トルコのダム建設で多数の遺跡が水没 ウルス・ダム
少し前に流れた以下のニュースを補足しておきたい。
ダム建設でトルコの遺跡が水没の危機
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140224003
この記事では「イリス・ダム」となっているが、発掘隊の調査だと「ウルス・ダム」と書かれている。
発音によるカタカナ表記の問題なのだろう。つづりは「Ilısu dum」なので、「ウルス」のほうが原語に近いと思われる。
Ilısu Dam
http://en.wikipedia.org/wiki/Il%C4%B1su_Dam
このダムは、メソポタミア文明で知られる「チグリス・ユーフラテス河」のうちチグリス川上流に作られようとしているもの。用途は水力発電だ。
チグリス川はイラクを貫くような形で流れているが、実は源泉は隣のトルコにある。その源泉側をふさがれてしまうので、イラクの農耕地が片っ端から干上がるのではないかと危惧されている。つまりは、メソポタミア文明をはぐくんだ二本の大河川のうち片方が半死半生になる可能性があるわけで、これが問題にならないはずはない。ちなみにナイル川でも、エジプトと隣のヌビアとの間でまったく同じ問題が発生しており、上流のダム建設による下流国の困窮は、国際河川の抱える宿命的な問題といえる。
このダム建設により、多数の遺跡が水没することになる。
当初は2006年ダム完成とされていたようだが、ダム建設予定地がトルコ国内では少数民族であるクルド人の居住地であり、反対運動なども繰り広げられたため予定は遅れ、その間に緊急発掘調査が行われた。また一部の遺跡については、水没しない地域への移転が検討されているという。
その点は、かつてナイル川にアスワン・ハイ・ダムが建設されようとしていた時代のエジプトでの遺跡救済プロジェクトと同じなのだが、異なる点がある。
あまり騒がれていない。
あんまニュースで流れてるわけでもなし、本がたくさん出てるわけでもなし、寄付金募集してるわけでもなし…なんでだろーなと思うと最初に思い当たるのが、やっぱりコレ。「遺跡が地味」。
水没する遺跡の大半は、先土器時代とか新石器時代とかなんだよね…。
エジプトでダムに沈もうとしていたイシス神殿やアブ・シンベル神殿は、大きくて美しくて、人目をひいた。将来にわたって世界中の観光客を集められるお金儲けの材料としても重要だった。今回トルコでダムに沈もうとしている遺跡群は、確かに重要なもので、そこに連綿と人の住み続けてきたことを証明する歴史証拠ではあるのだが、世界に誇れる目立つ遺跡、たくさんの観光客を集められる商材では無い。
ただ、この周辺は人類初期の貴重な情報が埋もれている可能性がある。
以下は、イラク北部の、現在知られている限り最古級(紀元前7000年ごろ)の農耕を行っていた集落、ジャルモ遺跡とその周辺の地図だ。ジャルモ遺跡からは、人類が定住し、農耕を開始した初期の状態が分かる重要な遺跡の一つ。
ウルスはそのジャルモから近く、ほぼ国境にある。イラクのモースルとの位置関係をグーグルマップで確認すると以下のようになる。地図を見比べると一目瞭然、これほんとに水没させちゃって大丈夫なんですか…。
で、水没予定地と発掘されている主要遺跡の地図が、たぶんこれ。
地図中にあるサラット・ジャーミー・ヤヌ(Salat Camii Yanı)遺跡の発掘についての報告書がこれ。
http://www.histanth.tsukuba.ac.jp/tap/SCY/contents_images/Publication/SCY_Tsukuba_Archaeological_Studies.pdf
探してみたけど、Web上で手に入る日本語の資料少ないな…。エジプトに比べるとトルコで発掘してる学者さんはあんまり日本語の宣伝はしないのか? 世間的な知名度の問題?
ほかの遺跡の名前と、発掘状況。
圧倒的にトルコ語多し、ぐーぐるさんのトルコ語翻訳で頑張るしか・・・・(汗
・ハケミ・ウセ(Hakemi Use Tepe)
http://turkeytheheaven.blogspot.jp/2011/05/oldest-embracing-lovers-found-in-turkey.html
・スマキ・ホユック(Sumaki Höyük)
報告書未発見
・ハッサンケイフ・ホユック(Hasankeyf Höyük)
http://arkeolojihaber.net/tag/hasankeyf/
ハッサンケイフの町は、崩れた橋の跡があり、古いミナレットがあり、崖に作られた建物があり…まさに「遺跡の町」という感じ。けれどこの風景はまもなく永久にこの世から姿を消します。永久に。
http://www.youtube.com/watch?v=BOXyf3YpK_A
**********
残念ではあるが、こうした遺跡が、後世の人の活動によって失われていくのは、ある意味仕方のないことかなとも思う。トルコは現在、ロシアから天然ガスを買って発電に使っている。しかし昔からロシアとは色々あってあまり好きでは無いので、依存度は低くしておきたい。そのために国内であの手この手を使って発電をしようとしてる。
エジプトがナイル上流にダムを作った目的の一つが「発電」だったように、電気というかつては存在しなかった必須エネルギーが出てきた現代、各国とも自国の発展と生き残りのために、なんとかしてそれを求めざるを得ない。大河川を持った国が水力発電、すなわちダムに手を出すのはある意味、必然とも言える。
このトルコの事案の場合、最大の問題は、失われる遺跡よりも"失われる土地"と"下流のイラクとの情勢"だろう。
土地を奪われ強制移住させられるクルド人の問題は、エジプトのアスワン・ハイ・ダムにおけるヌビア人の問題と同じだ。ヌビア人は目立った反乱などもおこさず、耐え忍んできたが、トルコの場合これが長期間続く紛争の火種にならないとは言えない。またイラクの場合、既に水不足で不作が続いているさなかに上流にダム建設をされているわけで、トルコーイラク間の関係がこじれるだろうことは予想できる。
既に隣国シリアとの間ではミサイル応酬戦と化し、国交断絶と言っていい状態になっているトルコ。
イスラエルとはもとから敵同士だし、最近はエジプトとも敵対に近くなっているし、イラクともモメると南側が敵だらけになるが、EU側につくからいいやってことなのか。
ダム建設でトルコの遺跡が水没の危機
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140224003
この記事では「イリス・ダム」となっているが、発掘隊の調査だと「ウルス・ダム」と書かれている。
発音によるカタカナ表記の問題なのだろう。つづりは「Ilısu dum」なので、「ウルス」のほうが原語に近いと思われる。
Ilısu Dam
http://en.wikipedia.org/wiki/Il%C4%B1su_Dam
このダムは、メソポタミア文明で知られる「チグリス・ユーフラテス河」のうちチグリス川上流に作られようとしているもの。用途は水力発電だ。
チグリス川はイラクを貫くような形で流れているが、実は源泉は隣のトルコにある。その源泉側をふさがれてしまうので、イラクの農耕地が片っ端から干上がるのではないかと危惧されている。つまりは、メソポタミア文明をはぐくんだ二本の大河川のうち片方が半死半生になる可能性があるわけで、これが問題にならないはずはない。ちなみにナイル川でも、エジプトと隣のヌビアとの間でまったく同じ問題が発生しており、上流のダム建設による下流国の困窮は、国際河川の抱える宿命的な問題といえる。
このダム建設により、多数の遺跡が水没することになる。
当初は2006年ダム完成とされていたようだが、ダム建設予定地がトルコ国内では少数民族であるクルド人の居住地であり、反対運動なども繰り広げられたため予定は遅れ、その間に緊急発掘調査が行われた。また一部の遺跡については、水没しない地域への移転が検討されているという。
その点は、かつてナイル川にアスワン・ハイ・ダムが建設されようとしていた時代のエジプトでの遺跡救済プロジェクトと同じなのだが、異なる点がある。
あまり騒がれていない。
あんまニュースで流れてるわけでもなし、本がたくさん出てるわけでもなし、寄付金募集してるわけでもなし…なんでだろーなと思うと最初に思い当たるのが、やっぱりコレ。「遺跡が地味」。
水没する遺跡の大半は、先土器時代とか新石器時代とかなんだよね…。
エジプトでダムに沈もうとしていたイシス神殿やアブ・シンベル神殿は、大きくて美しくて、人目をひいた。将来にわたって世界中の観光客を集められるお金儲けの材料としても重要だった。今回トルコでダムに沈もうとしている遺跡群は、確かに重要なもので、そこに連綿と人の住み続けてきたことを証明する歴史証拠ではあるのだが、世界に誇れる目立つ遺跡、たくさんの観光客を集められる商材では無い。
ただ、この周辺は人類初期の貴重な情報が埋もれている可能性がある。
以下は、イラク北部の、現在知られている限り最古級(紀元前7000年ごろ)の農耕を行っていた集落、ジャルモ遺跡とその周辺の地図だ。ジャルモ遺跡からは、人類が定住し、農耕を開始した初期の状態が分かる重要な遺跡の一つ。
ウルスはそのジャルモから近く、ほぼ国境にある。イラクのモースルとの位置関係をグーグルマップで確認すると以下のようになる。地図を見比べると一目瞭然、これほんとに水没させちゃって大丈夫なんですか…。
で、水没予定地と発掘されている主要遺跡の地図が、たぶんこれ。
地図中にあるサラット・ジャーミー・ヤヌ(Salat Camii Yanı)遺跡の発掘についての報告書がこれ。
http://www.histanth.tsukuba.ac.jp/tap/SCY/contents_images/Publication/SCY_Tsukuba_Archaeological_Studies.pdf
探してみたけど、Web上で手に入る日本語の資料少ないな…。エジプトに比べるとトルコで発掘してる学者さんはあんまり日本語の宣伝はしないのか? 世間的な知名度の問題?
ほかの遺跡の名前と、発掘状況。
圧倒的にトルコ語多し、ぐーぐるさんのトルコ語翻訳で頑張るしか・・・・(汗
・ハケミ・ウセ(Hakemi Use Tepe)
http://turkeytheheaven.blogspot.jp/2011/05/oldest-embracing-lovers-found-in-turkey.html
・スマキ・ホユック(Sumaki Höyük)
報告書未発見
・ハッサンケイフ・ホユック(Hasankeyf Höyük)
http://arkeolojihaber.net/tag/hasankeyf/
ハッサンケイフの町は、崩れた橋の跡があり、古いミナレットがあり、崖に作られた建物があり…まさに「遺跡の町」という感じ。けれどこの風景はまもなく永久にこの世から姿を消します。永久に。
http://www.youtube.com/watch?v=BOXyf3YpK_A
**********
残念ではあるが、こうした遺跡が、後世の人の活動によって失われていくのは、ある意味仕方のないことかなとも思う。トルコは現在、ロシアから天然ガスを買って発電に使っている。しかし昔からロシアとは色々あってあまり好きでは無いので、依存度は低くしておきたい。そのために国内であの手この手を使って発電をしようとしてる。
エジプトがナイル上流にダムを作った目的の一つが「発電」だったように、電気というかつては存在しなかった必須エネルギーが出てきた現代、各国とも自国の発展と生き残りのために、なんとかしてそれを求めざるを得ない。大河川を持った国が水力発電、すなわちダムに手を出すのはある意味、必然とも言える。
このトルコの事案の場合、最大の問題は、失われる遺跡よりも"失われる土地"と"下流のイラクとの情勢"だろう。
土地を奪われ強制移住させられるクルド人の問題は、エジプトのアスワン・ハイ・ダムにおけるヌビア人の問題と同じだ。ヌビア人は目立った反乱などもおこさず、耐え忍んできたが、トルコの場合これが長期間続く紛争の火種にならないとは言えない。またイラクの場合、既に水不足で不作が続いているさなかに上流にダム建設をされているわけで、トルコーイラク間の関係がこじれるだろうことは予想できる。
既に隣国シリアとの間ではミサイル応酬戦と化し、国交断絶と言っていい状態になっているトルコ。
イスラエルとはもとから敵同士だし、最近はエジプトとも敵対に近くなっているし、イラクともモメると南側が敵だらけになるが、EU側につくからいいやってことなのか。



