俺得映画「アイアン・クラッド」感想 上映打ち切られそうだったのでダッシュで観て来た!

「アイアン・クラッド」は、髪を切りに行って「るるぶ」読んでたら載ってたんで観に行こうと思い立った、そんな映画。

公式サイト
http://www.earthstar.jp/movie/ironclad.html


上映1館のみ(銀座シネパトスというまたマイナーなところ・・・)、一日1上映(採算とれないと踏まれたらしい・・・)、しかも6/30以降の公開未定っていう切られる予感満載な映画なのに何故観に行こうと思ったかっていうと、あらすじと画像から、俺得映画のニオイがしたから。


公式あらすじ

1215年、ジョン王は国民に自由を与えること、国王といえども法の下にあることを確認する文書、“マグナ・カルタ”に署名をさせられる。意に反して署名させられたジョン王は怒りに震え、悪人揃いの傭兵団を結成。全権力を奪回すべく国中で暴れ回る。今にも王権を奪回しようと、ロンドンに迫った王と傭兵団。彼等の勝利の前に立ちはだかるものは、もはやロチェスター城だけであった。オルバニー卿によってロチェスター城に集められた一握りの戦士たち。彼らは反乱軍を結成しフランスからの援軍到着までの間、城をジョン王から死守しようとする。その戦士のひとり、テンプル騎士団の騎士は心に苦しみを抱えていた。十字軍の頃の残虐な行いに対し強い罪悪感を持つうえに、城主の妻イザベルに淡い恋心を抱いてしまったのだ。無謀とも言えるこの戦いから、果たして彼らは生き残れるのだろうか……。



えー、あってます。
珍しく公式あらすじが映画の内容とあってます!

ですよこれですよ。ちゃんと映画見てわかってる人が書いたあらすじですよ。
興行成績も大事だろうけど、ぜんぜん違う内容書いて観客だますのはやっぱダメだと思うんですよ・・・。

宣伝もされていないため見に行く人は少ないと思われ、上映している映画館もウチの実家の近所に昔あったちっちゃい東宝みたいなノリの昭和臭のする小さなところ。しかも内容が血みどろヒャッハァな感じなのでオサレな映画を求めていく人には間違いなく合わない。またカメラワークや音響がめちゃくちゃすごいというわけでもないので、映画ファンでも合わない人はいると思う。


ただ、歴史ファンには全力でオススメする。


13世紀イングランド、十字軍の時代、百年戦争、テンプル騎士の生き残り、ジョン失地王追放に至る歴史的出来事…etcのキーワードに反応する人は是非見に行くか、DVD出たら借りてみるべし。

ジョン王の衣装が「あーこれタペストリで見たわ」って感じだったり、ジョンが雇うデンマークの傭兵の武器がちゃんと実際にヴァイキングが使ってた盾割り用手斧だったり、主人公の十字軍衣装が絵に描いたような十字軍だったり、城の構造がバッチリ当時の城だったり、と、ムダな装飾を除いてとにかく史実に近づけようとした風で大変よろしい。そして戦いがむっちゃリアル。

城攻めは、夏が終わると一気に厳しくなるのは実際にそう。冬になってジョン王がいったん引くところをわざわざ入れてるのが憎い。

籠城戦で重要なのが食料と、敵に汚染されない「水」の確保だという話や、投石機とハシゴを組み合わせた城壁突破などはまさに当時の戦いそのものだし、攻城兵器や地下坑道からの爆破など、使ってる手段が地道で現実的なのも良い。(ていうか、籠城戦の場合、その城が使ってる水源に毒投げ込めれば一発で終わるからね…。)

主人公が英雄的な働きで… とか、奇策を使って… とか、ちょうどいいときに心強い味方が… とかいう逃げはない。正攻法で防衛して、順次死んでいく。食料がつきて馬を食うとか、死体を処理できなくて城の中庭に埋めてるあたりの描写もキッチリ入れてくるのが、「中世の籠城戦を」見たい人にとっては高いポイントかと。そして甚大な被害は出ましたが時間稼ぎが間に合いました! 味方が数人でも生き残れば勝利は勝利なんです! っていうのもまたリアル。ジョン王が捕虜の手足をブチ切ってるあれも、ただグロいシーンをいれたかったわけではなく、ほんとにやった史実の出来事だからだったりする。

と、まぁ私は好きだけど、逆に言うと「映画」をエンターテイメントとして見に来てる人からすると相当つまらんのだろうな…(笑)

歴史ファンはほら、昔の世界がどんだけリアルに再現されてるか、その世界に入りきれるかが判断基準だから。世界観さえできてれば、ストーリーが地味とか配役がどうとか気にしないからね。

映画としての「フィクション」や「ファンタジー」という妥協を一切いれずに、ひたすらリアルに歴史を再現することにこだわった、テレビの2時間スペシャルにしては金がかかりすぎている、しかし映画館で見るには地味、そんな映画だった。





さてこの映画、舞台は13世紀初頭ということで、以前上映された、ラッセル・クロウの「ロビン・フッド」と同じ時代。(観て来たレビューはこちら) 正確には、そのすぐ後の出来事になる。

「ロビン・フッド」で主人公のロビンが関わることになるマグナ・カルタ草稿だが、この映画では、その後の世界としてマグナ・カルタが成立、ジョン失地王はいったんは署名するが、内容に納得いかず反撃に打って出る… というストーリーになっている。

監督が黒澤明のファンだったとかで、7人のサムライならぬ凸凹な戦士たちが城の防衛のために集合する。
かつてともに戦った仲間だったが、今や酒浸りの毎日を送っていたり、肉屋だったり、荒野で鍛冶師をしていたりする男たち。何をやらかしたのか処刑されかかっていた怪力の男。一行のまとめ役オルバニー男爵は元商人。その侍従の若者。主人公は十字軍帰りのテンプル騎士(騎士団を抜けようとしている)。加えてロチェスター城の住人たちで20人。

彼らの使命は、フランスの援軍がくるまでロンドンへの途上にあるロチェスター城を守りぬき、ジョン王を王座から叩き落とすこと…。


寡黙な主人公が、寡黙であってくれたことも逆に良かった。「元十字軍騎士」「騎士団を抜けたがってるテンプル騎士」という設定だけで、だいたい何があったのか分かるからだ。
「殺すことに意義はない」「フランス騎士は来なかった。ダマスカスの時は」「すべての死には意味がある」「殺人は野蛮だ。死んでゆく人々こそ生きるべきだった」など、短いセリフの裏側には、聖地奪還という虚しい願いのもとに数多くの仲間が死んでいった戦場、神の名の下に異教徒であるというだけで女子供まで惨殺した日々があったんだろう。

この辺りは、映画で描かれていない、ジョン王の兄リチャードの行った第三次十字軍の知識だ。「歴史ファンにオススメする」というのは、描かれていない時代背景を知らなければ、主人公たちのとった行動の真意が分からないかもしれないから、というのもある。

ちなみに、主人公のセリフの中で一番重いのは多分、

 「誓いを守らなければ、心が壊れてしまう」

…ここだろうと思う。

神のため、国家のため、いずれにしても「理由」と「規則」でがんじがらめにしなければ、まともな理性を保ったまま生きて帰れない。華やかに思えるかもしれない十字軍は、実際はそのような過酷で不毛な人殺しの日々という面ももつ。「戦っている時の自分は別物だ」と思い込むことで、主人公は理性を保ってきたようだが、それも限界に達したのだろう。ここで主人公が騎士団を抜けようとしている理由もはっきりするのである。

主人公が城の構造や少人数での防衛に長けているのも、十字軍が占拠した西アジアの主要都市周辺に作られた夥しい十字軍要塞と、そこを拠点に多数の異教徒と戦い続けた歴史を知っていれば納得出来る。

登場人物は、映画で直接描かれていない「設定」+「時代背景(歴史)」の部分でキャラが立っているわけなので、予備知識ないとキツそうだなーと思う部分が多々あった。




ちなみに、最後はいちおうハッピーエンド。
かろうじて主人公補正で主人公生き残った。死にかけてボロボロになってたけどな…。剣は折れたし、もう戦わなくていいんだぜ的な。

しかしこの映画のジョン王は、まれに見るks野郎でした(笑)
史実としてロクな死に方しないのわかってたから安心して見てられましたが。
側近の誰かがさくっと刺しちゃえば、こんな面倒な戦いしなくても済んだんじゃねーのかなー、とかなんとか。

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