初めてのエジプト神話~ エジプト神話とは何か。まずはここから
春ですね!!!(何回目だ)
というわけで、春から新しいこと初めてみたいぞーというエジプト神話初心者さんのために、改めて「エジプト神話ってなんぞ」というのを判り易く簡単に説明してみたいと思います。そういうのめんどくさいからとりあえず資料だけくれよって人は別館へGO。
◆エジプト神話とは何か
ザックリ言うと、"今のエジプトあたりに暮らしていた人たちがかつて信仰していた宗教に纏わる教義"というのがエジプト神話。しかし、教義は一つではありませんでした。何故かというと、教義を一つにまとめて「聖典」(キリスト教なら聖書)を作る作業をしなかったからです。そして、
・古代エジプトの宗教が信仰された時代がとても長い(およそ3000年)
・宗教の中心地が複数あり、それぞれで違った教義を持っていた
といった理由から、元にする資料ごとに内容が異なってきます。
このへんをちょっと詳しくいきます。
◆古代エジプトの範囲
古代には国境なんかありません。
そして前述したように、古代エジプトの歴史がおよそ3000年あるので、今の「エジプト」と昔の「エジプト」は範囲が若干違います。(そもそも昔はエジプトっていう国の名前も無かったんですが…)
勢力は時代ごとに変動しますが、
↓こんな感じで、東は今のシリアあたり、南はスーダンまでハミだしている時代が多いです。
最大勢力時にはキプロス島あたりまで傘下にあったので、キプロスやシリアからエジプト風の遺物が出てくることも珍しくありません。本土から離れるぶん、そうした植民地での神話の扱いは、地方ローカルになっていきます。(たとえば、イシスとアスタルテが同一視されているなど。)
南のヌビアのほうの神殿に行くと、ヌビア土着の神様がしれっとエジプトの神々に混じっていたりします。
神話には地方色があるのだということをらまず一つ覚えておくといいかと思います。
◆古代エジプトの時代
次に時代による差。
王朝が栄え始めるのは紀元前3000年くらい、ローマ支配下に入って独立を失うのが紀元前30年。
ピラミッドを造っていた時代からツタンカーメンの時代まではおよそ1000年違うと思ってください。日本でいうと、現代と平安時代くらいの時代のスケール感。伝統の一部は引き継がれていても、そりゃ神話が同じなわけねーです。
変化するのはまず、神様の偉さと家族関係。時代ごとに人気の神様が違っているので、神話の中での神様のポジションが変わってきます。
また人気がなくなった神様は言及されなくなり、忘れられるか、他の有力な神様に吸収合併されることがあります。
神話に最も大きな変化が訪れるのがローマ支配下に入って以降です。
ローマ支配化に入っても元の宗教はいきなりは廃れず、ローマがキリスト教を国教としてしばらくするまでは、古代エジプトの時代の宗教が生き残ります。なので、末期になってくるとローマの神話と合体したエジプト神話というものも誕生してきます。プルタルコスの「イシスとオシリスの伝説」などは、そのあたりの時代のもの。
◆エジプト神話の原典
エジプト神話がまとまっていないのには、原典の数が非常に多く、各時代・各地方のバリエーションが数多く残されているという理由もあります。原典には 神殿の壁 とか ピラミッドの内部の装飾 も含まれます。
↓こちらデンデラのハトホル神殿地下室の壁画。絵の周りのヒエログリフが神話のテキスト。作られた時代はプトレマイオス朝時代。
もちろん石碑やパピルス文書などもあるのですが、こうしたデカい原典が多いのもエジプト神話の特徴。
北欧神話なら「エッダ」、インド神話なら「リグ・ヴェーダ」や「ラーマーヤナ」など、どの神話にも代表的な(そしてしばしば唯一のまとまった)資料がありますが、エジプト神話の場合、数が多くて代表例を挙げるのが難しいです。強いていうなら「死者の書」とか「ピラミッド・テキスト」とかになると思いますが、「ピラミッド・テキスト」は名前のとおりピラミッド作ってた時代に成立した文書なので、写真に挙げたプトレマイオス朝時代のテキストからは二千年以上前の神話になり、かなりの差異が見られます。
◆ざっくり何種類くらいある?
ではエジプト神話の種類はざっくり何種類くらいあるのか。
系統別に分けた場合の主要な神話系統は以下の3つくらいです。
★太陽神ラーが主神となる「太陽神話群」
→中心地がヘリオポリスなので「ヘリオポリス系神話」
→ナイル下流(下エジプト)系
★太陽神アメンが主神となるもう一つの「太陽神話群」
→中心地がヘルモポリスなので「ヘルモポリス系神話」
→ナイル上流(上エジプト)系
★創造神プタハ様万歳、独立独歩系
→中心地がメンフィスなので「メンフィス神話」
→上エジプトと下エジプトのちゅうど中間
あとオシリス神の殺害と復活に関する神話を「洪水神話群」と呼ぶ場合も。
それぞれ主神が異なるので、自分とこの神様がいちばんエライことにするために世界の創造の仕方から他の神様たちの立ち位置まで全然違う神話になっています。現代でメジャーなのはラー様主神の太陽神話群だと思います、
時代で分けた場合の大区切りは、以下のような感じ。
★初期~古王国時代
→エジプト統一後間もないため弱小な地方神が多く残っている
→現在では名前しか知られていないような神々が多数
→最も初期の神話の形を知ることが出来る
★中王国~新王国時代
→アジア系移民が流入し始めるため、アジア系の神々が神話に組み込まれていく
→現在残っている主要な神話の肉付けがされた時代
→弱小な神々は強力な神々に吸収合併される
★末期王朝~ローマ支配時代
→ギリシャ・ローマの神話と混ざった神話になる
→さらに弱小な神々は強力な神々に吸収合併される
→有力な神々は逆にローマの神々を取り込んでニューバージョンにクラスチェンジ
先にも書いたように、末期王朝以降の神話はかなりローマナイズされているのでエジプト神話のイメージからはかけ離れてきますが、それでもエジプト神話の一部には違いないです。
こんな感じで基本を押さえておくと、エジプト神話が分かりやすいと思います。
エジプト神話は一つではないということ。「時代」「場所」「原典」によって内容に大きな差が出ることを覚えておけば、資料によって内容が全然違ってもパニくらずに済みます。
あと、元が古代エジプト語なんで、同じ原典を使っても、研究者の翻訳センスによって内容だいぶ違ってきます。どう翻訳すべきかが定かではない単語もありますし…一般書だと原典の一部省略したりしますし…。
セトさんのザー○ン事件とかも知らない人知らないですからね(笑
一般書ぼかして書きすぎなんだよ、ええやん白濁液で孕んでも。
そんな感じで。
エジプト神話はとにかく 考えるな感じろ の世界なので、読んで感じて空想膨らせて、楽しければそれでオケーだと思います。それでは皆様、楽しい春のエジプト神話ライフをお楽しみください。
[>おまけ
春だしオススメのエジプト神話本でも紹介してみるぜ
というわけで、春から新しいこと初めてみたいぞーというエジプト神話初心者さんのために、改めて「エジプト神話ってなんぞ」というのを判り易く簡単に説明してみたいと思います。そういうのめんどくさいからとりあえず資料だけくれよって人は別館へGO。
◆エジプト神話とは何か
ザックリ言うと、"今のエジプトあたりに暮らしていた人たちがかつて信仰していた宗教に纏わる教義"というのがエジプト神話。しかし、教義は一つではありませんでした。何故かというと、教義を一つにまとめて「聖典」(キリスト教なら聖書)を作る作業をしなかったからです。そして、
・古代エジプトの宗教が信仰された時代がとても長い(およそ3000年)
・宗教の中心地が複数あり、それぞれで違った教義を持っていた
といった理由から、元にする資料ごとに内容が異なってきます。
このへんをちょっと詳しくいきます。
◆古代エジプトの範囲
古代には国境なんかありません。
そして前述したように、古代エジプトの歴史がおよそ3000年あるので、今の「エジプト」と昔の「エジプト」は範囲が若干違います。(そもそも昔はエジプトっていう国の名前も無かったんですが…)
勢力は時代ごとに変動しますが、
↓こんな感じで、東は今のシリアあたり、南はスーダンまでハミだしている時代が多いです。
最大勢力時にはキプロス島あたりまで傘下にあったので、キプロスやシリアからエジプト風の遺物が出てくることも珍しくありません。本土から離れるぶん、そうした植民地での神話の扱いは、地方ローカルになっていきます。(たとえば、イシスとアスタルテが同一視されているなど。)
南のヌビアのほうの神殿に行くと、ヌビア土着の神様がしれっとエジプトの神々に混じっていたりします。
神話には地方色があるのだということをらまず一つ覚えておくといいかと思います。
◆古代エジプトの時代
次に時代による差。
王朝が栄え始めるのは紀元前3000年くらい、ローマ支配下に入って独立を失うのが紀元前30年。
ピラミッドを造っていた時代からツタンカーメンの時代まではおよそ1000年違うと思ってください。日本でいうと、現代と平安時代くらいの時代のスケール感。伝統の一部は引き継がれていても、そりゃ神話が同じなわけねーです。
変化するのはまず、神様の偉さと家族関係。時代ごとに人気の神様が違っているので、神話の中での神様のポジションが変わってきます。
また人気がなくなった神様は言及されなくなり、忘れられるか、他の有力な神様に吸収合併されることがあります。
神話に最も大きな変化が訪れるのがローマ支配下に入って以降です。
ローマ支配化に入っても元の宗教はいきなりは廃れず、ローマがキリスト教を国教としてしばらくするまでは、古代エジプトの時代の宗教が生き残ります。なので、末期になってくるとローマの神話と合体したエジプト神話というものも誕生してきます。プルタルコスの「イシスとオシリスの伝説」などは、そのあたりの時代のもの。
◆エジプト神話の原典
エジプト神話がまとまっていないのには、原典の数が非常に多く、各時代・各地方のバリエーションが数多く残されているという理由もあります。原典には 神殿の壁 とか ピラミッドの内部の装飾 も含まれます。
↓こちらデンデラのハトホル神殿地下室の壁画。絵の周りのヒエログリフが神話のテキスト。作られた時代はプトレマイオス朝時代。
もちろん石碑やパピルス文書などもあるのですが、こうしたデカい原典が多いのもエジプト神話の特徴。
北欧神話なら「エッダ」、インド神話なら「リグ・ヴェーダ」や「ラーマーヤナ」など、どの神話にも代表的な(そしてしばしば唯一のまとまった)資料がありますが、エジプト神話の場合、数が多くて代表例を挙げるのが難しいです。強いていうなら「死者の書」とか「ピラミッド・テキスト」とかになると思いますが、「ピラミッド・テキスト」は名前のとおりピラミッド作ってた時代に成立した文書なので、写真に挙げたプトレマイオス朝時代のテキストからは二千年以上前の神話になり、かなりの差異が見られます。
◆ざっくり何種類くらいある?
ではエジプト神話の種類はざっくり何種類くらいあるのか。
系統別に分けた場合の主要な神話系統は以下の3つくらいです。
★太陽神ラーが主神となる「太陽神話群」
→中心地がヘリオポリスなので「ヘリオポリス系神話」
→ナイル下流(下エジプト)系
★太陽神アメンが主神となるもう一つの「太陽神話群」
→中心地がヘルモポリスなので「ヘルモポリス系神話」
→ナイル上流(上エジプト)系
★創造神プタハ様万歳、独立独歩系
→中心地がメンフィスなので「メンフィス神話」
→上エジプトと下エジプトのちゅうど中間
あとオシリス神の殺害と復活に関する神話を「洪水神話群」と呼ぶ場合も。
それぞれ主神が異なるので、自分とこの神様がいちばんエライことにするために世界の創造の仕方から他の神様たちの立ち位置まで全然違う神話になっています。現代でメジャーなのはラー様主神の太陽神話群だと思います、
時代で分けた場合の大区切りは、以下のような感じ。
★初期~古王国時代
→エジプト統一後間もないため弱小な地方神が多く残っている
→現在では名前しか知られていないような神々が多数
→最も初期の神話の形を知ることが出来る
★中王国~新王国時代
→アジア系移民が流入し始めるため、アジア系の神々が神話に組み込まれていく
→現在残っている主要な神話の肉付けがされた時代
→弱小な神々は強力な神々に吸収合併される
★末期王朝~ローマ支配時代
→ギリシャ・ローマの神話と混ざった神話になる
→さらに弱小な神々は強力な神々に吸収合併される
→有力な神々は逆にローマの神々を取り込んでニューバージョンにクラスチェンジ
先にも書いたように、末期王朝以降の神話はかなりローマナイズされているのでエジプト神話のイメージからはかけ離れてきますが、それでもエジプト神話の一部には違いないです。
こんな感じで基本を押さえておくと、エジプト神話が分かりやすいと思います。
エジプト神話は一つではないということ。「時代」「場所」「原典」によって内容に大きな差が出ることを覚えておけば、資料によって内容が全然違ってもパニくらずに済みます。
あと、元が古代エジプト語なんで、同じ原典を使っても、研究者の翻訳センスによって内容だいぶ違ってきます。どう翻訳すべきかが定かではない単語もありますし…一般書だと原典の一部省略したりしますし…。
セトさんのザー○ン事件とかも知らない人知らないですからね(笑
そんな感じで。
エジプト神話はとにかく 考えるな感じろ の世界なので、読んで感じて空想膨らせて、楽しければそれでオケーだと思います。それでは皆様、楽しい春のエジプト神話ライフをお楽しみください。
[>おまけ
春だしオススメのエジプト神話本でも紹介してみるぜ