古代エジプトネタ映画&マンガ&小説反省会 part.2 【地理学編】
古代エジプト舞台の小説で水タバコ吸ってる人が出てきて「うわあああ!」ってなった中の人です、こんばんは。
えーとねタバコはね。タバコの葉は新大陸だからね? 古代エジプト人アメリカ行ってないからね? あと水タバコはイスラム文化だからね!!!
各作者さんの知識のなさやリサーチ不足をバカにしたいわけではないのです。
エジプトネタで作品を作るからには愛と興味があるのでしょう。が、悲しいかな、当たり前なことほど本には書いていないわけです。そして日本語の資料は往々にして不完全でバリエーションも少ないです。だから致命的なミスに気がつかないんだと思います…。
たとえば、日本についてあまり知らない外国の作家さんが書いた小説があったとします。主人公は九州に降り立ったのに、なぜか富士山の描写がある。…おい一体それは何富士だ、桜島の間違いか、それとも知らないうちに新幹線にでも乗ったのか。
わかりますよね。これ級のミスが往々にして存在するのが古代エジプト創作ワールドなんです。
どんな面白い作品でも、些細なミスが命取りになって興ざめしてしまうこともある。それと同じで、エジプトネタの多くの作品も、大きなミスを潰せれば、もうちょっと面白く出来ると思うのです。
というわけで、作者も読者もお互い幸せになるために、「ここをもうちょっとこーすれば良くなるんじゃよ」という話。
今回は【地理編】。
九州に富士山が無いように、エジプトの場合だと、新王国時代の首都周辺にピラミッドはありません。
●ピラミッドの見える町、見えない町
マンガとかでよくやっちゃう間違いが、「エジプトなんだし背景にピラミッド入れちゃえ」というもの。
しかし実際のところ、ピラミッドが見える町はごくごく限られています。ピラミッドの見える代表的な町は首都カイロ。カイロの町中からは基本どこからでもギザ台地のデカいピラミッドがばばーんと見えます。多分、「エジプト」と聞いて思い起こされる風景だと思います。
ただ、古代においてカイロ周辺に首都機能があったのは、古王国時代~中王国時代(と新王国時代の一部)だけ。
とくにピラミッド前どんぴしゃに首都があったのは古王国時代で、中王国時代の首都機能はピラミッドのたくさんある地域よりもうちょっと上流に移動してるので、見え方も異なります。
つまり町中(特に王宮とか)から大ピラミッドが見える描写は古王国時代(と一部中王国時代)しか使えません。
尚、もうちょっと細かいところ言うとピラミッドのトレンドも時代ごとに変わります。
第五王朝以降のピラミッドは、ギザのあのデカいやつと違って小型になり、ピラミッドより付随する太陽神殿のほうがメインになってきます。
時代が進むとピラミッドは全部石ではなく、内部に日干しレンガが使われるようになるので見た目はあんまりキレイじゃない。現在は崩れちゃってるようなのも多いです。↓これとか。
ピラミッド用の石をせっせと運ぶ…という描写も使える時代が限られちゃうわけですね。
新王国時代になると、首都ウアセト/テーベ(現在のルクソール)近辺には、でかいピラミッドはひとつもありません。テーベは首都からピラミッドが見えない町。
ここ大事です。
いいですか、テーベからはピラミッドは見えません。
ツタンカーメンやハトシェプストがネタのマンガなのに王宮の窓からピラミッドが見えているというのは、「京都が舞台のマンガで清水の舞台から富士山が見えてる」級の違和感だと思ってください…。
ちなみに超ザックリとした距離感はこんな感じです。
ルクソールからアブシンベル日帰りとかも無理なので(笑)、有名どころの遺跡を出すときは、まず地図を指差し確認しましょう!
●川を渡るか、渡らないか
エジプトものの作品は資料が豊富でイメージのつきやすい新王国時代が舞台のことが多いですが、新王国時代の代表的首都テーベ(現ルクソール)は、ナイル川の東側にあります。対して、王家の谷は西側にあります。間にはナイル川。徒歩でまず渡れないナイル川。
エジプトの地理には必ずナイルの流れがあることを意識して下さい。
さて、東岸にある王宮から、王女様が先祖の墓参りに行くことになったとします。彼女は輿で出発しました。到着できるでしょうか。
答えはNOです。なぜなら川を船で渡らないといけないから。
ここがポイント。
「その建物/場所は川のどっち側ですか?」…これを意識しないと、描写がおかしいことになります。ナイルの岸はナイルの削った断崖絶壁なガケがありますので、ルクソールから見た日の出は「町の背後の崖から昇ってナイル越しに反対側の崖に落ちる」となります。
ちなみにマルカタ王宮とかナイル西側にも王宮をもってる王族はいたので、西岸から出発して輿で王家の谷に行くことは可能。ただしその場合、王宮の周囲にルクソールの町並みはないし、カルナック神殿も川の反対側なので近くには見えません。
●季節による水位の変動
エジプトの町は基本川ぞいに作られているので、まずどの時代のどこの町を舞台にしていてもナイル川の描写がちゃんと無いといけないんですが、それにも増して大事なのが「ナイルの水位は季節によって変わるよ」ということ。
古代のナイル川は毎年同じ時期(盛夏)に増水します。水位は場所により最大10m近く変動することもあり、水位の最大時期には風景が一変します。エジプトネタの日本のマンガ/アニメでこの描写がまともに出てきたことはほとんど無いんじゃないかと思います。でもナイルの増水は、日本でいう「桜が咲いた」くらいの定番。
増水するとピラミッド前もこんな感じになっちゃいますね。
水位が上がる=水路に水が入る=でかい船も動かせる → 王族おでかけシーズン&お祭り。
あと畑に水が入るので農業はお休み。古代エジプトにも季節はあるんです。日本みたく「四季」ではないですが、桜が咲いたりウロコ雲が出たりするかわりにナイルの水位で季節も表せるんですよ。
あとたぶん砂嵐とかでも季節は出せると思うけど、とりあえずナイル、ナイルの増水を忘れないでください…。
毎年絶対あるし(来ないと飢饉が起きる)、お祭りになるくらいの重要イベントなので…。
参考
http://www.moonover.jp/bekkan/mania/biginner1.htm
**********
ここらへん抑えると、ナンチャッテエジプトがよりリアルな「古代エジプト」になっていくと思います!
細かいところは、研究や発掘の進捗によって説が変わることもあると思います。が、ナイルの東岸西岸とか、ピラミッドの見える見えないとか、ざっくりとした大枠はまず変わりません。基本事項です。
どうせやるならリアルを目指そうぜ、ってことで、ひとつよろしくお願いしますよ。
*********
前回のものはこちら。
古代エジプトネタ映画&マンガ&小説反省会。最低限ここはチェックしよう!
https://55096962.seesaa.net/article/201502article_18.html
えーとねタバコはね。タバコの葉は新大陸だからね? 古代エジプト人アメリカ行ってないからね? あと水タバコはイスラム文化だからね!!!
各作者さんの知識のなさやリサーチ不足をバカにしたいわけではないのです。
エジプトネタで作品を作るからには愛と興味があるのでしょう。が、悲しいかな、当たり前なことほど本には書いていないわけです。そして日本語の資料は往々にして不完全でバリエーションも少ないです。だから致命的なミスに気がつかないんだと思います…。
たとえば、日本についてあまり知らない外国の作家さんが書いた小説があったとします。主人公は九州に降り立ったのに、なぜか富士山の描写がある。…おい一体それは何富士だ、桜島の間違いか、それとも知らないうちに新幹線にでも乗ったのか。
わかりますよね。これ級のミスが往々にして存在するのが古代エジプト創作ワールドなんです。
どんな面白い作品でも、些細なミスが命取りになって興ざめしてしまうこともある。それと同じで、エジプトネタの多くの作品も、大きなミスを潰せれば、もうちょっと面白く出来ると思うのです。
というわけで、作者も読者もお互い幸せになるために、「ここをもうちょっとこーすれば良くなるんじゃよ」という話。
今回は【地理編】。
九州に富士山が無いように、エジプトの場合だと、新王国時代の首都周辺にピラミッドはありません。
●ピラミッドの見える町、見えない町
マンガとかでよくやっちゃう間違いが、「エジプトなんだし背景にピラミッド入れちゃえ」というもの。
しかし実際のところ、ピラミッドが見える町はごくごく限られています。ピラミッドの見える代表的な町は首都カイロ。カイロの町中からは基本どこからでもギザ台地のデカいピラミッドがばばーんと見えます。多分、「エジプト」と聞いて思い起こされる風景だと思います。
ただ、古代においてカイロ周辺に首都機能があったのは、古王国時代~中王国時代(と新王国時代の一部)だけ。
とくにピラミッド前どんぴしゃに首都があったのは古王国時代で、中王国時代の首都機能はピラミッドのたくさんある地域よりもうちょっと上流に移動してるので、見え方も異なります。
つまり町中(特に王宮とか)から大ピラミッドが見える描写は古王国時代(と一部中王国時代)しか使えません。
尚、もうちょっと細かいところ言うとピラミッドのトレンドも時代ごとに変わります。
第五王朝以降のピラミッドは、ギザのあのデカいやつと違って小型になり、ピラミッドより付随する太陽神殿のほうがメインになってきます。
時代が進むとピラミッドは全部石ではなく、内部に日干しレンガが使われるようになるので見た目はあんまりキレイじゃない。現在は崩れちゃってるようなのも多いです。↓これとか。
ピラミッド用の石をせっせと運ぶ…という描写も使える時代が限られちゃうわけですね。
新王国時代になると、首都ウアセト/テーベ(現在のルクソール)近辺には、でかいピラミッドはひとつもありません。テーベは首都からピラミッドが見えない町。
ここ大事です。
いいですか、テーベからはピラミッドは見えません。
ツタンカーメンやハトシェプストがネタのマンガなのに王宮の窓からピラミッドが見えているというのは、「京都が舞台のマンガで清水の舞台から富士山が見えてる」級の違和感だと思ってください…。
ちなみに超ザックリとした距離感はこんな感じです。
ルクソールからアブシンベル日帰りとかも無理なので(笑)、有名どころの遺跡を出すときは、まず地図を指差し確認しましょう!
●川を渡るか、渡らないか
エジプトものの作品は資料が豊富でイメージのつきやすい新王国時代が舞台のことが多いですが、新王国時代の代表的首都テーベ(現ルクソール)は、ナイル川の東側にあります。対して、王家の谷は西側にあります。間にはナイル川。徒歩でまず渡れないナイル川。
エジプトの地理には必ずナイルの流れがあることを意識して下さい。
さて、東岸にある王宮から、王女様が先祖の墓参りに行くことになったとします。彼女は輿で出発しました。到着できるでしょうか。
答えはNOです。なぜなら川を船で渡らないといけないから。
ここがポイント。
「その建物/場所は川のどっち側ですか?」…これを意識しないと、描写がおかしいことになります。ナイルの岸はナイルの削った断崖絶壁なガケがありますので、ルクソールから見た日の出は「町の背後の崖から昇ってナイル越しに反対側の崖に落ちる」となります。
ちなみにマルカタ王宮とかナイル西側にも王宮をもってる王族はいたので、西岸から出発して輿で王家の谷に行くことは可能。ただしその場合、王宮の周囲にルクソールの町並みはないし、カルナック神殿も川の反対側なので近くには見えません。
●季節による水位の変動
エジプトの町は基本川ぞいに作られているので、まずどの時代のどこの町を舞台にしていてもナイル川の描写がちゃんと無いといけないんですが、それにも増して大事なのが「ナイルの水位は季節によって変わるよ」ということ。
古代のナイル川は毎年同じ時期(盛夏)に増水します。水位は場所により最大10m近く変動することもあり、水位の最大時期には風景が一変します。エジプトネタの日本のマンガ/アニメでこの描写がまともに出てきたことはほとんど無いんじゃないかと思います。でもナイルの増水は、日本でいう「桜が咲いた」くらいの定番。
増水するとピラミッド前もこんな感じになっちゃいますね。
水位が上がる=水路に水が入る=でかい船も動かせる → 王族おでかけシーズン&お祭り。
あと畑に水が入るので農業はお休み。古代エジプトにも季節はあるんです。日本みたく「四季」ではないですが、桜が咲いたりウロコ雲が出たりするかわりにナイルの水位で季節も表せるんですよ。
あとたぶん砂嵐とかでも季節は出せると思うけど、とりあえずナイル、ナイルの増水を忘れないでください…。
毎年絶対あるし(来ないと飢饉が起きる)、お祭りになるくらいの重要イベントなので…。
参考
http://www.moonover.jp/bekkan/mania/biginner1.htm
**********
ここらへん抑えると、ナンチャッテエジプトがよりリアルな「古代エジプト」になっていくと思います!
細かいところは、研究や発掘の進捗によって説が変わることもあると思います。が、ナイルの東岸西岸とか、ピラミッドの見える見えないとか、ざっくりとした大枠はまず変わりません。基本事項です。
どうせやるならリアルを目指そうぜ、ってことで、ひとつよろしくお願いしますよ。
*********
前回のものはこちら。
古代エジプトネタ映画&マンガ&小説反省会。最低限ここはチェックしよう!
https://55096962.seesaa.net/article/201502article_18.html




