古代エジプト人が利用した塩の情報: ピラミッドに続く塩の道

塩の本が図書館の工業コーナーにあるのはいいとして、製塩の本と一緒に塩利用の歴史の本も混じってたよ…。まあ分類としては正しいんですけど。

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<前段>

ピラミッドに続く塩の道を探して…
https://55096962.seesaa.net/article/201511article_11.html

<要約>

ガテン系のお仕事をするには塩が一杯いるんだけど、ピラミッド労働者の摂取した塩分ってどこから来てんのよ?

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というわけで古代エジプト人の利用した塩がどこから来たのかだいたい分かったぞ。

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"古代エジプト人は、肉や魚を塩で保存した最初の民族かもしれない。中国では塩漬けの魚の記録は紀元前2000年に始まる。エジプトの墓で発見された塩漬けの魚と鳥は、はるかに古い。肉を塩につけると、微生物が成長するための水が吸収される。さらに、塩自体が微生物を殺す。古代の塩化ナトリウムから発見された不純物には硝石などが含まれ、これはさらに強力な殺菌力を持つ。タンパク質は熱で溶けるが、塩も水に溶ける。したがって塩漬けには加熱調理と似た効果があるのだ。

塩漬けのプロセスに最初に気づいたのがエジプト人であるかどうかはともかく、彼らが大規模に食品を保存した最初の民族であることは確かである。"



"エジプト人は、ナイル・デルタで海水を乾燥させて塩をつくった。地中海の交易でも一部入手したかもしれない。アフリカ、とくにリビアとエチオピアから買い付けていたことは確かである。エジプト内部の砂漠にも干上がった塩湖や塩鉱があり、エジプトでは何種類もの塩が採れた。「北方の塩」と呼ばれる食卓塩や「赤い塩」が有名だが、これはメンティスの近くの湖のものと思われる。

<中略>

エジプト人は、自国語でうまく表現することはできなかったものの、重炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムに塩化ナトリウムが少量くわわってできた塩を見つけていた。塩を発見した場所は、カイロから北西65キロにある、「ワジ(アラビア語で枯れ川の意)」だ。地名がナトルンだったので、その塩にワジのエジプト語「ネトリ」という名をつけた。天然のナトリウムであるナトロンは、「白い塩」と「赤い塩」の双方に含まれるが、実際には白ナトロンはたいてい灰色で、赤ナトロンはピンクだ。古代エジプト人は、ナトロンを「神の塩」と表現した。"


ミイラ作るのに使ってたナトロン、食用にも出来るのかよっ! 塩漬け魚とミイラの原料が同じなの??! …という衝撃もありつつ、どうも塩の出所は複数ありそうだ。


国内で産出・おそらくピラミッド次代にも使えた塩

 ●ワジ・ナトルンやメンフィス付近の天然塩(ナトロン)
 ●ハルガ・オアシス近辺など、西砂漠内部の塩湖・塩沼
 ●ナイルデルタでの天日製塩

国外から輸入・ピラミッド時代に使えたか不明な塩

 ○地中海経由で輸入されてくる塩
 ○北アフリカ一帯で取引されている岩塩、海岸地域で製塩された塩
 ○エチオピアからの輸入


一箇所ではなく、複数ルートから常に塩が供給されていた、と考えるのが妥当かもしれない。
大人数のガテン系労働者が働く現場には、これらの供給源から、常に塩の道が通じていたはずだ。


それともう一つ、大事な情報があった。「草食の家畜には人間が塩を与える必要がある」「必要な塩の量は人間の5倍から10倍にも及ぶ」。
既に知られているとおり、古代エジプト人はかなり早い段階から牛を飼育していた。牛の飼育を最初に始めたのはナイル流域だという説もある。その牛は大量の塩を必要とするのだ。また運搬用の家畜として飼われていたロバも同じように塩を必要とする。

塩ピラミッド建築をはじめとする王朝期の大規模な建築に、どれほどの家畜が使われたかは不明だが、全然使われなかったということはありえないだろう。ということは、人間用だけでなく家畜用にも塩は運ばねばならなかった。エジプトは、常に大量の塩を必要としていたのだ。


既に前段で言及したとおり、人間は生命維持のために必ず塩を必要とする。食物から摂取できる場合もあるが、汗を大量にかくガテン系の仕事をするなら動植物から摂取するぶんだけでは足りなくなってしまう。人も動物も、塩のない場所では生きていけない。集落をつくる、戦争をする、墓などのモニュメントをつくる、といった仕事はすべて、生命維持に必要な塩の供給が安定していることが条件となる。塩と文明は密接に結びついているのだ。

今回引用した本は、人の歴史がいかに塩と密接に関わっていたかが書かれていてとても面白いが、その範囲は古代から近代まで及ぶ。古代中国の王朝が塩を専売とすることによって多額の収入を得ていたという話、ハンザ同盟の塩漬けニシン、フランスからの輸入塩に頼っていた時代のイギリスの苦悩etc. 

古来より為政者たちは、塩の供給に腐心してきた。塩がさほど重要なものではなくなり、文明の必須条件としての存在意義を薄れさせたのは、実に近代に入ってからのことなのだ。



おそらく、自国内で比較的容易に塩を確保できるエジプトは古代世界ではかなり恵まれた地理条件だと思う。初期から大規模な建築物を作れた理由は、そのへんにもありそうだな… とか、思ってみる次第。



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ほかに読んで面白かった本めも

塩の文明誌―人と環境をめぐる5000年 (NHKブックス)
日本放送出版協会
佐藤 洋一郎

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この本は農業と塩害の話が多かった。
インダス文明が塩害で衰退したかも説とかはなるほどって感じ。


塩の博物誌
東京書籍
ピエール ラズロ

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こっちは科学的な話が多かった。
すいません浸透率理解できないですorz

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