オーストラリア先住民の祖先は5万年前の移住者のみ? アボリジニは5万年住み続けていた可能性
人類の誕生と世界への拡散、という部分は、研究によって年々書き換えられている学問領域の一つだ。多くの人が興味を持ち、活発に研究されているジャンルはどれもそうだが、数十年もすれば、かつての常識は古いものとなる。そのジャンルの専門の学者でもなければ、大雑把に概要だけ掴んでおいて、細かいところはその時々の最新の説をテケトーな感じで追いかけるくらいで吉である。そうじゃなきゃとてもジャンルのスピードに追いつけない。
参考までに、現在のところ有力となっている人類の進化の大きなタイムテーブルは以下のような感じである。
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①250万年前 ホモ族と類人猿が分離
<ここらへんで「ホモ・xxx」族が色々誕生>
②20万年前 現生人類の直接祖先、ホモ・サピエンス誕生
③10万年くらい前 現在アフリカ以外に住んでいる人類の祖先が出アフリカ成功
④6万年~5万年くらい前 オーストラリア到達
------
これらの説に異議を唱える研究もあったり、今後これらの大筋のストーリーが変更される可能性もあったりするわけだが、「とりあえず今んとここういう感じ」で押さえておけば、色々判り易くなる。
で、今回は「オーストラリアっていつから人住んでんのよ?」という話。
オーストラリアにはじめて人が渡ったのは最大まで遡って6万年くらい前じゃないかと言われているが、その証拠が挙がってくるようになったのは実は最近の話である。そして実に興味深いことに、「今いる先住民は渡って来た当時の人々の直接子孫」という結果も出てきている。
たとえばこちら、南オーストラリア(※)に住んでいるアボリジニの毛髪のDNAから、彼らが5万年前からオーストラリアで暮らしていた証拠が出たという記事。
(※全アボリジニが分析されているわけではなさそう)
Aboriginal hair shows 50,000 year connection to Australia
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2017/03/aboriginal-hair-shows-50000-year.html
1928年から1970年にかけて収集されていた111の毛髪サンプルからミトコンドリアDNAを解析したところ、南オーストラリアのアボリジニたちは全員5万年くらい前にオーストラリアに到達していた同一祖先を持っており、人口の増加とともに東周りと西周りで拡散してきた人々が合流したもの、と考えられるという。
つまり、いまオーストラリアに住んでいる先住民(アボリジニ)は、少なくとも南部の人々については5万年前に渡った最初の人類の直接子孫で、5万年もの間ずーっとオーストラリアに住み続けていたということになる。
これは日本への人の移住のケースと比べてみると興味深い。
日本の場合は、北からも南からも、西の大陸からも渡ってこられるそれほとせ難易度の高くない土地だったため、ヒトの移住ルートは複数想定されており、移住の時代もばらばらだ。「日本人の祖先」というとき、その「祖先」の素性は一つの集団ではなく、様々な系等が入り乱れた複雑なものとなる。しかも最大限頑張っても、せいぜい3万年(安全な説を採ると2万年)くらい前からしかヒトが住んでいない。
それに対してオーストラリア先住民は、一時期のひとつの集団が祖先になるというのだから、とても単純な構造だし、集団内の遺伝的な差異は少ないことになる。
5万年くらい前のオーストラリアはニューギニアと陸続きだが、海水面が上がると渡海が困難になるという。そのため、人類の歴史を振り返っても、オーストラリアに渡れるチャンスはあまり多くない。だからこういう結果になるのだろう。
もう一つ興味深いのが、つい最近でてきていた、オーストラリアの西にあるバロー島で5万年前の居住跡が見つかったという記事。
Human occupation of Australia pushed back to around 50,000 years ago
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2017/05/human-occupation-of-australia-pushed.html
バロー島の位置はココ
島からは貝殻など海産物利用の痕跡が見つかっており、オーストラリアの最初の住人たちが海産物を利用して居住地を広げていたことが判るという。日本に来た人たちもそうだが、内陸でエモノを追うより海に沿って海産物を採りながら移住するほうが人間にとっては楽だったのかもしれない。
ヨーロッパへの人の拡散は、多くの場合狩猟とともに語られる。しかしアジア方向への人の移住では、海との関わりを避けることは出来ない。海水面の変動により、かつての海岸線の多くは海の底となっていて調査が困難だ。だがきっと、今は海に隠れてしまっているかつての「人類の移住路」の軌跡には知られざる人類の歴史ドラマがまだ沢山眠っていると思う。いつか、それらが明らかにされる日がくるといいなと思う。
****
「5万年も住んでたのに最近きた新参の白人に追い払われたアボリジニ可愛そう」みたいな反応も合ったりなかったりなんですが、そこらへんは(´・ω・`) 南北アメリカなんかもそうですが、ヨーロッパ人の移住・侵略もまた、"人類の拡散"という歴史の中の最近の1ページなので…。
*****
<追記分>
この記事について、「オーストラリアの野生犬ディンゴはアボリジニが連れて移住してきた説はどうなってんの?」というコメントがあったので調べてみた。
現在の研究では:
オーストラリアの野生犬ディンゴ 遺伝子解析からは、4,200年前に登場したと考えられる。またオーストラリアの最古のディンゴの骨はおよそ3,300年前のものが見つかっているため、時期も大体一致している。
→人がつれて移住してきたと思われるが、アボリジニが5万年前からオーストラリアに住んでいたことは、考古学的にも遺伝子的にも証拠が多数あり間違いない。
→「アボリジニとともに移住してきた」説は既に否定されている。後から追加で移住者が来てたのか、立ち寄っただけで定住しなかった人々が連れてきたのか、そのへんはもうちょっと調べてみないと分からないが。
というわけで、わりとよくあるケースだけどたぶん 日本語ウィキペディア間違ってる ってこと。機会があったらもうちょっと詳しく調べてみようと思う。
[>参考 最近出た犬の起源についての研究
犬の起源はニ系統?(※現時点での暫定結果)
https://55096962.seesaa.net/article/201606article_7.html
参考までに、現在のところ有力となっている人類の進化の大きなタイムテーブルは以下のような感じである。
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①250万年前 ホモ族と類人猿が分離
<ここらへんで「ホモ・xxx」族が色々誕生>
②20万年前 現生人類の直接祖先、ホモ・サピエンス誕生
③10万年くらい前 現在アフリカ以外に住んでいる人類の祖先が出アフリカ成功
④6万年~5万年くらい前 オーストラリア到達
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これらの説に異議を唱える研究もあったり、今後これらの大筋のストーリーが変更される可能性もあったりするわけだが、「とりあえず今んとここういう感じ」で押さえておけば、色々判り易くなる。
で、今回は「オーストラリアっていつから人住んでんのよ?」という話。
オーストラリアにはじめて人が渡ったのは最大まで遡って6万年くらい前じゃないかと言われているが、その証拠が挙がってくるようになったのは実は最近の話である。そして実に興味深いことに、「今いる先住民は渡って来た当時の人々の直接子孫」という結果も出てきている。
たとえばこちら、南オーストラリア(※)に住んでいるアボリジニの毛髪のDNAから、彼らが5万年前からオーストラリアで暮らしていた証拠が出たという記事。
(※全アボリジニが分析されているわけではなさそう)
Aboriginal hair shows 50,000 year connection to Australia
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2017/03/aboriginal-hair-shows-50000-year.html
1928年から1970年にかけて収集されていた111の毛髪サンプルからミトコンドリアDNAを解析したところ、南オーストラリアのアボリジニたちは全員5万年くらい前にオーストラリアに到達していた同一祖先を持っており、人口の増加とともに東周りと西周りで拡散してきた人々が合流したもの、と考えられるという。
つまり、いまオーストラリアに住んでいる先住民(アボリジニ)は、少なくとも南部の人々については5万年前に渡った最初の人類の直接子孫で、5万年もの間ずーっとオーストラリアに住み続けていたということになる。
これは日本への人の移住のケースと比べてみると興味深い。
日本の場合は、北からも南からも、西の大陸からも渡ってこられるそれほとせ難易度の高くない土地だったため、ヒトの移住ルートは複数想定されており、移住の時代もばらばらだ。「日本人の祖先」というとき、その「祖先」の素性は一つの集団ではなく、様々な系等が入り乱れた複雑なものとなる。しかも最大限頑張っても、せいぜい3万年(安全な説を採ると2万年)くらい前からしかヒトが住んでいない。
それに対してオーストラリア先住民は、一時期のひとつの集団が祖先になるというのだから、とても単純な構造だし、集団内の遺伝的な差異は少ないことになる。
5万年くらい前のオーストラリアはニューギニアと陸続きだが、海水面が上がると渡海が困難になるという。そのため、人類の歴史を振り返っても、オーストラリアに渡れるチャンスはあまり多くない。だからこういう結果になるのだろう。
もう一つ興味深いのが、つい最近でてきていた、オーストラリアの西にあるバロー島で5万年前の居住跡が見つかったという記事。
Human occupation of Australia pushed back to around 50,000 years ago
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2017/05/human-occupation-of-australia-pushed.html
バロー島の位置はココ
島からは貝殻など海産物利用の痕跡が見つかっており、オーストラリアの最初の住人たちが海産物を利用して居住地を広げていたことが判るという。日本に来た人たちもそうだが、内陸でエモノを追うより海に沿って海産物を採りながら移住するほうが人間にとっては楽だったのかもしれない。
ヨーロッパへの人の拡散は、多くの場合狩猟とともに語られる。しかしアジア方向への人の移住では、海との関わりを避けることは出来ない。海水面の変動により、かつての海岸線の多くは海の底となっていて調査が困難だ。だがきっと、今は海に隠れてしまっているかつての「人類の移住路」の軌跡には知られざる人類の歴史ドラマがまだ沢山眠っていると思う。いつか、それらが明らかにされる日がくるといいなと思う。
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「5万年も住んでたのに最近きた新参の白人に追い払われたアボリジニ可愛そう」みたいな反応も合ったりなかったりなんですが、そこらへんは(´・ω・`) 南北アメリカなんかもそうですが、ヨーロッパ人の移住・侵略もまた、"人類の拡散"という歴史の中の最近の1ページなので…。
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<追記分>
この記事について、「オーストラリアの野生犬ディンゴはアボリジニが連れて移住してきた説はどうなってんの?」というコメントがあったので調べてみた。
現在の研究では:
オーストラリアの野生犬ディンゴ 遺伝子解析からは、4,200年前に登場したと考えられる。またオーストラリアの最古のディンゴの骨はおよそ3,300年前のものが見つかっているため、時期も大体一致している。
→人がつれて移住してきたと思われるが、アボリジニが5万年前からオーストラリアに住んでいたことは、考古学的にも遺伝子的にも証拠が多数あり間違いない。
→「アボリジニとともに移住してきた」説は既に否定されている。後から追加で移住者が来てたのか、立ち寄っただけで定住しなかった人々が連れてきたのか、そのへんはもうちょっと調べてみないと分からないが。
というわけで、わりとよくあるケースだけどたぶん 日本語ウィキペディア間違ってる ってこと。機会があったらもうちょっと詳しく調べてみようと思う。
[>参考 最近出た犬の起源についての研究
犬の起源はニ系統?(※現時点での暫定結果)
https://55096962.seesaa.net/article/201606article_7.html