海賊キッドの船発見→やっぱり誤報でした(テヘペロ)までは想定内。問題はそこからだ。
第一報が流れたあとに書いたこちらのエントリ。
そのニュースを支持してはいけない。「キャプテン・キッドの財宝発見」→おそらくガセニュース
https://55096962.seesaa.net/article/201506article_5.html
その後のユネスコ調査で、「やっぱ嘘だったよ、つーか船の残骸ですら無いよ」という発表がされた。まぁここまでは想定内、ふーんって感じなんだけど問題はここから。
「海賊キッドの沈没船と財宝ではない」ユネスコが否定
http://www.afpbb.com/articles/-/3054515
この報告書ってのがなかなか見つからず、「どこだよ!!」って探し回るハメになり、ようやく見つけたのがコレ↓ なんでュースからソースをリンクしないんだよとイライラさせられた。
http://www.unesco.org/new/fileadmin/MULTIMEDIA/HQ/CLT/pdf/Rapport_Madagascar_EN_public.pdf
世の中のニュースでは、「この船の真偽が議論されている」などという記載の仕方のものもあったが、そもそも議論が起こる話ではないです。
なぜならクリフォード氏は、見つけたものが海賊キッドの船「アドベンチャー・ギャリー号」だとする明確な根拠を述べることが出来なかった。全ては彼が「こう信じる」「たぶん~だろう」と主張する言葉に集約されている。大昔にテレビで流行った「徳川埋蔵金発掘」とかのネタと同じである。彼はドキュメンタリーを撮って売り込むという方法で資金とファンを集めている。つまり視聴者がウケて沢山釣られてくれることが目的なので、見つけたモノが本当は何であれ、なるべく有名かつ人が興味を抱くモノだと主張するわけです。
このソース貼っといてくれれば、どんな調査が行われたのか、どちらが真実なのか、より多くの人にも分かってもらえるだろうに、ソッチ方面の専門家は、なんでちゃんと宣伝しないのか。今のご時勢、黙ってても研究費が落ちてくるとか在り得ねーんですよ。自分だけ分かってればいいんじゃないんですよ。水中考古学の認知度が低いとか予算が少ないとか文句言う前に、まずやるべきことがある。
というわけで、「流れてこないニュースは自分で探しに行く」がモットーなので、ちょっと海にダイブしてみましたわよ。
泳 げ な い け ど な
********
さて問題の報告書ですが、調査内容は8ページ目からとなってます。(その前の部分も面白いんで読める人は読んでください)
「アドベンチャー・ギャリー号」とされたもの以外の残骸についても同時に調査がされているが、とりあえず問題の船の部分を見ていきます。
まず
・「アドベンチャー・ギャリー号」の残骸とされたものの位置が岸に近く、浅すぎる
んなとこに船を隠さないだろう、というのがユネスコの主張。
・船を構成していた木材が見つかっていない
12Pに載ってる写真見るとほぼ石なんですよね。これを「アドベンチャー・ギャリー号」と主張するのならば、遅くとも1698年以前のものである木材を見つけてこいや、とツッコまれている。ちなみにクリフォード氏はそうした木材を見つけていないことは認めています。
・この遺構に積み上がっている石材は主に玄武岩で、かつてバラストとして使われていた資材と推測される。記録によれば19世紀の洪水で港の建設資材が流出したとされており、その時代のものかもしれない
これが、ニュースで流れていた「沈没船ではなく港の一部」という部分のソースだと思われる。実際は、洪水で流された港の資材の山のようですが…。
財宝の銀の延べ棒が見つかったぜ! と主張されていたものが、実は鉛製のバラストだった、というニュースの記載は、おそらくここから繋がっている。沈没船じゃなくて港の資材なんだから、そりゃインゴット混じっててもおかしくないよねってこと。インゴットについての記述は後ろのほうに記載があります。
・このサイトから見つかったコインの年代は18世紀末と19世紀初頭
「アドベンチャー・ギャリー号」の沈んだ時代よりずっと後。むしろ19世紀の洪水で流れた港の資材だ説を裏付けています。
<<どう見てもコレ 船の残骸じゃないよね…>>
その他、細かく記載があるが、途中ははしょって、21ページから始まる「銅のインゴット」の部分を見てみます。説明をざっくり要約すると以下のようなことが述べられていました。
・このタイプのインゴットは18世紀~19世紀に作られている。
(専門家が見ればすぐ分かるタイプのもののようだ)
・記載されている文字は「IXB」とか「95」とか。ノミが何かで適当に削られている。
(銀や金の延べ棒でイメージされるような、成分を保障する印のようなものではない)
・成分分析では95%が銅。記載されている文字の「95」とはこのパーセンテージを表すのではないかと考えられている。
・端がざっくり切り取られたようになっているのは、船に合わせて元々一つだったものを二つに分断した結果
(バラストとして使われていたという前提と一致する)
<<横から見たとこ。ザツな作りなのが一目瞭然>>
というわけで、議論の余地はないんです。詐欺にしても主張がザツすぎる。
発見されたものの詳細な分析は、これが17世紀末の難破船などではないことを明確に示しています。つーかむしろ逆に、何でこれが「アドベンチャー・ギャリー号」だと思ったのか、そっちの根拠出せやという話。
しかし、本当に重要なのはそこではありません。
なぜ、このような誤報が世界をにぎわすことになったのかという、ニュース記事がほとんど触れていない根本原因こそがもっとも重要なポイントです。
バリー・クリフォード氏は1999年からマダガスカル周辺で調査と称したトレジャーハンティングを行っていて、見つけた水中遺物は今回の一隻だけではありません。そして見つけたもの全てが有名な海賊船や著名な船だったことにされ、撮影した映画フィルムの宣伝としてメディアに情報が流されています。
そうした映像は、実はナショナル・ジオグラフィックも買っていて、海賊船の番組に使われています。
http://events.nationalgeographic.com/speakers-bureau/speaker/barry-clifford/
ユネスコの報告書とクリフォード氏の映像を見比べるなら、その違いは一目瞭然。本職の考古学者であれば、一つ一つ証拠を積み上げていった上で「xxである可能性が高い」と慎重に発言する。しかしウケ狙いであるクリフォード氏は、なんの根拠もなく魅力的な空想に飛びつき、民衆やマスコミが欲しがるきらびやかな成果を宣伝しています。
専門家の言うことはよくわからんし地味だし、トレジャーハンターの言うことはウケがいいし…というわけで、尻軽なマスコミが後者の肩をもつのは当然の流れです。しかしそれを我々一般人はアッサリ受け入れてはいけない。
一部のメディアではユネスコとバリー・クリフォードという個人の対立のように演出されていますが、これは本来は「遺跡や遺物の好きな人・人類の歴史に興味のある人・考古学ファン」と、「それらを金儲けのために利用するトレジャーハンター」との対立です。クリフォード氏には、遺跡を愛する気持ちとか歴史のロマンを追う真の情熱とかいうものはありません。興味あるのは功名心と金儲けだけです。でなければ、自分が見つけたものが真実は何であるのか、きちんと確認するはずです。
ユネスコのこのレポートにもあるとおり、トレジャーハンターが見つけた遺跡を荒らしまわって、あろうことかそこから持ち出したものをオークションで売りさばくような事態も起きているのです。水中にあっても土中にあっても、これは盗掘です。歴史の散逸、明らかにされるべき歴史が永遠に謎のままになってしまうことも意味します。
何か華々しい成果が聞こえてくるとすぐに「ロマンですねー」とか「お幾らくらいの価値ですか?」とか言っちゃてる人たちは、自ら「敵」の手助けをしてることに気がつきましょう。
********
さて、一般人はともかく、私は専門家の動きが鈍いことのほうにイライラしています。
現在は「マトモな」考古学者が偽者に宣伝負けしているという危機的な状況のはずですが、本職の人たちからは、状況に張り合う気概がイマイチ感じられない。嘘八百流されて指咥えて見てんじゃねーですよ。ていうかそもそも、本職の人が解説してくれれば、英語堪能でもなく、こうした水中遺物について知識の足りない一般人が、苦労して情報を探す必要なかったんですけど。
クリフォード氏ら詐欺師が嘘の宣伝をしてマスコミが食いついて映画が売れる、という状況は、ひっくり返せば、興味を持っている人がそれだけ沢山いるということです。それらの人たちにこそ、「このやり方は邪道なのだ」「本当はこうなのだ」と、猛烈にアピールする必要があるんじゃないですか? 興味の入り口に立っている人に、より深い興味と知見を持って貰い、本物の「ファン」に育てれば、偽者に対抗するための強力な援軍になりうるじゃないですか。
本職の人たちは、世の中が判ってくれないとか愚痴ってるヒマがあったら、この"発見"のニュースが、いかに金儲けのために仕立て上げられたまやかしであるか、こうしたニュースにホイホイ乗っかるメディアの脳みそがどんだけ軽いか、しつこいくらい主張すべきなんですよ。よろしくお願いしますよ!!
(よし、こんだけ煽っとけば次から誰かやってくれるだろう
(ちらっちらっ
そのニュースを支持してはいけない。「キャプテン・キッドの財宝発見」→おそらくガセニュース
https://55096962.seesaa.net/article/201506article_5.html
その後のユネスコ調査で、「やっぱ嘘だったよ、つーか船の残骸ですら無いよ」という発表がされた。まぁここまでは想定内、ふーんって感じなんだけど問題はここから。
「海賊キッドの沈没船と財宝ではない」ユネスコが否定
http://www.afpbb.com/articles/-/3054515
" ユネスコの報告書によると、「銀」の延べ棒とされたものは鉛の重しにすぎず、沈没船はマダガスカルの東にある小さなサント・マリー(Sainte Marie)島の湾に残っていた建築物の古いがれきだったとしている。"
この報告書ってのがなかなか見つからず、「どこだよ!!」って探し回るハメになり、ようやく見つけたのがコレ↓ なんでュースからソースをリンクしないんだよとイライラさせられた。
http://www.unesco.org/new/fileadmin/MULTIMEDIA/HQ/CLT/pdf/Rapport_Madagascar_EN_public.pdf
世の中のニュースでは、「この船の真偽が議論されている」などという記載の仕方のものもあったが、そもそも議論が起こる話ではないです。
なぜならクリフォード氏は、見つけたものが海賊キッドの船「アドベンチャー・ギャリー号」だとする明確な根拠を述べることが出来なかった。全ては彼が「こう信じる」「たぶん~だろう」と主張する言葉に集約されている。大昔にテレビで流行った「徳川埋蔵金発掘」とかのネタと同じである。彼はドキュメンタリーを撮って売り込むという方法で資金とファンを集めている。つまり視聴者がウケて沢山釣られてくれることが目的なので、見つけたモノが本当は何であれ、なるべく有名かつ人が興味を抱くモノだと主張するわけです。
このソース貼っといてくれれば、どんな調査が行われたのか、どちらが真実なのか、より多くの人にも分かってもらえるだろうに、ソッチ方面の専門家は、なんでちゃんと宣伝しないのか。今のご時勢、黙ってても研究費が落ちてくるとか在り得ねーんですよ。自分だけ分かってればいいんじゃないんですよ。水中考古学の認知度が低いとか予算が少ないとか文句言う前に、まずやるべきことがある。
というわけで、「流れてこないニュースは自分で探しに行く」がモットーなので、ちょっと海にダイブしてみましたわよ。
泳 げ な い け ど な
********
さて問題の報告書ですが、調査内容は8ページ目からとなってます。(その前の部分も面白いんで読める人は読んでください)
「アドベンチャー・ギャリー号」とされたもの以外の残骸についても同時に調査がされているが、とりあえず問題の船の部分を見ていきます。
まず
・「アドベンチャー・ギャリー号」の残骸とされたものの位置が岸に近く、浅すぎる
んなとこに船を隠さないだろう、というのがユネスコの主張。
・船を構成していた木材が見つかっていない
12Pに載ってる写真見るとほぼ石なんですよね。これを「アドベンチャー・ギャリー号」と主張するのならば、遅くとも1698年以前のものである木材を見つけてこいや、とツッコまれている。ちなみにクリフォード氏はそうした木材を見つけていないことは認めています。
・この遺構に積み上がっている石材は主に玄武岩で、かつてバラストとして使われていた資材と推測される。記録によれば19世紀の洪水で港の建設資材が流出したとされており、その時代のものかもしれない
これが、ニュースで流れていた「沈没船ではなく港の一部」という部分のソースだと思われる。実際は、洪水で流された港の資材の山のようですが…。
財宝の銀の延べ棒が見つかったぜ! と主張されていたものが、実は鉛製のバラストだった、というニュースの記載は、おそらくここから繋がっている。沈没船じゃなくて港の資材なんだから、そりゃインゴット混じっててもおかしくないよねってこと。インゴットについての記述は後ろのほうに記載があります。
・このサイトから見つかったコインの年代は18世紀末と19世紀初頭
「アドベンチャー・ギャリー号」の沈んだ時代よりずっと後。むしろ19世紀の洪水で流れた港の資材だ説を裏付けています。
<<どう見てもコレ 船の残骸じゃないよね…>>
その他、細かく記載があるが、途中ははしょって、21ページから始まる「銅のインゴット」の部分を見てみます。説明をざっくり要約すると以下のようなことが述べられていました。
・このタイプのインゴットは18世紀~19世紀に作られている。
(専門家が見ればすぐ分かるタイプのもののようだ)
・記載されている文字は「IXB」とか「95」とか。ノミが何かで適当に削られている。
(銀や金の延べ棒でイメージされるような、成分を保障する印のようなものではない)
・成分分析では95%が銅。記載されている文字の「95」とはこのパーセンテージを表すのではないかと考えられている。
・端がざっくり切り取られたようになっているのは、船に合わせて元々一つだったものを二つに分断した結果
(バラストとして使われていたという前提と一致する)
<<横から見たとこ。ザツな作りなのが一目瞭然>>
というわけで、議論の余地はないんです。詐欺にしても主張がザツすぎる。
発見されたものの詳細な分析は、これが17世紀末の難破船などではないことを明確に示しています。つーかむしろ逆に、何でこれが「アドベンチャー・ギャリー号」だと思ったのか、そっちの根拠出せやという話。
しかし、本当に重要なのはそこではありません。
なぜ、このような誤報が世界をにぎわすことになったのかという、ニュース記事がほとんど触れていない根本原因こそがもっとも重要なポイントです。
バリー・クリフォード氏は1999年からマダガスカル周辺で調査と称したトレジャーハンティングを行っていて、見つけた水中遺物は今回の一隻だけではありません。そして見つけたもの全てが有名な海賊船や著名な船だったことにされ、撮影した映画フィルムの宣伝としてメディアに情報が流されています。
そうした映像は、実はナショナル・ジオグラフィックも買っていて、海賊船の番組に使われています。
http://events.nationalgeographic.com/speakers-bureau/speaker/barry-clifford/
ユネスコの報告書とクリフォード氏の映像を見比べるなら、その違いは一目瞭然。本職の考古学者であれば、一つ一つ証拠を積み上げていった上で「xxである可能性が高い」と慎重に発言する。しかしウケ狙いであるクリフォード氏は、なんの根拠もなく魅力的な空想に飛びつき、民衆やマスコミが欲しがるきらびやかな成果を宣伝しています。
専門家の言うことはよくわからんし地味だし、トレジャーハンターの言うことはウケがいいし…というわけで、尻軽なマスコミが後者の肩をもつのは当然の流れです。しかしそれを我々一般人はアッサリ受け入れてはいけない。
一部のメディアではユネスコとバリー・クリフォードという個人の対立のように演出されていますが、これは本来は「遺跡や遺物の好きな人・人類の歴史に興味のある人・考古学ファン」と、「それらを金儲けのために利用するトレジャーハンター」との対立です。クリフォード氏には、遺跡を愛する気持ちとか歴史のロマンを追う真の情熱とかいうものはありません。興味あるのは功名心と金儲けだけです。でなければ、自分が見つけたものが真実は何であるのか、きちんと確認するはずです。
ユネスコのこのレポートにもあるとおり、トレジャーハンターが見つけた遺跡を荒らしまわって、あろうことかそこから持ち出したものをオークションで売りさばくような事態も起きているのです。水中にあっても土中にあっても、これは盗掘です。歴史の散逸、明らかにされるべき歴史が永遠に謎のままになってしまうことも意味します。
何か華々しい成果が聞こえてくるとすぐに「ロマンですねー」とか「お幾らくらいの価値ですか?」とか言っちゃてる人たちは、自ら「敵」の手助けをしてることに気がつきましょう。
********
さて、一般人はともかく、私は専門家の動きが鈍いことのほうにイライラしています。
現在は「マトモな」考古学者が偽者に宣伝負けしているという危機的な状況のはずですが、本職の人たちからは、状況に張り合う気概がイマイチ感じられない。嘘八百流されて指咥えて見てんじゃねーですよ。ていうかそもそも、本職の人が解説してくれれば、英語堪能でもなく、こうした水中遺物について知識の足りない一般人が、苦労して情報を探す必要なかったんですけど。
クリフォード氏ら詐欺師が嘘の宣伝をしてマスコミが食いついて映画が売れる、という状況は、ひっくり返せば、興味を持っている人がそれだけ沢山いるということです。それらの人たちにこそ、「このやり方は邪道なのだ」「本当はこうなのだ」と、猛烈にアピールする必要があるんじゃないですか? 興味の入り口に立っている人に、より深い興味と知見を持って貰い、本物の「ファン」に育てれば、偽者に対抗するための強力な援軍になりうるじゃないですか。
本職の人たちは、世の中が判ってくれないとか愚痴ってるヒマがあったら、この"発見"のニュースが、いかに金儲けのために仕立て上げられたまやかしであるか、こうしたニュースにホイホイ乗っかるメディアの脳みそがどんだけ軽いか、しつこいくらい主張すべきなんですよ。よろしくお願いしますよ!!
(よし、こんだけ煽っとけば次から誰かやってくれるだろう
(ちらっちらっ