アイスランドの地理条件/火山の国、溶岩の島
アイスランドに行ってきた。
人の移住した歴史は浅いので、特に遺跡とかはない。そして北国なので植生が貧弱ということも聞いていた。
ただまあ、神話とか歴史とかをさも知った顔で書いてるくせに現地を知らないというのは微妙にすわりが悪いので、ま、一回はいっとこうかな…的な軽い気持ちで出かけていった。
そして思っていたより苛酷な大地であることを知った
そもそもアイスランドというのは、火山が作り出した島である。以前行ったイースター島と一緒で、地面に普通の土がない。
地面is溶岩。
なんの変哲もない道の側の地面が、↓こんなんです…マジで。
これ「大地の裂け目」とかの観光地じゃなくて、そのへんのふつーの道路沿いでこれですからね?
地面が割れてますからね? 落ちてるのがデカい溶岩の塊か、多少砕けた溶岩かの違いだけ。
バスの窓から見えた、家を建てようとして整地してるスペースもこんなんです。
「つ、土じゃねぇ…下の方まで火山灰しかねぇ…! こんなところで畑作れねえええ」って愕然としましたとも、ええ。
もしかしたら普通の土も元々は少しくらいあったのかもしれないが、千年ちょっと前に移住者が大挙して押し寄せたとき、牧場や家を作るために森を伐採しまくった時にみんな風で失われてしまった。
暖流のお陰で緯度のわりに暖かい、とは言われるものの、それは「緯度のわりに」という部分を強調して言わねばならない。寒いものは寒いのだ。夏は短く、冬の日照時間は限りなく短い。そして雨はあまり降らず、乾燥して常に風が強い。
アイスランドの陸地のうち、居住可能なのは全体の30パーセント弱とも言われ、大半が居住不可能となっている。
その理由は、↓このへんの写真でお分かりいただけるかと思う…
平らなとこ以外は、ふきっさらしの険しい山しかない。
理由は簡単で、平らなところはかつて島に雪と氷がのっかってたとき、その重みで海の底に沈んでいた場所なのだ。で、氷河期終わって雪や氷が溶けると同時に島が多少浮かび上がって、険しい溶岩の塊の周囲にちょびっとだけ平らなところがくっついた、と。だから今、人が住んでいる場所は島の外周の部分だけだし、そこはかつて海の底だった場所なのだ。
「大地が火山で出来ている」、このことを実感させてくれるスポットが南海岸にいくつかある。
たとえばこの氷河、ミールダルスヨークトル。氷河なんだけど火山灰がガッツリ混じってて黒い。
これは「氷河といえば青くてきれいなもの」と思っている人には衝撃的な光景かもしれない。
いちおう青い部分もある。が、全体的に、氷にまぜこんだように火山灰が入り込んでいてとにかく黒い。黒は熱を吸収するはずなのに、それでも氷河が溶けていないあたりにこの島の寒さも感じられると思う。
当然ながら氷河の先端部分には溶け出して残った火山灰がもっさり積みあがっており、水は黒く濁っている。
※パタゴニアの青すぎる氷河と比べると違いがよく判る
溶け方も特徴的。あと周囲に全く木がない。
緑色のものは、草でさえなく 苔 である。アイスランドの写真の背景にある緑色のものは、ほぼ全て苔。草花は、6月から8月の短い夏にしか目覚めないのだという…。5月頭には、まだ木々の芽も固く引き締まって残雪が多い。北海道より寒いくらいだ。観光客が夏に集中する理由を思い知った。
そしてもう一つが海。
有名な観光名所ブラック・サンド・ビーチだが、ブラック・サンドというのはぶっちゃけ、砕けた溶岩のことである。当然…砂浜は…黒いですよね…。
ここは実に見事な柱状節理(ちゅうじょうせつり)が見られることでも知られている。地質学やってる人にとっては垂涎ものの地形である。が、柱状節理とは要するに冷えたマグマなので、ここが溶岩によって出来た土地であることの証明にほかならない。
黒い浜。お察しのとおり波も真っ黒である。
しかもここは地形が複雑で波が荒く、海の難所であるという。海鳥はたくさんいるものの、魚釣りには適さない。どこまでも過酷な島なのだ。
もちろん、美しい風景も沢山ある。
虹の滝セリャランスフォスなどはその最たるものだ。しかし、その滝もまた溶岩の塊の上を流れ落ちる冷たい雪解けの水で、振り返れば木の一本もない苔だけの生えた大地が広がっている。
アイスランドは、日本とはあまりにも違いすぎる場所だった。
木も草もない。同じ火山と地震の国でありながら、日本のように「火山がとなりにある」のではなく「火山の上に住んでいる」。苛酷過ぎる長い冬と、短く華やかな恵みの夏。
もしも自分が住めと言われたら、かなり迷うと思う。この島に敢えて住もうと思った人々、ここを永遠の故郷とした最初の人々は、一体何を思っていたのだろうか。
…アイスランド・サガの一つ「グレティルのサガ」には、島を追放されることになった主人公グレティルが去り際に故郷を振り返り、その美しさから足を止めてしまうシーンがある。
無骨な主人公が島を「美しい」と言う。彼の見た光景は、場所は、一体どこだったのだろう。
*****
今回の旅で思ったんだけど、アイスランドってガチで木がないからノルウェーから木材輸入しないとヴァイキング船すら作れなかったよねこれ。ヴァイキング時代が終了した理由の一つがそれなんじゃないのかな。輸入しないと外出られないもん。
毎度言ってるけど、当たり前のことほど本には書いていない。
実際に行かないと分からないことも多い。行けばすぐに判ることほど誰もとりたてて語ろうとはしない。インターネット上に落ちている情報だけでは、判ったことにならないのだ。
というわけで皆、旅に出よう。旅はいいぞ。
人の移住した歴史は浅いので、特に遺跡とかはない。そして北国なので植生が貧弱ということも聞いていた。
ただまあ、神話とか歴史とかをさも知った顔で書いてるくせに現地を知らないというのは微妙にすわりが悪いので、ま、一回はいっとこうかな…的な軽い気持ちで出かけていった。
そして思っていたより苛酷な大地であることを知った
そもそもアイスランドというのは、火山が作り出した島である。以前行ったイースター島と一緒で、地面に普通の土がない。
地面is溶岩。
なんの変哲もない道の側の地面が、↓こんなんです…マジで。
これ「大地の裂け目」とかの観光地じゃなくて、そのへんのふつーの道路沿いでこれですからね?
地面が割れてますからね? 落ちてるのがデカい溶岩の塊か、多少砕けた溶岩かの違いだけ。
バスの窓から見えた、家を建てようとして整地してるスペースもこんなんです。
「つ、土じゃねぇ…下の方まで火山灰しかねぇ…! こんなところで畑作れねえええ」って愕然としましたとも、ええ。
もしかしたら普通の土も元々は少しくらいあったのかもしれないが、千年ちょっと前に移住者が大挙して押し寄せたとき、牧場や家を作るために森を伐採しまくった時にみんな風で失われてしまった。
暖流のお陰で緯度のわりに暖かい、とは言われるものの、それは「緯度のわりに」という部分を強調して言わねばならない。寒いものは寒いのだ。夏は短く、冬の日照時間は限りなく短い。そして雨はあまり降らず、乾燥して常に風が強い。
アイスランドの陸地のうち、居住可能なのは全体の30パーセント弱とも言われ、大半が居住不可能となっている。
その理由は、↓このへんの写真でお分かりいただけるかと思う…
平らなとこ以外は、ふきっさらしの険しい山しかない。
理由は簡単で、平らなところはかつて島に雪と氷がのっかってたとき、その重みで海の底に沈んでいた場所なのだ。で、氷河期終わって雪や氷が溶けると同時に島が多少浮かび上がって、険しい溶岩の塊の周囲にちょびっとだけ平らなところがくっついた、と。だから今、人が住んでいる場所は島の外周の部分だけだし、そこはかつて海の底だった場所なのだ。
「大地が火山で出来ている」、このことを実感させてくれるスポットが南海岸にいくつかある。
たとえばこの氷河、ミールダルスヨークトル。氷河なんだけど火山灰がガッツリ混じってて黒い。
これは「氷河といえば青くてきれいなもの」と思っている人には衝撃的な光景かもしれない。
いちおう青い部分もある。が、全体的に、氷にまぜこんだように火山灰が入り込んでいてとにかく黒い。黒は熱を吸収するはずなのに、それでも氷河が溶けていないあたりにこの島の寒さも感じられると思う。
当然ながら氷河の先端部分には溶け出して残った火山灰がもっさり積みあがっており、水は黒く濁っている。
※パタゴニアの青すぎる氷河と比べると違いがよく判る
溶け方も特徴的。あと周囲に全く木がない。
緑色のものは、草でさえなく 苔 である。アイスランドの写真の背景にある緑色のものは、ほぼ全て苔。草花は、6月から8月の短い夏にしか目覚めないのだという…。5月頭には、まだ木々の芽も固く引き締まって残雪が多い。北海道より寒いくらいだ。観光客が夏に集中する理由を思い知った。
そしてもう一つが海。
有名な観光名所ブラック・サンド・ビーチだが、ブラック・サンドというのはぶっちゃけ、砕けた溶岩のことである。当然…砂浜は…黒いですよね…。
ここは実に見事な柱状節理(ちゅうじょうせつり)が見られることでも知られている。地質学やってる人にとっては垂涎ものの地形である。が、柱状節理とは要するに冷えたマグマなので、ここが溶岩によって出来た土地であることの証明にほかならない。
黒い浜。お察しのとおり波も真っ黒である。
しかもここは地形が複雑で波が荒く、海の難所であるという。海鳥はたくさんいるものの、魚釣りには適さない。どこまでも過酷な島なのだ。
もちろん、美しい風景も沢山ある。
虹の滝セリャランスフォスなどはその最たるものだ。しかし、その滝もまた溶岩の塊の上を流れ落ちる冷たい雪解けの水で、振り返れば木の一本もない苔だけの生えた大地が広がっている。
アイスランドは、日本とはあまりにも違いすぎる場所だった。
木も草もない。同じ火山と地震の国でありながら、日本のように「火山がとなりにある」のではなく「火山の上に住んでいる」。苛酷過ぎる長い冬と、短く華やかな恵みの夏。
もしも自分が住めと言われたら、かなり迷うと思う。この島に敢えて住もうと思った人々、ここを永遠の故郷とした最初の人々は、一体何を思っていたのだろうか。
…アイスランド・サガの一つ「グレティルのサガ」には、島を追放されることになった主人公グレティルが去り際に故郷を振り返り、その美しさから足を止めてしまうシーンがある。
無骨な主人公が島を「美しい」と言う。彼の見た光景は、場所は、一体どこだったのだろう。
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今回の旅で思ったんだけど、アイスランドってガチで木がないからノルウェーから木材輸入しないとヴァイキング船すら作れなかったよねこれ。ヴァイキング時代が終了した理由の一つがそれなんじゃないのかな。輸入しないと外出られないもん。
毎度言ってるけど、当たり前のことほど本には書いていない。
実際に行かないと分からないことも多い。行けばすぐに判ることほど誰もとりたてて語ろうとはしない。インターネット上に落ちている情報だけでは、判ったことにならないのだ。
というわけで皆、旅に出よう。旅はいいぞ。