやすい国なのかもしれない。


しかし数十年に一回の頻度ということは、一生が50年とすれば2回くらいは食らうわけで、頻度としてそう低くはない。
ナイルに近すぎれば毎年の川の増水で、異常に水位の高い年には影響を受けるが、かといって川から離れて集落を作っても砂漠から水が流れ落ちる涸れ谷に近すぎると鉄砲水に流される。乾燥した気候のわりに、エジプトさんは水害の多い国だなあ、としみじみと思う次第である。

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