ファイアンスはエジプトだけのものにあらず。インダス文明のファイアンスについて調べてみた

インダス文明の本読んでたら、ちょこちょこと「ファイアンス」についての言及があり、「ん? インダスってファイアンスも作ってたんだっけ?」という疑問がわいてきた。

インダス文明のアクセサリーといえば、カーネリアン・ビーズやラピスラズリが有名どころで、それらに紙面が割かれることが多いのだが、それらに埋もれるようにして、ファイアンス製アクセサリーも出ている、ということらしい。

写真はすぐ見つかった。
地味な色合いで、エジプトファイアンスと同じく青みがかったものが多いことから、石英に銅を混ぜて使っていると予想できる。ただ、その色合いは薄い。

画像


出典元はこちら、「インダス 南アジア基層世界を探る」。

インダス 南アジア基層世界を探る (環境人間学と地域)
京都大学学術出版会
長田 俊樹

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この本の中でもファイアンスについて触れられているのは数行。「エジプトのものにはない凍石を用いたものがある」といった内容くらいで、カーネリアンビーズなどに比べて扱いは小さい。
そして文章の中で引用されているのがエジプトファイアンスの専門家、山花先生の論文っていう(笑)

まあ日本語の資料があって好都合なので、引用されている元の文章を探して読んでみた。


「ファイアンス」とは?-定義と分類に関する現状と展望:エジプトとインダスを例として-
http://jswaa.org/jswaa/JWAA_06_2005_123-134.pdf

これだけだとファイアンス初見の人にはよく分からないと思うので、横浜ユーラシア文化館での講演会に紛れ込んだときの記事を補足にどうぞ。

ファイアンスの作り方としてエジプト学では3通りが想定されているが、インダスでのファイアンス製法はエジプトでも多く使われた「白華技法」と同じで、この方法しか用いられなかったと考えられている。
そして、内容の分類は、以下のようになっている。

J. E. デイトンの分類(Dayton 1989)はインダスファイアンスの原材料による分類のさきがけとなった。彼は分類因子として形状と色、そして主原材料に着目し、1)キアノス(エジプシャン・ブルー)、2)施釉凍石と凍石ファイアンス、3)石英ファイアンスに分類した


このうち、2番目の「施釉凍石と凍石ファイアンス」がエジプトには見られないものだという。
ただし、エジプト学では施釉凍石のものはファイアンスとして扱われておらず、同じ「ファイアンス」という言葉だが扱いが違ってしまっている。異なるジャンル間の学者同士でコンセンサスが取れてはいないため用語が混乱しているようだ。また、いったんフリット(ガラス状の物質)を作ったあと、それを粉末状にして焼成したファイアンスというものもあるようで、ファイアンスという言葉の定義自体が難しいという。


いやあ、奥が深い…。
ファイアンスはファイアンスだろ? と思ってたけど、甘かった。エジプト学では当たり前に使ってる用語を他の地域の考古学でも使おうとするだけで色々問題が出てくるもんだなー。ていうか同じエジプト学者間でもファイアンスの定義が微妙に違ってたのは知らなかった。

改めて考えてみると、ファイアンス自体、ガラスになりかけだけどガラスではない中途半端な物質なので、ガラスとの中間物質が出てくると「これどっちだよ」って議論になるのはそりゃ当然か。



#インダス文明から始まってエジプトに帰る。
#すべての道はかの地へ通ず。
#楽しい

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