円卓不倫劇場~ランスロットはなぜグウィネヴィアとの不倫関係を続けたのか。

アーサー王伝説といえば、アーサーの妃グウィネヴィアと騎士ランスロットの不倫である。

気づいてたのか気づいてなかったのか、アーサーが二人を放置したせいで話しは拗れに拗れ、結局はこれが円卓崩壊の決定打となってしまう。12世紀にフランスの詩人が生み出したこのエピソードが、それ以降繰り返し用いられたせいで、アーサー王伝説のイメージは奥様劇場ばりのドロドロした人間関係が大半を締めてしまう。


だが冷静に考えてみる。
この二人の不倫は少なくとも十年以上は続いている。長ければ二十年近くに及ぶだろう。

ということは、

 最後のほうグウィネアヴィアは結構な年じゃね?


ランスロットもいいオッサンのはずである。どういうことなんだよ…!
というわけで、もう少し詳しく考えてみたいと思う。


●二人が出会ったとき幾つくらいだったのか

そもそもアーサー王伝説とは、異なる時代の複数の作家たちがめいめい勝手にエピソードを付け加えていって出来上がったものである。そのため全体を貫く共通した時間軸など存在しない。具体的な時間の検証にも意味がない。

だが敢えて仮定するならば、ランスロットはグウィネヴィアとであったときはまだ若く、アーーサの宮廷では「第一の騎士」とは呼ばれていなかった。騎士への叙任は最低でも12歳以上、だいたい15歳くらいだったというから、10代後半の若者だったとしよう。

対してグウィネヴィアのほうは、年齢がよく分からないが、夫アーサーと結婚してすぐの新婚でないことは確実だ。結構適齢期は10代後半くらいと考えて、だいたい20歳半ばから後半くらいだろうか。攫われたグウィネヴィアを助けに行くエピソードがランスロットがキャラクターとして性格づけられる最初で、そのエピソードでは既にアーサーは中年の落ち着きをかもし出しているため、夫より年下と考えてもそのくらいが妥当に思える。

というわけで、出会ったのは「ランスロット10代後半」「グウィネヴィア20半ば~後半」としてみることにする。
これなら年上の奥様への若者の憧れと性衝動、倦怠期の妻の火遊びなどで不倫関係もありそうな年齢設定になる。


●不倫関係はどのくらい続いたのか

さて不倫関係は、ランスロットが始めて性格づけされる物語「ランスロの荷車の騎士」に従えば、攫われたグウィネヴィアを助けに行った先で始まったことになっている。このときランスロットはまだ若い。

伝説が一本の筋道をもつ物語としてつなげられたのは13世紀以降のことで、間にはさまる各々のエピソードは互いに矛盾しあったり、時間軸が異なっていたりするのは考慮しなくてはならないが、トマス・マロリーの最も有名な物語りに従うならば、その後、エレインとの一夜を経て彼女に息子を孕ませ、それが原因で王妃にブチきれられて放浪したのち宮廷に戻るなどのエピソードを挟みつつ、最終的に不倫関係はアーサーの王国の崩壊まで続くことになる。

この間に、エレインとの間に出来た息子ガラハッドが円卓に参入し、聖杯探求に成功して死去しているため、少なくとも息子が成人するまでの15年くらいは続いた計算になる。聖杯探求の時間など前後も入れると、およそ20年といったところか。

――これを、具体的に数字に直すと、こんなかんじになる。

 不倫開始時
   ・ランスロット 17歳
   ・グウィネヴィア 27歳
   ・アーサー王 34歳

 アーサー王の王国崩壊時
   ・ランスロット 37歳
   ・グウィネヴィア 47歳
   ・アーサー王 54歳


これはキツい。 リアルに想像すると色々とキツいものがある。ていうか純粋なアーサーとの結婚生活より不倫生活のほうが長いんじゃ…。


そこで、こう考えることにしました。

  グウィネヴィアは、年をとらない女だったのだ、と。


●そもそもの"グウィネヴィア"とは

彼女の名前が最初にアーサーと結び付けられるのは、ジェフリーの「ブリタニア列王史」第七部の第九章で、「アルトゥース王がグウェンフウァラと結婚する」と題された部分。ここではグウェンフウァラは、アーサーの即位と同時に妻として与えられたローマ貴族の家系の出の娘、ということになっている。

しかしこの出自にはあまり信用が置けず、「ブリタニア列王史」の中でアーサーが既にエクスカリバーに相当する剣を持っていることや、
槍などの付随武器も持っていることから、おそらくウェールズの伝承そのものか、同源の元からあった伝承を取り込んで加工している。

ウェールズの伝承では、「マビノギオン」の「スィッズとセヴェリスの物語」の中にグウェンホヴァルという名前で登場するが、これは「白い妖精(あるいは"白い影")」「魅惑の女」という意味である。

名前の元々の意味が「妖精」だということから、彼女はランスロットの育ての親である湖の貴婦人や、マーリンを篭絡するニミュエのような妖精と同じく、「異界」の存在だったのではないか、という推測が出来る。異界の女は年を取らない。だって常若の存在だもの。

グウィネヴィアが年を取らず、いつまだも若々しかったのなら、不倫関係もなんくるないですね!
ランスロットがオッサンになっても、グウィネヴィアはいつまでも少女だったかもしれない! ヤッター! …って、

  年齢差が開くごとにありふれた不倫から犯罪臭漂うロリコンに…

最後のほう、ランスロットもだいぶキツかったんじゃないでしょうかね。ええ。
ていうかアーサーもね。


●不老の女性とその所有権

さてもう一つ、説を紹介しておきたい。
グウィネヴィアが異界の存在で、その原型が妖精か女神であるという説は珍しくない。その場合、グウィネヴィアは、女神ダヌを頂点とするケルトの地母神たちの一人と推測される。つまり、土地を擬人化したもので、彼女を所有する(=結婚し妻とする)ことが、王国の支配権を得ることを意味するということだ。

不老の女神は、常に若い英雄を求め、英雄が年を取ると捨て去って次の王を選ぶ。
アーサーからランスロットへ乗り換えたのは、単なる有閑マダムの火遊びではなく、女神の本質から来る王権交代の意志である。ではランスロットが老いた後はどうするのか。次はモルドレッドに乗り換えるのである。

モルドレッドはアーサーの実の息子だから、実際は王としては相応しいし、彼の世代の中では、若く、力ある騎士だった。土地の象徴である女神が次の所有者として選ぶことは十分にありえた。

このストーリーに沿うならば、ランスロットとの不倫時代の最後の何年かは、グウィネヴィアは、もう老いたランスロットに興味がないのである。アーサーと同じく単なる昔の男で、心の中ではモルドレッドを認めている。

このように考えるならば、実はグウィネヴィアこそがアーサーの王国の主体だったということになる。アーサーは彼女と結婚することによって王国を得たのだから。

グウィネヴィアが不倫関係によって栄光の円卓を破滅させたのではない。本来ならば次の世代へ引き継がれるべきだった円卓を破滅させた真の原因は、"白い妖精"の権威を貶めた異なる教えと聖杯(=キリスト教の象徴)なのだ。




というわけで結論。

・アーサー王(50代)はナイスダンディっぽくてイケるが、ランスロット(40代)は相当キツい。
・50代の熟女不倫はいただけないのでグウィネヴィアは年取らない魔法少女説をプッシュする


そこ大事なのかよっていうツッコミはおいといて

ガウェイン(40)とかだといいカンジのおっさんになってそうなのでややジジコン気味の私的にはご褒美です! ありがとうございます! なんですが。パーシヴァルとかガラハッドとかは年とらない永遠の美少年イメージ。嫌確かに20代前後で活躍してわりと早死にしてる(マロリー版では)から、それでだいたい合ってるんだろうけど。ケイ卿はアーサーより年上なのに良く頑張ったよなって思う。
 

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ブリタニア列王史はこれ。

前にも紹介しましたが、邦訳があるのはありがたいんですが、誤字脱字がすげー勢いで混じってて人名ミスもあるのでお気をつけください(´・ω・`) ここの出版社チェック甘いっす…。

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