エジプト神話の原典 ~パピルスから陶片まで。
「古代エジプトの古文書」とか「エジプトのパピルス巻物」とか言うと、なんかちょっとカッコいいし箔がついた感がある。
でもエジプトの資料ってパピルスの巻物だけじゃないからな?
っていうお話。
*******
神話の原典は、本や巻物などであることが多い。北欧神話とかギリシャ神話とかインド神話とか日本神話とか、有名どころはだいたいそう。オーストラリア先住民とかネイティブアメリカンとか、文字を開発しなかった文明では、後世にそこへ行った人が話しを聞いて書き記したものだけど、それもやっぱり本の形になった文字資料。
しかしエジプト神話の"原典"は、じつは「パピルス」とか「巻物」より、そうじゃない形態のもののほうが多いんだ。
たとえばこれ、ピラミッドテキスト。
その名のとおり、ピラミッド内部にビッシリと書かれた死後の世界に関する呪文集で、第五王朝以降のピラミッドで出現する。(だから第四王朝時代に作られたギザのピラミッドの中には何も書かれていない)
最古の神話資料といえばコレである。
ちなみにピラミッド・テキストの英訳はオンライン上でも読める。ウナス王のピラミッド内部の呪文が有名である。
邦訳だと筑摩書房の「古代オリエント集」がある。より古い時代の神話を知りたい時はこれが一級資料。
ピラミッド・テキストは、中王国時代になってピラミッドが作られなくなると、棺に直接描かれるようになる。
こんなかんじで。
棺に書かれるようになったので、「コフィン(棺)・テキスト」と呼ばれる。何やらうねうねしたヘビみたいなものが描かれているものがあるが、これ冥界の道順を書いてあって、「ここをこう曲がって次の門でこの呪文を唱えること。そしてヘビをかわしながら行くとオシリスの館につくよ!」みたいな冥界攻略本となっている。
コフィン・テキストが描かれていた時代の棺は、人型棺ではなく、四角いハコ型をしている。
人型の棺が使われはじめるのは新王国時代くらいからで、そうなると棺そのものに呪文を書けないので、パピルスの巻物に呪文を書いて棺の中に入れるようになる。これが有名な「死者の書」だ。
つまり「死者の書」が使われるようになるまでは、パピルス以外のものに呪文を書いてたので、パピルス以外の資料も沢山あるってことなのだ。
ただし、ピラミッド・テキストにしろコフィン・テキストにしろ、死者とともに埋葬するものなので、いきおい「死後の世界」や「死んだあとの世界」など、死にまつわる神話ばかりになってしまう。
じゃあそれ以外の神話、たとえば世界の創造とか人間の誕生とか、生きてる人間にまつわる神話はどこから知るの? …その答えのひとつが、神殿の壁 である。
ギリシャの神殿なんかと違って、エジプトの神殿は壁面に文字と絵がビッシリなんである。
たとえばこれはカルナック神殿の奥のほうの壁面。削られているのはファラオ(たぶんハトシェプスト?)が描かれていた部分で、王を祝福する神々が周囲から聖水を注いでいる。
新王国時代の、セティ1世とその息子ラメセス2世が作った葬祭殿の壁面。右側の獅子頭の神は、ラーの眼を携えている。この神殿の壁には初代王からの歴代王名、いわゆる「アビドス王名表」があることでも有名。保存状態がよく、多くの神話が残されている。
こちらはプトレマイオス朝時代に作られたものだが、デンデラ神殿の地下室壁面。王の象徴でもあるホルス神が朝日とともに誕生(再生)する神話が描かれている。絵の部分でうねうねしている部分はヘビなのだが、なぜか昔は「フィラメントに見える、だからこれは電球に違いない」などという説を真に受けている人も多かった。周囲に神話のストーリーが描かれているのに、なんでそんな説を信じたのかは良く判らない。
神殿の壁と同じくらい重要なのが墓の壁面で、こちらも文字と絵で情報がビッシリ書き記されている。王家の谷の王たちの墓が有名どころだが、それ以外にも私人墓といって王以外の裕福な人たちが作った墓が多数存在する。
墓なので、死者の書などと同じく死後の世界にまつわる内容も多いのだが、個人的な守護神に対する呪文が書かれていることもある。また、私人墓の場合は、ビール作りのシーンや釣り・狩りのシーン、畑仕事のシーンなど生前にやったことを書いてあったりするので、民俗学的な資料になることも多い。
そしてさらに、これら以外にも、神話の資料となりうる「巻物以外」の記録媒体が存在する。
一つはオストラカ(陶片)。これは陶器の破片や石のことで、高価なパピルスを使わずメモ代わりに文字を書いたものがある。有名な「シヌヘの物語」などは、学校の授業で練習教材として使われていたようで、生徒が書いたと思われるオストラカが多数発見されている。
もう一つは石碑(ステラ)。
神殿や墓の奉納するために作られた「礼拝ステラ」は、文字はそう多くないが、必ず神様のビジュアルと名前が出てくるので、神様の姿を知るには大事な資料だ。また、いつの時代、どこで、どんな神様人気があったのかということが判る。
パピルスが朽ちてしまうというので、石に刻まれた神話もある。石臼として再利用されたために大きく破損しているが、今でも原型をとどめているのが「シャバカ・ストーン」。この石にはプタハ神に関わる神話が記録されている。
*****
というわけで、「エジプト神話の原典」は、ぶっちゃけパピルス文書よりそれ以外の媒体に描かれたもののほうが多いんだ。でもってまとまったストーリーとして存在するよりは、「xxのステラでは○○神が戦いの神って書かれてた」 「xxの棺に死者の守護神として○○神と○○神が出てきた」 みたいな断片的な情報のほうが多い。そしてそれらの情報が互いに矛盾していたりするという(笑)
大抵の神話本は、情報の出所書いてないんだよねー。
でもエジプトの資料ってパピルスの巻物だけじゃないからな?
っていうお話。
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神話の原典は、本や巻物などであることが多い。北欧神話とかギリシャ神話とかインド神話とか日本神話とか、有名どころはだいたいそう。オーストラリア先住民とかネイティブアメリカンとか、文字を開発しなかった文明では、後世にそこへ行った人が話しを聞いて書き記したものだけど、それもやっぱり本の形になった文字資料。
しかしエジプト神話の"原典"は、じつは「パピルス」とか「巻物」より、そうじゃない形態のもののほうが多いんだ。
たとえばこれ、ピラミッドテキスト。
その名のとおり、ピラミッド内部にビッシリと書かれた死後の世界に関する呪文集で、第五王朝以降のピラミッドで出現する。(だから第四王朝時代に作られたギザのピラミッドの中には何も書かれていない)
最古の神話資料といえばコレである。
ちなみにピラミッド・テキストの英訳はオンライン上でも読める。ウナス王のピラミッド内部の呪文が有名である。
邦訳だと筑摩書房の「古代オリエント集」がある。より古い時代の神話を知りたい時はこれが一級資料。
ピラミッド・テキストは、中王国時代になってピラミッドが作られなくなると、棺に直接描かれるようになる。
こんなかんじで。
棺に書かれるようになったので、「コフィン(棺)・テキスト」と呼ばれる。何やらうねうねしたヘビみたいなものが描かれているものがあるが、これ冥界の道順を書いてあって、「ここをこう曲がって次の門でこの呪文を唱えること。そしてヘビをかわしながら行くとオシリスの館につくよ!」みたいな冥界攻略本となっている。
コフィン・テキストが描かれていた時代の棺は、人型棺ではなく、四角いハコ型をしている。
人型の棺が使われはじめるのは新王国時代くらいからで、そうなると棺そのものに呪文を書けないので、パピルスの巻物に呪文を書いて棺の中に入れるようになる。これが有名な「死者の書」だ。
つまり「死者の書」が使われるようになるまでは、パピルス以外のものに呪文を書いてたので、パピルス以外の資料も沢山あるってことなのだ。
ただし、ピラミッド・テキストにしろコフィン・テキストにしろ、死者とともに埋葬するものなので、いきおい「死後の世界」や「死んだあとの世界」など、死にまつわる神話ばかりになってしまう。
じゃあそれ以外の神話、たとえば世界の創造とか人間の誕生とか、生きてる人間にまつわる神話はどこから知るの? …その答えのひとつが、神殿の壁 である。
ギリシャの神殿なんかと違って、エジプトの神殿は壁面に文字と絵がビッシリなんである。
たとえばこれはカルナック神殿の奥のほうの壁面。削られているのはファラオ(たぶんハトシェプスト?)が描かれていた部分で、王を祝福する神々が周囲から聖水を注いでいる。
新王国時代の、セティ1世とその息子ラメセス2世が作った葬祭殿の壁面。右側の獅子頭の神は、ラーの眼を携えている。この神殿の壁には初代王からの歴代王名、いわゆる「アビドス王名表」があることでも有名。保存状態がよく、多くの神話が残されている。
こちらはプトレマイオス朝時代に作られたものだが、デンデラ神殿の地下室壁面。王の象徴でもあるホルス神が朝日とともに誕生(再生)する神話が描かれている。絵の部分でうねうねしている部分はヘビなのだが、なぜか昔は「フィラメントに見える、だからこれは電球に違いない」などという説を真に受けている人も多かった。周囲に神話のストーリーが描かれているのに、なんでそんな説を信じたのかは良く判らない。
神殿の壁と同じくらい重要なのが墓の壁面で、こちらも文字と絵で情報がビッシリ書き記されている。王家の谷の王たちの墓が有名どころだが、それ以外にも私人墓といって王以外の裕福な人たちが作った墓が多数存在する。
墓なので、死者の書などと同じく死後の世界にまつわる内容も多いのだが、個人的な守護神に対する呪文が書かれていることもある。また、私人墓の場合は、ビール作りのシーンや釣り・狩りのシーン、畑仕事のシーンなど生前にやったことを書いてあったりするので、民俗学的な資料になることも多い。
そしてさらに、これら以外にも、神話の資料となりうる「巻物以外」の記録媒体が存在する。
一つはオストラカ(陶片)。これは陶器の破片や石のことで、高価なパピルスを使わずメモ代わりに文字を書いたものがある。有名な「シヌヘの物語」などは、学校の授業で練習教材として使われていたようで、生徒が書いたと思われるオストラカが多数発見されている。
もう一つは石碑(ステラ)。
神殿や墓の奉納するために作られた「礼拝ステラ」は、文字はそう多くないが、必ず神様のビジュアルと名前が出てくるので、神様の姿を知るには大事な資料だ。また、いつの時代、どこで、どんな神様人気があったのかということが判る。
パピルスが朽ちてしまうというので、石に刻まれた神話もある。石臼として再利用されたために大きく破損しているが、今でも原型をとどめているのが「シャバカ・ストーン」。この石にはプタハ神に関わる神話が記録されている。
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というわけで、「エジプト神話の原典」は、ぶっちゃけパピルス文書よりそれ以外の媒体に描かれたもののほうが多いんだ。でもってまとまったストーリーとして存在するよりは、「xxのステラでは○○神が戦いの神って書かれてた」 「xxの棺に死者の守護神として○○神と○○神が出てきた」 みたいな断片的な情報のほうが多い。そしてそれらの情報が互いに矛盾していたりするという(笑)
大抵の神話本は、情報の出所書いてないんだよねー。









