クーフーリンの名前の意味は「ホリンの猛犬」か「クランの犬」か。誤解の出所を調べてみた
神話オフ会で、「クーフーリンの名前の記事にちょくちょく謎のツッコミがくるんだけど…」な話を聞いたので。
クーフーリン(ク・ホリン)の名前の意味は、「クランの犬」のはずなのに、何故か「ホリンの猛犬」という認識が一般に広まってるって話があって、過去の同じような出来事のパターンから一般人が手に入れやすい本の記述がそうなってるんだろうと思ってアタリを付けてみたら、やっぱりそうだった。
以下、セタンタが犬殺しのエピソードによってク・ホリンと名前を変えるシーンの記述。
初心者的には、ケルト神話といえば井村先生だろうからねえ…。手に入りやすいケルト神話の物語調の本といえば最初に井村先生のやつに手を出す確率高いからなあ。
ただ井村先生本は、たぶん初心者がなんとなく流すには良くても、ちょっと詳しくなった人が資料として使うには微妙かもしれない。まあ一冊の本、一人の学者の言うことだけ聞いてちゃダメなのは、何のジャンルでも同じなわけで。
しかし実はこれ、井村説が間違えてるわけじゃないのです。
「ク」が犬を指すのは正しい。――が、 後半はホリンと読んじゃダメなんだな。
と、その話は後回しにして、他の本の記述を見てみよう。
最初に挙げた「ケルトの神話」と同じシーンなのに、名前の意味だけ入れ替わっちゃってるのが分かりますかね。これ、前後読めばどっちが正しいか分かるんですよ。セタンタは鍛冶屋クランの猟犬を殺して、その代わりとなる犬が育つまで自分が犬の代わりをしてやるよ。と言ってるシーンなので、二つ名は「クランの犬」じゃないとおかしい。「ホリンの猛犬」だと、「ホリンって誰だよ(笑)」ってことになってしまう。
もう一冊、「図説 ケルトの歴史」/鶴岡真由美・松村一男/河出書房社」の中でも、
とあって、ちゃんとクランの名前になっている。
なんでこんなことになったのか。
つづりを見ると謎が解ける。ク・ホリンの綴りは「Cú Chulainn」。で、クランは「クーリン」(Clann)。もう分かるよね。「ホリン」の部分は実は「クラン(クーリン)」の名前を指していたんだ…。
だから、「ク」が犬を指していて、後半の「ホリン」とカナ表記されてしまっている部分は「クラン」さんの名前。
ホリンはホリンと読んじゃダメ、と言った理由はこれ。物語中の登場人物の「Clann」をクランと読むなら、ク・ホリンの名前もクランの犬と書かないといけない。ク・ホリンをホリンの犬というなら、「Clann」もホリンにしないといけない。ただ、カタカナ表記でク・ホリンとなっているのは、この単語のつながりになったときの発音の都合で「ホ」に聞こえてるだけだから、クランに合わせるほうが妥当だろうなあ…。
というわけで、「ク」が犬、という井村先生の記述はあってるんだけど、後半をホリンのまま訳してしまったので、物語の前後と繋がらないホリンなる単語が出てきたうえで「ホリンの猛犬」という記述になってしまったようだ。
ちなみに英訳ではク・ホリンの名前は「Culann's Hound」になっている。Houndはグレイハウンドとかのハウンドなので、和訳としては「猟犬」「番犬」は正しそうだけど、猛犬という訳は微妙かもしれない。
まあそんなわけで、今後クーフーリンの名前の意味について誰かからツッコミがきたら、「ホリンはクランのことですよ。」って教えてあげればいいんじゃないかな!
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重要な追加事項
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「島のケルトは実はケルトじゃなかった」から派生する諸問題~"ケルト神話"がケルト神話じゃなくなります
https://55096962.seesaa.net/article/201705article_23.html
最近の研究により、「島のケルト」と「大陸のケルト」が別モノであるどころか、島側はケルトじゃなかったことがわかってきました…。
クーフーリン(ク・ホリン)の名前の意味は、「クランの犬」のはずなのに、何故か「ホリンの猛犬」という認識が一般に広まってるって話があって、過去の同じような出来事のパターンから一般人が手に入れやすい本の記述がそうなってるんだろうと思ってアタリを付けてみたら、やっぱりそうだった。
以下、セタンタが犬殺しのエピソードによってク・ホリンと名前を変えるシーンの記述。
「この番犬と同じような犬を、国じゅう探して、連れてまいります。そのときまで、夜はぼくがあなたの番犬になって、お屋敷とあなたをお守りいたしましょう」
このセタンタの勇ましい行為を記念するために、ク・ホリン(ホリンの猛犬)という名まえにするように、とコノール王はいいました。それでこのときから死ぬまで、ク・ホリンという名まえで呼ばれるようになりました。「ク」というのはゲール語で「猛犬」ですが、古代アイルランドでは猛犬は勇気や美の典型とも考えられていて、クロイとかクコオブ、ベアルクというようにクのついた名まえが多くあったようです。
「ケルトの神話」井村君江 ちくま文庫
初心者的には、ケルト神話といえば井村先生だろうからねえ…。手に入りやすいケルト神話の物語調の本といえば最初に井村先生のやつに手を出す確率高いからなあ。
ただ井村先生本は、たぶん初心者がなんとなく流すには良くても、ちょっと詳しくなった人が資料として使うには微妙かもしれない。まあ一冊の本、一人の学者の言うことだけ聞いてちゃダメなのは、何のジャンルでも同じなわけで。
しかし実はこれ、井村説が間違えてるわけじゃないのです。
「ク」が犬を指すのは正しい。――が、 後半はホリンと読んじゃダメなんだな。
と、その話は後回しにして、他の本の記述を見てみよう。
「同じ血統の猟犬を見つけ出して育てるよ。死んでしまった犬みたいになるまで、僕が訓練しよう。訓練中はこの僕が猟犬がわりになって、おまえの宝やら家畜やら家やらを見張るよ。」
「いかにも当を得た申し出じゃ」とドルイド僧のカスバドが言いました。
「それ以上の名案はこのわしにも思い浮かばん。さて今から後は、そなたは『クーフラン』の名で呼ばれるじゃろう。『クランの犬』という意味じゃ」
「図説 ケルト神話物語」 イアン・ツァイセック/山本史郎・山本泰子 訳 原書房
最初に挙げた「ケルトの神話」と同じシーンなのに、名前の意味だけ入れ替わっちゃってるのが分かりますかね。これ、前後読めばどっちが正しいか分かるんですよ。セタンタは鍛冶屋クランの猟犬を殺して、その代わりとなる犬が育つまで自分が犬の代わりをしてやるよ。と言ってるシーンなので、二つ名は「クランの犬」じゃないとおかしい。「ホリンの猛犬」だと、「ホリンって誰だよ(笑)」ってことになってしまう。
もう一冊、「図説 ケルトの歴史」/鶴岡真由美・松村一男/河出書房社」の中でも、
クランの番犬に襲われた少年セタンタは素手で相手を殺す。この武勲によって彼はクー・フリン「クランの番犬」の名前を得た。(P102の図注)
とあって、ちゃんとクランの名前になっている。
なんでこんなことになったのか。
つづりを見ると謎が解ける。ク・ホリンの綴りは「Cú Chulainn」。で、クランは「クーリン」(Clann)。もう分かるよね。「ホリン」の部分は実は「クラン(クーリン)」の名前を指していたんだ…。
だから、「ク」が犬を指していて、後半の「ホリン」とカナ表記されてしまっている部分は「クラン」さんの名前。
ホリンはホリンと読んじゃダメ、と言った理由はこれ。物語中の登場人物の「Clann」をクランと読むなら、ク・ホリンの名前もクランの犬と書かないといけない。ク・ホリンをホリンの犬というなら、「Clann」もホリンにしないといけない。ただ、カタカナ表記でク・ホリンとなっているのは、この単語のつながりになったときの発音の都合で「ホ」に聞こえてるだけだから、クランに合わせるほうが妥当だろうなあ…。
というわけで、「ク」が犬、という井村先生の記述はあってるんだけど、後半をホリンのまま訳してしまったので、物語の前後と繋がらないホリンなる単語が出てきたうえで「ホリンの猛犬」という記述になってしまったようだ。
ちなみに英訳ではク・ホリンの名前は「Culann's Hound」になっている。Houndはグレイハウンドとかのハウンドなので、和訳としては「猟犬」「番犬」は正しそうだけど、猛犬という訳は微妙かもしれない。
まあそんなわけで、今後クーフーリンの名前の意味について誰かからツッコミがきたら、「ホリンはクランのことですよ。」って教えてあげればいいんじゃないかな!
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重要な追加事項
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「島のケルトは実はケルトじゃなかった」から派生する諸問題~"ケルト神話"がケルト神話じゃなくなります
https://55096962.seesaa.net/article/201705article_23.html
最近の研究により、「島のケルト」と「大陸のケルト」が別モノであるどころか、島側はケルトじゃなかったことがわかってきました…。


