エジプトとメソポタミアで意味の違うもの:ハエ

日本では、ハエ、といえば死体や腐肉に群がるもの、というイメージである。

古来よりハエがポジティヴなシンボルとして使われたことは、日本では、あまり無いと思う。銅鐸の模様でも、トンボなんかは豊穣のシンボルで出てくるけど、ハエってちょっとな。手をすり合わせる動作が胡麻すりをしているようで下賤っぽいというイメージでもあるし、卑しく腐った肉に群がる不浄のイメージが強い。

メソポタミアでもそれはだいたい同じで、死の神ネルガルのシンボルとして印章に登場するのだという。
…たぶん大多数の日本人は「うん、それ普通じゃない?」って思うだろう。死神とハエ。




でもさ、

エジプトさんでは粘り強いことを指す勇気の紋章なんだ…

戦争で手柄をたてた軍人さんは黄金のハエの勲章がもらえたらしいよ。うぇーい。

画像



エジプトさんでの意味を先に知ってたので、メソポタミアの印章のハエも同じ意味だと無意識に思っていて、意味が違うことに本日気づいて「えっ」となった中の人。よくよく考えたらメソポタミアでのハエの扱いのほうが、日本からすると普通じゃん…。

ただ、エジプト同様の「ハエの首飾り」ってのは、メソポタミアでも使われてたっぽいんだよね。
「ギルガメッシュ叙事詩」の中で、不死の老人ウトナピシュティムが語る「大洪水」の話の中に、こんな記述がある。

神々はその芳しい香りを嗅いだ。
神々は、五月蝿のように主のところに集まって来た。
マハは到着するやいなや、すぐに、
アヌがその飾りに造った<大蠅>を掲げた。
『神々よ、わたしはわが項(うなじ)のこのラピス・ラズリを決して忘れまい。
(以下略)

ギルガメシュ叙事詩/月本昭男 訳/第11の書板部分


マハは母女神ベーレト・イリーと同一視される女神。ここでは、ラピス・ラズリで造った蠅の首飾りをかけている。

神々が供物の煙に「蠅のように」群がる、という描写や、人間たちを造った女神が蝿の飾りをつけているところなんかは、やはり日本とはどうも感性が違うし、エジプトとも違う。何なんだろうな、ネガティヴなイメージではあるんだけど、「生と死は表裏一体だから死を象徴するハエも神聖なもの」みたいな感覚なのかも。

ありふれたものの意味も、文化圏によって違うのが面白くもあり、人間の難しさを感じる。


<イメージ属性まとめ>

日本のハエ 死△ 群がる○ 神聖× 勇敢×
メソのハエ  死○ 群がる○ 神聖○ 勇敢×
エジのハエ 死× 群がる× 神聖○ 勇敢○

もしくはエジプトの黄金のハエが、ケルトにおけるカラスのように「カラスに餌(死体)を与える」という意味から来ているのだとすると、「ハエに餌(死体)を与える」=死の象徴 ってのもアリなのかなあ…? イメージの出処が分かればな。

この記事へのトラックバック