歴史が絡む映画で虚偽はどこまで許されるのか? 再び映画作りの倫理を考える

現在上映中の映画「エクソダス 神と王」。
旧約聖書の出エジプトをテーマにした作品で、「神に選ばれし男」モーセと、「神王ファラオ」ラメセスの対決を描く作品である。まあ現実にはただの 神 無 双 なんですけど。

画像


この映画が、エジプトでは上映禁止となった。

エジプトでモーゼ描く米映画が上映禁止、シオニストの非難
http://www.cnn.co.jp/showbiz/35058489.html

理由は、上記の記事に書かれている

 ”シオニストの立場にたち、歴史的な出来事を偽造していると批判した。”

というものである。
言いたいことはよく分かる。何しろこの映画、ヘブライ人(イスラエル人の祖先とされている)は奴隷としてエジプト人に虐げられていた被害者で、エジプト人は徹底して残虐な為政者として描かれている。

現在のイスラエル人がヘブライ人を祖先だと思っているように、現代のエジプト人にとって、古代エジプト人は祖先であり、現在のエジプトに連なる歴史の一部なのである。そりゃ怒るわって感じ。

しかし人によっては言うだろう。「映画なのだから、ファンタジーなのだから、何がいけないのか」と。



確かにその意見も一理ある。
無論、元になっている旧約聖書はただの神話である。
そして、この映画を観て、マトモな人間なら歴史を忠実に再現したなどと思うまい。


なにしろ、喩えるなら江戸時代を舞台にした時代劇のはずなのに殿様が朝食にスクランブルエッグを食べ、「今日のパーティーの出席者は誰かな」というセリフを口にするようなレベルの時代錯誤をいとも簡単にしでかしているのだ。おまけに街中にデーンと聳え立つピラミッド、キンキンキラキラな王宮、奴隷はムチで打たれて家畜同然に扱われる。

何十年前かのハリウッド映画で見たようなテンプレどおりの絵面が展開され、失笑すら沸いてくる出来だ。CG技術は確かに発達したが、原案を出す人間の知識が深まっていなければ単にカネをかけたデタラメが繰り返されるに過ぎないという、いい見本のような作品である。



しかしそれでも、登場するのは現代のエジプト人が祖先と認識する古代エジプト人であり、劇中では徹底してエジプト人は酷い奴らとして描かれている。おまけにエジプトの国土はヘブライ人の神にいいように蹂躙される。そんな力ある神様ならしもべを400年も奴隷生活させとくなよとツッコみたくなるところだし、モーセと仲間たちもツッコんでも良かったところだが、誰も文句一つ言わずにおお神よーとか言いながらありがたがってついていくのである。これをエジプト人に不愉快と思うなというほうがムリじゃないかと思う。


この問題は、日本ではよくネタにされる「超時空太閤ヒデヨシ」と同種だと置き換えると、日本人でも理解できると思う。

エジプト人
 「ユダヤ人は神話を根拠にして、いまだに『エジプト人は俺らの祖先を虐げた』と言いふらしやがる。しかもそれをネタに作られた映画まである。時代錯誤もはなはだしいし、鬱陶しい」

これを「朝鮮人はいまだに、秀吉の朝鮮出兵で文化を破壊されたとか略奪されたとか言いふらしてる」に変えてみれば、エジプト人の気持ちがグッと身近に感じられるのではないだろうか。(笑




私は、ファンタジー映画だろうが、架空の世界だろうが、現実を生きる人々に関わるようなテーマを扱うのであれば、両陣営とも尊重すべきだと思う。いらん対立を生む必要がどこにあるだろうか。映画がエンターテイメントとして機能するためには、特定の人種、国籍、性別などによって観る者を不快にしてはならないのは当たり前だろう。
中盤以降は、神による虐殺を楽しんで作っていたのかと思うようなつくりでだいぶ気持ち悪い。

少なくとも、この映画を作った人々の古代エジプトへの敬意や現代エジプト人への配慮は全く感じられなかった。少しでもリスペクトがあったなら、奴隷化されたヘブライ人をムチで打ってピラミッドを作らせるようなシーンが入れられることはなかったはずだ。

ギザ台地に聳え立つピラミッドも、奴隷を無理やり働かせて作ったのでないことは既に何十年も前に明らかにされている。もしかして聖書しか読まずに作ったのか? と思わされるようなあまりに一方的な視点で、偏見に満ちているどころか偏見しかない作品となっていた。



映画とはプロパガンダでもある。

いかに映画ファンが無邪気に「芸術だ」「エンターテイメントだ」と言い張ったところで、映画がプロパガンダの一種であり、目的を隠して容易くそのために利用され得ることは、決して否定できない。だからこそ、特定の誰かを悪く描くこと、意図的に歴史と虚偽をないまぜにすることは、避けられねばならない。その配慮が出来ない者は、国際的に公開されるような映画を作るべきではないのだ。

反エジプトキャンペーンのような出来になってしまったこの映画を、残念に思う。


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ちなみに、歴史ネタで戦争ものだけど両陣営ともカッコよく描けていたのが
神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃

史実的にはオスマンフルボッコで神聖ローマ最高ヒャッハー! なんだけど、敢えてオスマン兵はどこまでもカッコよく、神聖ローマは腐敗に満ちていると描くことでバランスを取ってきた、どちらの陣営のファンでも嫌な思いはしない配慮された作品。予算不足か絵ヅラやシナリオはだいぶ残念でしたが、映画の方向性としては好きです。


この「エクソダス」と同じく物議をかもしたのが「300 スリーハンドレット」。

無謀な特攻で全滅したスパルタをカッコよく描くために、敵対するペルシャ人を人の心もないような化け物にしてしまった。イランぶちきれである。そりゃそうだ。

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ちなみに、以前のエントリで書いたときは、劇中の「ラメセス」がラメセス2世だと思っていたのだが、なんとアメンホテプ4世でした。

な…何が起きているかわからないが、催眠とかそんなチャチなものじゃねぇ(略

もう一度言います。
劇中で「ラメセス」って呼ばれてる王様は、親がティイで妻がネフェルティティなので、アメンホテプ4世(アクエンアテン)です。ツタンカーメンのパパンです。

意味わかんねえーーーー!!

いやさ歴史考証メチャクチャなのは覚悟してたけど、想像の斜め上の混乱っぷりだよ! 朝鮮半島の映画で「ヒデヨシ」って名前のどう見ても徳川家康なビジュアルの将軍が出てきたかと思ったらセリフが「是非もなし」だった級の衝撃を受けたよ! アクエンアテン戦車で奴隷追いかけたりしねーだろ(笑) ていうかエジプト史上屈指の電波王をモーセのかませにもってくるのかよーって感じ。

ラメセス2世だと、その後カナアンまで侵攻してヘブライ人もボッコボコだから出せなかったんだろうけどさー。

古代エジプト史上に燦然と輝く王様の名を出しておきながら、その実、中身は国土を縮小させた異端の変人王にするという姑息なモーセage、こういうのも不愉快に感じた一因。


→ここの部分ですが、元々日本語の公式ページが間違えていたのか、いつの間にかラメセス2世の家族の組み合わせになってました…。

アクエンアテン→母 ティイ、妻 ネフェルティティ
ラメセス2世 →母 トゥヤ、妻 ネフェルタリ

まぁ綴りだと似てるんですけどね…。


そんなわけで元ネタを知ってる歴史ファン&映画ファンはこれ見に行かないほうがいいです…
2時間半座ってるのだいぶキツいです…。

ツッコミどころ満載でも笑いながら観てられればまだマシなんだけど、故意にやってんじゃないかっつーレベルで史実をガン無視してくるうえに、絵ヅラのチープさがたまらん。いまどきゲームのムービーシーンでもこんなコッテコテのエジプト出てこねぇよ(´・ω・`)

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