農耕→定住→神殿とか作る の流れは、栽培する作物によってプロセスが違うんじゃないかという話

学校の社会科なんかでは、人は「狩猟・採集」から「農耕」へと文明がステップアップしていった、というカンジで習うと思う。

しかしこれは今となっては古い概念であり、日本でも縄文時代に既に、狩猟採集をしながら簡単な農耕も行っていたという説が注目されはじめている。(「稲作以前」)

また、農耕=定住によって階層社会が生まれなければ神殿などの大規模な建造物をつくるようにならない。というのも最早古い概念で、アンデス地方では農耕が開始される以前から神殿を作っていたという証拠が見つかってきている。(「古代アンデス 神殿から始まる文明」)

もともと文明の発達モデルとして想定されていたのがメソポタミアやエジプトだったからなのだが、世界中には様々な地域・時代ごとに多種多様な文明が発生しており、個々の文明ごとに辿った発達の道のりは異なっている。単順な、全世界に統一された文明発展モデルは存在しない。――これが現在の最も妥当と思える解である。



その差は、文明の発展する地域の気候条件によるところが大きいが、もっと細かく見ていくと、実は食べ物の種類に影響を受けてる部分がけっこう大きいんじゃないかと思えてきた。早いか遅いかはともかくとして、どこの文明も結果的には人工的な食糧生産(農耕)を始める。その時に選ぶ食料が何であるのかということだ。

 ・栽培しやすい植物があるか
 ・栽培効率がどのくらいか
 ・栽培にどのくらいの手間がかかるか

ということ。

これを、日本でも栽培されているものでコメ・ムギ・トウモロコシ・ジャガイモの四種類に絞って考えてみる。
特に「どのくらいの手間がかかるのか」については資料があんまりなかったので、実際にこれらを栽培しているリアル農家スキル持ちの人に聞いてみた。

●コメ

めちゃくちゃ手がかかる。フルタイム農業必須。
水の管理が大変。

●ムギ

水遣り、麦踏みが大変。
今はどちらも自動で出来るが、人力でやってた時代はフルタイム農業必須。

●トウモロコシ

虫のつく時期が限られているので、その時期以外はヒマ。
ただし虫が入らないよう農薬を散布しないと収穫量が減ってしまう。

●ジャガイモ

病気に弱いのが難点だが基本は埋めっぱなしでOK


これは、「インカの末裔と暮らす」 という本に出てくる内容とも一致する。この本にはインカ時代の暮らしを今もそのまま続けている人々の生活サイクルが出てくるのだが、ジャガイモとトウモロコシを同時生産しながら、普段は高地で放牧をしている。動物は毎日世話をしないといけないが、トウモロコシやジャガイモは植えっぱなしで、種まきや収穫のときだけ一家総出で畑に向かえばそれで済むというのだ。

新大陸におけるトウモロコシやジャガイモの栽培は、放牧よりも簡単で、手間がかからない。そしてフルタイムの農業は必要ない。農耕を始めても定住する必要がない栽培植物なのだ。

これに対し、水田を必要とするコメは間違いなく定住を必要とする栽培植物で、しかもフルタイム農業が必要となる。
ムギも同様に、定住が必要かつかなり体力勝負な、人手のいる栽培植物となる。

つまり、文明発達の一段階として「農耕」とバッサリまとめられている部分は、内容次第で意味が違ってくるんじゃないかということ。収穫効率については今回考察に入れていないが、どの作物も「天候不順や疫病の流行といったアクシデントがあると全滅の可能性がある」という条件は同じ。よって、栽培ノウハウに乏しかった時期には、のちにメインとなる栽培植物に頼った農耕はあまりしていなかったと思う。


尚、リアル農耕スキルもちの人いわく、「単価は安いが手間かけずに稼ぐなら大根」「キャベツとかの巻き物は栽培に特殊スキルがいる」だそうである。なるほど、昔の日本人がコメのついでに大根作ってたのにも、理由があるということか…。



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古代エジプトの事情を考えてみた。

ムギは水をやらないと枯れてしまうが、ほとんど雨の降らないエジプトでは天水での栽培はムリ。そして、シャドゥーフと呼ばれる簡単なつるべが登場するのは中王国時代以降。本格的な水路の開発が始まるのもそのくらい。つまりピラミッド作ってた時代には、大規模な水路もなく、河辺で、人力で水運んで麦の栽培してたはずなんである。

これ結構大変なんじゃないかなぁ…。

麦ふみは牛とかにやらせてたにしても、日々の水やりはほぼ人力、相当な重労働だよねぇ。冬小麦なんで一番暑い夏の時期はもう収穫終わってるんだけど、それでも冬場は水撒かないといけないしさ。古代エジプトの農民、けっこー大変だったんじゃないんだろかと思うんだ。

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