ベーオウルフの翻訳あれこれ「ネイリングは灰色の剣なの?」

やっはーもう11月だぜーー!
色々追いつけてない… ぜ… orz <今年も残業時間がマケマケイッパイです

とかいうわけでアレでナニですが、春頃の宿題だった「ベーオウルフの剣は灰色なの?」の件。

ベーオウルフに登場する主な剣の一覧はこちら。出てくる剣は本数が少ないので、探すの自体はそんなに大変ではなく、ひと通り舐めて「灰色の剣なんてないよ。」と結論づけていたけど、実はあったんだな灰色の剣。

http://www.moonover.jp/2goukan/beowulf/sword.htm


ベーオウルフが火竜と戦ったときに使って折れてしまう剣ネイリング(ネグリング/ナーゲリング などとも書かれる)が、ある翻訳では「灰色の剣」と書かれているのを発見した。

ネイリングという、古く灰色のベオウルフの剣は折れた。戦いにおいて、鋼鉄の刃の剣が、彼に助けとなるようには、定められていなかった。

新口語訳 ベオウルフ/大場 啓蔵 訳★1978年初版


第三十六歌章ですね。
でも、ここの部分の訳で「灰色」っていうのに違和感があって。案の定、ほかの本は違っていた。というか、比べてみるとけっこう違ってた。

ネイリングは木っ端微塵と砕けぬ。古くして灰色なるベーオウルフの剣は戦に於いて無益のものとなりぬ。

ベーオウルフ 附 フィンズブルフの戦/厨川文夫 訳★1941年初版


これは大場訳とほぼおなじ。「古い」「灰色」という単語を使ってる。
ところが…

ベーオウルフ王秘蔵の鈍色の古剣
ネイリングは砕け散り、戦に臨んで
用をなさなかった。

中世イギリス英雄叙事詩 ベーオウルフ/忍足 欣四郎 訳★1990年初版


「古い」はそのままだけど、「灰色」の代わりに「鈍色」が使われている。
自分の知識はこの本が基準点になっているので、「灰色」だと思っていなかった。

該当箇所を対訳版で原語と一緒に確認してみる。
こちらは「古英語叙事詩 ベーオウルフ 対訳版」苅部 恒徳、小山 良一訳。★2007年

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…同じ箇所が「由緒ある煌めく」になっていた。

さらにもういっちょ「古英詩 ベーオウルフ」山口秀夫訳も。★1995年

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「古い黒ずんだ剣」。

つまり翻訳の違いで剣の外見が変わると。

古英語自体が研究対象な古い原語なので、「gomol ond græg-mæl」をどう訳すか、学者さんによって解釈が違うんじゃないかと思われる。ただ年代順に並べてみると、最近のトレンドとしては「灰色」ではなく、古びた感じの色、とかになっている…という感じなのかね。

他にも細かいところを見ていくと、「名刀」「王の秘蔵の剣」「由緒ある」などと人によって訳に充てる単語が違ってたりして、非常に面白い。剣の見た目なんて今まで気にしたことがなかったから、改めて比較してみてちょっとびっくりした。

というわけで、結論。

ネイリングは、灰色の剣かもしれないし、煌めく剣かもしれない。(翻訳による)


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関連項目

ベーオウルフの剣 (フ)ルンティングはなぜグレンデル退治の役にたたなかったのか
https://55096962.seesaa.net/article/201101article_23.html

Beowulf邦訳本リスト
https://55096962.seesaa.net/article/201102article_19.html

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ベーオウルフも新しい参考書がたくさん出ているので、また勉強しなおしてみたいなあ。…時間が、あ、あれば。。。(がくがく)

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