今更ながら、風とタンポポを読んでみる。

歴史でも地理でも、旅に出る前は、手に入る本は片っ端から読んでいくタチである。

どうせだし、手に入る関連書籍は全部読んでしまおう。
ということで、最後までとっておいた「パタゴニア 風とタンポポの物語り」を読んでみた。エッセイである。




「パタゴニア」とは、南米大陸の南のはしっこのほうの地域を指す言葉だ。チリとアルゼンチンにまたがっている。
かつてはパタゴニア全域がチリに属していたようなのだが、現地住民の反発や戦後のゴタゴタなどがあり、気がつくとアルゼンチンも領土を主張していて両国で戦争になったことさえある。ちなみにパタゴニアの国境線は、地図で見ると一直線で、そこからも「なんとなく嫌戦ムードが高まったので暫定的に国境線引いたら、なし崩し的にそのまま今に至る…」という雰囲気を読み取ることができる。

その意味で、チリとアルゼンチンは、隣どうしながらあんまり仲がよろしくない。
なおチリは南極近辺の島などでもアルゼンチンと領土争いを続けている。

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チリとアルゼンチンの境目あたりの厳しい環境にある島々に兵士が在中しているのはそのためで、著者が載せてもらったチリ海軍の船が武装していたのもまさに紛争地帯を想定していたからだろう。

(そのへんの事情は、前回のチリ旅行で付け焼刃で仕入れた。)

ちなみにアルゼンチン側のパタゴニアだと、イギリス相手にやらかしたフォークランド紛争というわりと近年に起きためんどくさい紛争もあったりする。単に旅行するだけなら知らなくてもいいが、行く国に興味があるなら調べておいても損はない。



さて、この本は、今から三十年くらい前に、そのパタゴニアのチリ側を探検した人のエッセイだ。

エッセイはあまり好きでは無い、というかむしろ嫌いジャンルなのだが、この本は意外に楽しめた。というのも語り口がのんびりしていて、風景描写が巧みだからだろう。あとごはんがすっげえ美味そう。安宿で勝手に飲んでるだけのビールなのに美味そう。羊の丸焼き食いたい。カニスープ食いたい。

旅のエッセイは、とかく「飯」の部分が重要だと、私は常々思っている。うまいご飯に出会える国はいい国である。ご飯がまずい国は、たとえ素晴らしい遺跡があろうと、風景が美しかろうと、魅力は半減する。逆に、一つでも「これ食べたい!」と思う料理があったら、それだけでその国に対する好意は上がる。行きたいと思う気持ちが増す。

ただ妻の話とかはドラマ仕立てすぎてどうでもいいかなと思ってしまった。タイトルの半分「風とタンポポ」の部分が要らないと言ってるのだから、半分棄てても十分楽しめることになる。



今から三十年近く前とあって、パタゴニアはまだ観光地化されていない。
国立公園なんて出てこないし、プエルト・ナタレスの飛行場もなければ長距離パスも通っていない。パタゴニアを旅するにはジープで風呂にも入れない生活なんである。今では観光地図が出回り、各種ツアーが組まれ、観光客向けのホテルがわんさとあるというのに。文章の中には素朴な大自然がある。実際に行ってみると今はどうなってるのかが楽しみでもある。

パタゴニアは風が強い、とよく言われる。
風の国だという。しかしエッセイストは「空の国」だとも言う。広い空ならば登山のときに見慣れている。2000m台も後半くらいの山に行くと、山頂から見る世界はたいてい空と地上に分かれていて、地上は、なんとなくうっすら青い。山は風も強い。

それとどう違うのだろうか。
たぶん行けば分かるだろう。帰ってきたらもう一回読んでみようと思った。


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チリ側のパタゴニアにいくと、何故か現地人がこれをプッシュしてくるらしい。今20代とかでバックパッカーをしにいく若者たちは、現地人の言う「シーナ」が何のことだか分からず、あとで調べて知ったなどという話も聞く。その意味でも先に押さえておきたかったのだが、果たして本当にこれを知ってる人は本当に現地にいるのだろうか…。

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ちなみに本の中でちょろっとだけ触れられている、「昔は日本人は悪い奴だと思っていたよ、アメリカの反日映画を見ていたから」というチリ人のセリフなども時代を感じさせる。今でこそ中国の抗日映画なんかが言われるようになっているが、60年くらい前はアメリカが反日映画をばんばん作りまくっていたのだ。歴史が繰り返されてるだけのことである。なおアメリカに対しては、日本も「鬼畜欧米」とか言ってたのでお互い様である。ばーちゃんは死ぬまでアメリカのことは「毛唐の国」と言い張っていた。

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