パタゴニア ウシュアイア郊外 ~最果ての森

さてここでウシュアイアの位置関係とか。
日本では「最果ての町」、南米最南端として紹介されることが多いが、実はここは厳密には最南端ではない。
このへんはチリとの国境が複雑に絡み合っているのだが、本当はチリ側の町が世界最南端なんである。

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まあ、ただ、あんまり人は多くないらしい。
観光拠点にするにはウシュアイアが丁度よかったのだろう。かつて囚人たちが送り込まれた場所もここだったらしいし。

…そう、ウシュアイアはもともと囚人が島流しにされた場所。
街中に囚人服のモチーフがたくさんあるのはそのため。しかし過酷な地かと思って行ってみたら意外とそうでもなかった。冬の平均気温は最低でも-5度とからしいし、ドカ雪も降らないし、北極圏より圧倒的に暖かい。北海道民あたりなら余裕じゃないかな(笑)


ウシュアイアの町の外は、緑の森。

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ひたすら緑。
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ペンギンツアーならチリ側でことたりるのです。
ここを歩かなければウシュアイアまで行く意味がないのですよ。世界の果ての森を。南米最南端の自然を堪能しなくては!


というわけで本日はトレッキング混載ツアーでフエゴ島国立公園へと向かうことにする。
ウシュアイア近郊のトレッキングコースは沢山あるが、単独行動で行ける場所は少ない。フエゴ島国立公園は個人で行く時は入園時と退園時の報告が必須。現地の様子もわからんし、面倒だったので混載ツアーを申し込んでおいた。

朝は曇り空、ただし気温は15度くらい。ていうかホテルのロビーはご覧のとおりフルオープンになっていた。
…暖房が効きすぎているからか。これが意外と丁度いいから不思議だ。

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ツアーバスがホテルまで迎えに来て、いざ出発。町の郊外の海は、いかにも最果てという感じで荒涼としている。
しかし逆の陸側を見ると、やたらと緑豊か。このへんにはスキー場もあるらしい。雲は標高1000mくらいのところにかかっている。パタゴニアでは日本でいう標高3000mの気候が1000mくらいのところまで降りてきている。だから1000mを越えると万年雪もあったりする。

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たどり着いた、ここが公園入り口の管理局。
入園料は140ペソのニコニコ現金払い。相変わらず高ぇ…。

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そこから道沿いに辿ることしばし。ここが、みんな大好き「世界の果て郵便局」。

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壁にはご丁寧にも「POSTAL FIN DEL MUNDO」(世界の終わりの郵便局)と書かれている。ここでは世界の果てスタンプが押してもらえる。ただし見てのとおりのプレハブ小屋、中にはおいちゃん一人、そしてアルゼンチン・クオリティにより列はなかなかはけないので、時間に余裕があるか、人の少ない時間帯を狙ったほうがいいだろう。外にあるポストに投函するだけなら時間はかからないのだが。

ここから本日のトレッキング開始である。
ちなみに付近のルートはこんなかんじ(50,000分の1地図)。

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赤が車道、赤白のラインが林道、黄色い線がトレッキングルート。
ちなみにトレッキングルートは自転車、馬、徒歩での通行が可能。自転車の人もいるにはいた。町からは意外と離れているので、公園まではバスかタクシーを利用するのがいいと思う。ラパタイア湾の向こうは、チリ。
今回は、入り江沿いに海からロカ湖までのルートを歩く。

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出発地点はラパタイア湾、ビーグル水道と繋がる湾。潮の香り、波打ち際にはこんぶが積み重なっている。
晴れて風もなく、日本の4月ごろに近い陽気だ。歩き出すと汗が噴出してくる。

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先住民ヤマナ族が食べていたというキッタリア(きのこの一種)の実はあちこちで見られた。さわった感触はマシュマロ。地面に落ちているものは古くて食べられないが、木になっているものは一応食べられる。割ると中までオレンジ色で、オレンジゼリーみたいな色をした中身がぎっしり詰まっている。グミっぽい食感だが、べつにおいしくはない。が、空腹を満たすには丁度いいかもしれない。何しろ労せずすぐに手に入るうえ生でも食べられるのだ。

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歩いていると、途中にはこんな感じで開けた場所がいくつもあった。これらは実はヤマナ族の住居跡なのだという。微妙な凹凸が掘っ立て小屋のたっていた跡で、小山のような場所はヤマナ族の食べた貝や魚の食べかすで出来ているのだとか…。

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そんな史跡を容赦なく踏んでいくヨーロッバからの旅行者のみなさん(´・ω・`)
うんまぁもうヤマナ族いないしね。最後の生き残りとその家族はチリ側のナバリノ島にいて、フエゴ島国立公園内にはもう誰も住んでいない。かつて彼らが過ごした証拠は、ウシュアイアの町にある博物館の中にだけ残されている。

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ぶっちゃけトレッキングコースはかなり適当。
途中の道しるべは皆無。河原のようなところや、ここのように一面が草原の平原を突っ切る箇所も多数あり、道がどこだか分からない。道から外れないように、との注意書きもされていない。チリ側とはえらい違いである。

とりあえず方向さえあっていればどっかに出られるかな的な…

今回のコースはずっと湾沿いに歩いていくコースだったのでまだ分かりやすかったが、他のトレッキングコースがどうなっているのかは不明。ガイドさん曰く「パークレンジャーはいるけど管理はされてないですねー」…だそうだ。

そんな管理されていない公園だからなのか、馬がいた。
やたらと人なつっこいので迷い馬じゃないかと思うが、このぶんだと、どこかに野生化した牛や羊も居そうで怖い。(笑)

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ここの木はとても大きい。厳寒の地ではありえないほど大きく育っている。おそらく夏がそれなりに長く、冬もあまり気温が下がらないためだろう。長野あたりの奥地でもありそうな風景だ。公園内の森の8割は常緑だという。多い木は「ギンド」。あとでググってみると、南極ブナ(Nothofagaceae)の一種だという。レンガ・ビーチ(lenga beech)というのもググってみると同じく南極ブナ科。ほかの木の名前は、聞いたけど忘れてしまった…。確かヤマナ族が漁に使ってた種類の木とかあったはず。

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下草は、タンポポやシロツメクサなど移民が持ち込んだものも多いらしい。元からあったのがどれなのかはよく分からない。ただ野に花が咲くということは虫がいるということ。

そして、パタゴニア=どこでも風が強い と思い込んでいたのだが、実は湾の奥のほうはあまり風が吹かない、というか森の中は常にほぼ無風なのだということに気がついた。なにしろ木がまっすぐに立っている。風に吹かれて傾いでいるのは、風のあたる場所の木だけだ。

先住民は質素な家でほぼ全裸で過ごしていたというが、食料がとれる場所が目の前にあって、気候が安定しているのなら、これは意外とアリじゃないかという気がしてきた。晴れてるときにさくっとご飯を集めて、あとは家の中で過ごせばいけそうな気がする。

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公園内は高低差はあまりないが、舗装されていないトレッキングルートはこんな感じで足元が泥沼になっているところも多数ある。うっかり踏み込むといい感じに抜けなくなる。そして滑りやすい。スニーカーで来てしまった人の中には、しりもちをついて泥まみれになっている人もいた。手を抜かずに、ちゃんとしたトレッキングブーツで気をつけて歩こう。

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そしてトレッキングルートは、チリとの国境、ロカ湖のほとりへとたどり着く。
このロカ湖をはさんだ向かい側は、チリ。そこには CORDON PIRAMIDES というとっても素敵な名前の山がそびえている。

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山の右側斜面がすごくピラミッドっぽい! たぶんチリ側から見ればピラミッドっぽく見えるハズ!
世界最南端のピラミッド発見。嬉しい。
ちなみにガイドさんは「富士山みたいだろ?」と言っていた。あとで考えるとだいぶ違う気がするが、その時は、こんな地の果てでも富士山知ってるもんなんだなーということのほうに感慨を覚えていたような気がする。


お昼ごはんは14時過ぎ。
それから一時間ほど休憩して、次は手漕ぎボートでロカ湖からラパタイア湾まで下る。

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艦隊: 手漕ぎボートA~C

ツアーの外人さんたち大はしゃぎである。彼らはほんとこういうの好きだね…。動画撮影しながらノリノリのアメリカ人もいた。お互いカメラを交換しあって写真を撮っている。私が風景ばかり撮っていると、「自分を撮らないの? なんで?」みたいなことを言われた。…いや、あの、自分写しても別に楽しくないっつーか、…自分の写真をFBに載せるとかもしないんで…。

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ロカ湖から狭い川を通り、橋を越え、いくつもの浅瀬を越えていく。
流れはとても穏やか。ピラミデスの山が後ろをずっとついてくる。

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ラパタイア湾へ。
湾に入るなり風が変わる。潮風だ。波が高くなり、こんぶがパドルに絡まってくる。ボートがたどり着いたのは出発地点とは逆の湾の南側、パンアメリカンハイウェイ3号線の終着点。

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…この看板があるところ。
トレッキングをせずに公園内半日ツアーみたいなので来ている人たちは、バスでここまで送ってもらい、湾の写真を撮って帰る。

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ガイドさんは「彼らはバスで来ただけだけど、僕らは足とカヌーで完全制覇したぜイェー!」と言っていたが、conquestという単語を使っていたのがちょっと微妙だった。山に登頂しただけで「制覇」と言う人に対する違和感と同じ感じだ。そこを通りはしたけど、それだけでは征服でも制覇でもないよなぁ、と。

自然は簡単に征服されない。穏やかな気候とはいえ、この公園もだだっ広い"自己責任"な場所だ。ナメてかかると痛い目にあうのは容易に想像できる。言うのならば、「達成」のほうがいいと思う。


地図をみるとわかるが、このあたりには、キャンプ場がたくさんある。テントを背負ってくる人は、ここらでのんびり過ごすのもいいかもしれない。林道にはキャンピングカーも泊まっていた。
公園内にホテルや山小屋はない。食料の買出しは町はずれのスーパーしかない。ただし水は現地にあるし、キャンプ場によってはトイレも建っていた。

気になったのがチリとの国境で、国立公園内が「管理されていない」のであれば、実は公園内の国境線もかなりテキトーなんじゃないかという疑念がある。
今回、国境近くまで行ったが、道の先には壁も柵もなさそうだった。とくにロカ湖なんか真ん中あたり国境だけどふつーにボート浮かべちゃってるしどうすんだろって感じ。





ツアー終了してホテルについたのは17時ごろ。
少し早めに町に帰れたので、町を散策したり、おみやげを買ったりして過ごした。ちなみにこれが、ウシュアイアといったら必ず出てくる「世界の果て」看板。ペンギンクルーズ船の発着する、観光桟橋のすぐ側にある。昼間は記念撮影でごった返しているが、夕方になってツアー船が終わると閑散としている。

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この日のご飯は、町で買いこんだ酒とおつまみの缶詰、そして… …春雨カップ。
年越しソバをもってくるつもりだったのに、なぜか荷物に入っているのがコレだったのだ。何故なのかはよく分からない。とりあえず麺のようなもので問題ないと思うことにする。

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世界の果ての大晦日。
新年のカウントダウンのあと、港のほうで数発の花火が打ちあがり、歓声が聞こえた。翌日は私もこの町を後にする。だがその前に、新春初登山をこなさねばならない。




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