いつか消え行くナイルの挽歌 ― エジプトに行ったら見て欲しいものはナイル川。

もしもエジプトに行く機会があったら、遺跡でも博物館でもなく、ナイルを見て欲しいのです…。
遺跡はあと百年くらいは余裕で残ると思いますが、このままいくと、

 ナイル川は、百年後には
 見る影も無くなっているかもしれない。


冗談じゃなくて、これガチな話。
どういうことかというと、ナイル上流に巨大ダムが次々と建設されており、さらに新規の建設計画も出ているんです。



●ナイルの水源

アマゾン川に次ぐ長さを持つナイル川の水源は、エジプトからずーーっとずーーーーっと南の、エチオピアとかケニア&タンザニアとかのあたり。

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二本の川がスーダンのハルツーム付近で合流して一本のナイル川となり地中海に注ぎます。
しかしこの川には、最近完成した巨大なメロウェ・ダムを含む、多数のダムが存在します。

参考:
http://www.ess-jpn.co.jp/Column/Sudan/2-1.html

 ※お察しのとおり中国資本ですが。。 中国さんは今、アフリカでかなりのインフラ投資をしてますよね


●新たなるダム建設計画

近年モメたのが、エチオピアで建設計画の進むルネッサンス・ダムという巨大ダムです。
名前がなんかアレなカンジなのはイタリアの会社が設計したから。イタリア人もたまにセンスがいまいちな時はある。

エジプトよりナイル上流なのがスーダン、スーダンより上流なのがエチオピア。
このダムが出来ると、エジプトとスーダンは分け前の水が少なくなってしまうので、ダム建設に反対して圧力をかけてました。最近になっていちおう合意はしたみたいですが、こんな合意は水が不足すれば簡単に反故になるだろうことは人の性として容易に想像がつきます。ぶっちゃけエジプトさんはいつか水が原因で戦争になると思うよ…。

参考:
http://suigenren.jp/news/2015/03/07/7039/


ちなみにメロウェ・ダムも、このルネッサンス・ダムも、青ナイル側の話です。
白ナイルは、ゆったり湿原を流れてる間に水分がかなり蒸発してしまうので、エジプトに注ぎ込むナイル川の水量にはあまり関係してません。青ナイルの水量が8割を越えますので、こちら側にダムを作られるとエジプトさんとしてはかなりガチに死活問題なのです。

エジプトは雨が降りません。
地下水はありますが、都市部から遠いのと、太古に溜まったボーナスを使い込んでいる状態なので、いずれ枯渇するでしょう。


ということは…


  川の水が無くなる = 飲み水も工業用水もなくなる = 人が住めなくなる


ナイルの育んだ文明の地は、ナイルと運命を共にするかもしれません。


●実際、ナイルが干上がることはありえるのか

干上がるまでいく可能性はあまり高くないですが、水量の減少によって生活に影響は確実に出ます。
既にナイル中流のルクソール付近では、時期により取水制限が行われています。アスワン・ハイ・ダムの水が減ると発電量が減るわけですが、それ以前に飲み水や農業用水が足りないレベルまで来てます。

ナイル上流の国々にとって、ダム建設は、工業の発展に必要な発電を兼ねた必要不可欠な施設となります。大規模な内戦が発生するとかでもない限り、建設が止まることはまず無いと思われます。むしろ、今ある以上のダム建設計画が出てくると思います。


従って、将来―― というより近い未来、 エジプトを流れるナイル川は今よりも確実に痩せ細る ことになります。

エジプトに行ったらナイルを見て欲しいのはそのため。
滔滔と流れるナイル川を見て、ナイルクルーズで古代の感傷に浸れる今だけかもしれません。



ちなみにナイルを見るならアスワンがオススメです。アスワン。
エジプトにおけるナイル最上流。カイロまで下ると水が汚れてるし周囲の風景もゴミゴミしててイマイチ。アスワンあたりだと、水がまだそこまで汚れてなくて、砂漠が川岸まで迫ってる風景が楽しめるのですよ。

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いつか消え行く 母なるナイルの姿。

雨がガンガン降り、山から絶えず真水が垂れ流され、ダムの水が減っても台風で一発回復する日本は、「水資源に困らない」という、世界的に見てめちゃくちゃ恵まれてる環境にあるんですよ実は…。
真水って石油以上に偏在する富なんですよ…。

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