死海文書の眠る12番目の洞窟が見つかったよ、というニュースが判りづらかったので補足する

こないだ流れていたこのニュース。

死海文書が眠る洞窟、新たに発見 60年ぶり
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170209-35096337-cnn-int

画像


日本語が妙にたどたどしくて、多分これ「わーい! あたらしい どうくつがみつかったよ! きみは発掘のとくいなフレンズなんだね! すごーい!」的な感じで訳されたものだと思うので、補足して判り易くしておこうかと思う…。

まずは「死海文書って何ぞや」というところから。


-----------------------------
<<死海文書とは>>

狭義の意味では、死海のほとりクムラン地方で見つかった、旧約聖書の内容を記した文書集のこと。現存する最古の旧約聖書である。時代としては、前3世紀から、クムラン地方がローマ軍に支配されるようになる後68年までの間と見られている。つまり逆に言えば、それ以前の聖書の内容は物証として残っていないことになる。文書数は800点を越えるが、旧約聖書の写しとして完全に残っているのはイザヤ書のみ。それ以外は断片。

発見は1947年~1956年。11の洞窟で見つかっていた。ニュースにある「60年ぶり」は、最後の洞窟が見つかった1956年から換算しての年月。巻物のイメージが強いが、筆記に使われたものは羊皮紙、獣皮紙、パピルス、銅板など様々で、巻物とは限らない。また言語のヘブライ語だけではなくアラム語、ギリシア語のものもある。

広義の意味では、同時代のほかの地域から見つかった類似の文書も含む。ほかの地域とは、例えばマサダ、ワディ・ムラッバト、ナハル・ヘヴェル、ナハル・ツァリームなどである。


場所はココ。

画像


クムランはヨルダン西地区、つまりガザと同じパレスチナ自治区である。要するに、本当はパレスチナ人の土地なのだが、現在はイスラエルが"実効支配"しており、居住するユダヤ人の人数も年々増えている。そして、旧約聖書に絡む発見をすることによってかつて自分たちの土地であった証明とし、自分たちの国に取り込むことを正当化しようとしている。「いやそれ何千年前の話だよ…根拠になるわけねぇだろ…」と思うだろうが、イエラエルの考古学はそういう政治的な側面を持っていることも頭の片隅に置いておくと、考古学の発見ニュースを違った目で見られるようになるかもしれない。

-----------------------------

で、今回流れたニュースの前に、去年、こんなニュースがあった。
ちょろっと年末にブログ記事でも書いたのだが…

25 New 'Dead Sea Scrolls' Revealed
http://www.livescience.com/56428-25-new-dead-sea-scrolls-revealed.html

およそ2000年前の、ヘブライ語で書かれた「死海文書」の断片が新たに見つかった、というニュースだ。この断片の中には、クムランでは見つかっていなかったネヘミア書の断片も入っており、死海文書としては初めてその部分を確認している。ただし、これらは発掘調査で見つかったものではない。闇市に流れていたものの一部がピックアップされただけなのだ。記事中に以下の記述がある。

" These 25 newly published fragments are just the tip of the iceberg. A scholar told Live Science that around 70 newly discovered fragments have appeared on the antiquities market since 2002. "


2002年以降に多くの死海文書の断片が市場に出回っている、これは氷山の一角である。とある学者が語ったという。

で、「盗掘が横行しているから他に未発見の洞窟がないか、早めに確認しましょう」と、実効支配しているイスラエルが決断し、外国からも学者を雇ってきて調査して見つかったのが、今回の「12番目の洞窟」と言われているもの…なのだろうと推測される。
(直接的には書かれていないが、共同調査にエルサレム大学が入っているのでおそらくそうだろう)


ちなみに今回の洞窟もそうだが、今までの11の洞窟は、全てから文書が出てきているわけではないようだ。既存の洞窟のうち8番目からは文書は出てきていない。巻物を入れていた壷のみだ。ただし、元はあったのに、既に盗掘に遭って中身が闇市に流れてしまったために発見されていない可能性も高く、今回の洞窟もそう考えられている。

写真などは、CNNの元記事にある。
http://edition.cnn.com/2017/02/08/world/new-dead-sea-scrolls-cave-discovered/

写真の中ほどになんか石槍みたいなのが写っているが、これは新石器時代のもの。ユダヤ教徒が洞窟を利用する以前に、ここに住んでいた人々が使っていた忘れ物だ。

今回は残念ながら盗掘済み(多分)の洞窟だったが、探せば他に未発見の文書が隠された洞窟があるかもしれない。そのため、更なる発見が期待できる(期待してね!)というのが、このニュースが流された主旨であろう。聖書というジャンルは欧米では一定の人気があるため、これで支援や問い合わせも殺到して、発表した側は嬉しい悲鳴を上げているんじゃないかなぁ…。



ただ、その地域が本来は"自治区"だったはずの場所、ガザと同じ係争地域、っていうのがあるので、私はとても、「ロマンですね」とか「ワクワクしますね」とかいう能天気っぽい表現は出来ない。

この記事へのトラックバック