ハンムラビ法典「農作物全滅したらローン返済せんでええで」…なお(
ハンムラビ法典の中にローン返済についての記述がもりもり書かれてる部分があることに気が付き、その中に「嵐や洪水で収穫前の大麦が流されたら、その年は返済せんでええで」という記載があったので、あれ? バビロニアって農業カレンダーどうなってるんやっけ? みたいな感じになって、ちょっとカレンダー書いてみた。
★ハンムラビ法典の中でローンに関係する部分の例
ここの後にもローン返済に関する記述がたくさん続く。たくさん書かれているということは、それだけ貸し借りの揉め事が多かったんだろうな…と思う。ちなみに利息はとても高い(´・ω・`)
麦で30パーセント、銀で20パーセントの利息!
返済に使われているのは主に大麦と銀だが、どちらも無いときは手元にあるものを何であれ時価で返すように、となっている。高い利息に最後は体でお支払い…現代の闇金と同じですかね…。
さて最初に戻り、「アダド(嵐)が彼の耕地を水浸しにしたか、洪水が耕地(の作物)を流してしまったか、あるいは水不足で大麦が大地に実らなかったなら」という部分である。
以前の記事で書いたように、メソポタミアは有史以来、何度も大洪水に見舞われてきた地だ。
エジプトのナイル川はゆったり流れていて長さも長いので、上流で雨が降っても下流が災害に見舞われるほどの洪水は起きない。また増水シーズンはちょうど麦の収穫期が終わったあとなので主食が全滅するようなことはなかった。
ところがメソポタミアでは、長さが短く、傾斜も急なティグリス川という暴れ川の側にある。
上流に降る雨の具合によっては、バグダットあたりから以降の町は洪水に見舞われるおそれがあった。
…しかしそれでも、麦の収穫シーズンと川の増水シーズンがずれていれば、傷はまだ浅い。
浅いのだが… ここで作成したカレンダーを見てみよう… どん。
主食の大麦の収穫シーズンと川の増水シーズンが丸被りだった。
これはあかんww
たとえるなら米の収穫シーズンに台風来て農民一揆が起きる信長の野望in九州領地!
「「アダド(嵐)が彼の耕地を水浸しにしたか、洪水が耕地(の作物)を流してしまったか」…わかる、わかるぞ古代の為政者の気持ちがめっちゃ分かる。ここで「それでもローン返済しろや」って言ったら民忠下がって人口減るんですよね!
そしてこのカレンダーからは、もう一つ重要なことが分かる。
エジプトでは収穫が終わったあと増水が始まるので休耕中の畑を十分に水に浸して塩分抜きが出来たのだが、メソポタミアでは休耕シーズンに水位が最低になってしまうので、休耕中の畑を灌漑するには溜池を作るしかないということだ。結果を見るに、それでも十分な塩分抜きが出来なかったはずだ。
農耕地が塩害化するメカニズムは以前の記事に書いたとおりだが、メソポタミア(そしてエジプトもだが)における灌漑は、以下のようなプロセスのために行われる。
・古代に海だった場所なので地下には塩分がある
・農地にすると地中の水分が蒸発するので塩分が地表に上がってくる
・地表の塩分濃度が上がると作物が育たなくなる
・なので休耕中は水に浸して塩分を地下に押し下げる必要がある
…しかし、南メソポタミアの麦の収穫量は年代が進むにつれどんどん減っていき、塩分に弱い小麦は早々に作れなくなってしまう。バビロニアの時代に大麦が主用作物になっていたのは、大麦のほうが小麦より塩害に強かったからというのもある。
溜池に溜めた僅かな水での灌漑では、十分に塩分を下げることが出来なかったのだ。
エジプトでは、川の増水サイクルと麦の作付けサイクルが一致していたので、塩害による収穫効率の低下はなく、収穫前の作物のロスもなく、栽培効率が良かった。
メソポタミアでは、川の増水サイクルと麦の作付けサイクルがずれていたため、塩害により収穫効率は下がっていき、収穫前の作物のロスがおきることがあり、栽培効率が悪かった。
ハンムラビ法典の中の記載の背景には、こうした気候条件の差異があるということが分かる。
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参考までに、古代エジプトの農業カレンダー。
https://55096962.seesaa.net/article/201602article_11.html
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ちなみにハンムラビ法典は、法典という名前で呼ばれるけど実際は「判例集」。
「もし人が~の場合は、xxする」という定型文が続く。
目には目を、で知られるが、実際は当時の階級社会を反映しており、上級市民同士は対等に償わされるものの、上級市民が下級市民や奴隷を害した場合は目を潰しても大した罰は受けない。
関連エントリ
https://55096962.seesaa.net/article/200903article_19.html
★ハンムラビ法典の中でローンに関係する部分の例
もし人がフブッルム・ローンを負っていて、アダド(嵐)が彼の耕地を水浸しにしたか、洪水が耕地(の作物)を流してしまったか、あるいは水不足で大麦が大地に実らなかったなら、彼は、その年は、彼の債務者に大麦を返済しなくてもよく、彼の文書(債務証書)を(一部変更のため)水で湿らすことができる。彼はまたその年の利息を与えなくてよい。(§48)
ここの後にもローン返済に関する記述がたくさん続く。たくさん書かれているということは、それだけ貸し借りの揉め事が多かったんだろうな…と思う。ちなみに利息はとても高い(´・ω・`)
もし商人が大麦(?)をフブッルム・ローンとして与えたなら、彼は1クル(約300リットル)につき大麦1パーン4スート(約100リットル=33%)を利息としてとることができる。もし銀をフブッルム・ローンとして与えたなら、銀1シキル(約8.33グラム)につき6分の1トキルと6粒(約1.94グラム=20%)の利息を取ることができる。
麦で30パーセント、銀で20パーセントの利息!
返済に使われているのは主に大麦と銀だが、どちらも無いときは手元にあるものを何であれ時価で返すように、となっている。高い利息に最後は体でお支払い…現代の闇金と同じですかね…。
さて最初に戻り、「アダド(嵐)が彼の耕地を水浸しにしたか、洪水が耕地(の作物)を流してしまったか、あるいは水不足で大麦が大地に実らなかったなら」という部分である。
以前の記事で書いたように、メソポタミアは有史以来、何度も大洪水に見舞われてきた地だ。
エジプトのナイル川はゆったり流れていて長さも長いので、上流で雨が降っても下流が災害に見舞われるほどの洪水は起きない。また増水シーズンはちょうど麦の収穫期が終わったあとなので主食が全滅するようなことはなかった。
ところがメソポタミアでは、長さが短く、傾斜も急なティグリス川という暴れ川の側にある。
上流に降る雨の具合によっては、バグダットあたりから以降の町は洪水に見舞われるおそれがあった。
…しかしそれでも、麦の収穫シーズンと川の増水シーズンがずれていれば、傷はまだ浅い。
浅いのだが… ここで作成したカレンダーを見てみよう… どん。
主食の大麦の収穫シーズンと川の増水シーズンが丸被りだった。
これはあかんww
たとえるなら米の収穫シーズンに台風来て農民一揆が起きる信長の野望in九州領地!
「「アダド(嵐)が彼の耕地を水浸しにしたか、洪水が耕地(の作物)を流してしまったか」…わかる、わかるぞ古代の為政者の気持ちがめっちゃ分かる。ここで「それでもローン返済しろや」って言ったら民忠下がって人口減るんですよね!
そしてこのカレンダーからは、もう一つ重要なことが分かる。
エジプトでは収穫が終わったあと増水が始まるので休耕中の畑を十分に水に浸して塩分抜きが出来たのだが、メソポタミアでは休耕シーズンに水位が最低になってしまうので、休耕中の畑を灌漑するには溜池を作るしかないということだ。結果を見るに、それでも十分な塩分抜きが出来なかったはずだ。
農耕地が塩害化するメカニズムは以前の記事に書いたとおりだが、メソポタミア(そしてエジプトもだが)における灌漑は、以下のようなプロセスのために行われる。
・古代に海だった場所なので地下には塩分がある
・農地にすると地中の水分が蒸発するので塩分が地表に上がってくる
・地表の塩分濃度が上がると作物が育たなくなる
・なので休耕中は水に浸して塩分を地下に押し下げる必要がある
…しかし、南メソポタミアの麦の収穫量は年代が進むにつれどんどん減っていき、塩分に弱い小麦は早々に作れなくなってしまう。バビロニアの時代に大麦が主用作物になっていたのは、大麦のほうが小麦より塩害に強かったからというのもある。
溜池に溜めた僅かな水での灌漑では、十分に塩分を下げることが出来なかったのだ。
エジプトでは、川の増水サイクルと麦の作付けサイクルが一致していたので、塩害による収穫効率の低下はなく、収穫前の作物のロスもなく、栽培効率が良かった。
メソポタミアでは、川の増水サイクルと麦の作付けサイクルがずれていたため、塩害により収穫効率は下がっていき、収穫前の作物のロスがおきることがあり、栽培効率が悪かった。
ハンムラビ法典の中の記載の背景には、こうした気候条件の差異があるということが分かる。
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参考までに、古代エジプトの農業カレンダー。
https://55096962.seesaa.net/article/201602article_11.html
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ちなみにハンムラビ法典は、法典という名前で呼ばれるけど実際は「判例集」。
「もし人が~の場合は、xxする」という定型文が続く。
目には目を、で知られるが、実際は当時の階級社会を反映しており、上級市民同士は対等に償わされるものの、上級市民が下級市民や奴隷を害した場合は目を潰しても大した罰は受けない。
関連エントリ
https://55096962.seesaa.net/article/200903article_19.html