クリヤ谷~笠ヶ岳コース ルートガイド/難易度と情報があまり無かったので作ってみた

笠ヶ岳とは北アルプスの端っこのほうにあるとんがった形の山。標高は3,000mに若干満たない程度だが、斜面がとにかく急でひたすら登り登り登りなので「健脚向きの山」と言われる。逆に言うとこの山にコースタイムどおりに登れる人は、中級~上級クラスの山に行けるだけの体力があると言える。北アのメジャーな山の中では人の少ない、子連れ客などはほぼ居ない静かな山である。

(基本情報はヤマケイとかで)
http://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=517

…で、この山に登る主なルートのうち「クリヤ谷」からの登りルートについて有効な情報がネット上に殆ど無く、あってもタイムアタック自慢の人とか下りで使った人のくらいしかなくてイライラしていたので、自分で登ってデータを取ってきた。 ←おい

いや、ていうか本当は、人の多い山好きじゃないので人のあんまいないとこに行きたかっただけなんですが(´・ω・`)
まさか…登山口から山頂まで誰にも会わないほど人がいない道だとは…思いませんでした…。

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というわけでクリヤ谷コースの概要! (※総タイムは末尾)
まず最初に一番言いたいことを言っておく。

クリヤ谷コースを下山に使う人が多いが、下山に使うのはお勧めできない。


理由
 ・ハイマツの根っこが絡まってたり浮き石が笹に隠れてたり、めちゃくちゃ歩きにくい
 ・落差が激しい箇所が多く膝への負担が大きい
 ・危険箇所が多く足腰に疲れがたまっている状態では滑落の恐れあり
 ・コースタイムを縮められる場所はほとんどない、ほぼオンタイムになるはず
 ・登っても下っても、最後まで急な道が続く


登りより下りのほうが体力消費が大きいのも、筋肉痛なら治るが膝の故障はヘタしたら一生ものになるのも、そこそこ山登りしてる人なら判ってると思う。その意味でクリヤ谷コースは下りには適さない。ていうか下りで使うと最後の密林3時間で心が折れると思われる。

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■登山口~ヒロサコ尾根の水場まで

登山口のバス停は「中尾高原口」。ここから発のバスの本数はやたら少ないので、ここから帰りたい人はバスの時間に合わせる必要もある。新穂高に下りれば、バスの本数もあるし売店や足湯もあるので時間は潰せるのだが…。

ちなみにこの登山口には、トイレはない。
正確には、登山口と反対側の駐車場の端にトイレがあるのだが開いてる時間が9時から17時なので使いようがないのである。登りに来る人は手前の道の駅あたりで処理してくるしかない。


登山口はバス停から橋を渡った上り坂の先。

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フェンスにいちおう目印があり、登山口には立派な登山計画書のポストがあるのだが、このコースでわかりやすい標識があるのは登山口のみだ。コース上はピンクのテープと、何十年前のか分からないような錆びた看板がいくつか転がってるくらい。ほぼ標識なしという、一般登山客たたき返す気満々の塩対応ルートである(笑)
そういう投げっぱなしプレイが好きな登山客には向いている。

尚、足元はずーっと岩でガレガレの状態が続く。下りに適さないと最初に書いたが、この岩だらけのバランスの悪い道は下りだと相当キツいと思われる。

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歩きはじめて40分ほどで最初の渡河ポイントに到着。ここが、"水量の多いときは渡れないため雨のあとなどは要注意"と山岳地図などに書かれている場所。ただし、このあとさらに2回ほどある渡河ポイントのいずれも、水量次第では渡れない可能性があると思われる。

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今回はギリギリ渡れた(片足水没したけど…)が、雪解け水の勢いは結構なものがあり、流されると酷い目に遭いそうだった。渡りきった対岸には小さなお地蔵様が立っているのでそこを目指そう。お地蔵様の後ろから道が続いている。


最初の渡河ポイントを通過すると、鬱蒼とした樹林帯の歩きとなる。下草が朝露にしっとり濡れているのでズボンがどんどん湿っていく。おまけに足元は濡れて滑りやすい岩だらけの道。自分しかこのコースを通っていないので蜘蛛の巣に絡まりまくる。(´・ω・`) マイナールートでのあるある。

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歩き始めて1時間10分、目の前に岩壁のようなものが見え始める。
地図からするにヒロサコ尾根の端にあたる地点のようだ。錫杖岳のはしっこかもしれない。成程、登山道の無いピークだと思ってたら断崖絶壁系だったのか。

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このあといったん川を渡りなおす。右手には小さな滝があるが、地図上で特に名前はない。
ここも結構水量が多く、渡るのに必死であった。(今度は右足を水没させた…)

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目の前に岩壁が見えてくる。
ここがクライマーさんの挑むという岩壁のあたりだろうか? 場所的にはエボシ岩に近い場所だが、その一部なのかどうかは不明。ひたすらヤブを漕ぎながらどんどん進む。

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歩き始めて約1時間半。三度目の、今度は沢の右側に渡るポイントが見えてきた。だいぶ渡りやすくはなったが、まだ幅が広い。

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判りづらいが四度目は川を完全に渡らずに川の「真ん中」のでっぱったところを登っていく。ピンクのリボンが目印だ。リボンを見失うと道に迷うことになる。

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その先には「これ道かよww」みたいなすきまが続いているが、よく見てほしい、岩の上のコケが剥げている。これは人がたくさん歩いている証拠。そして申し訳程度に左側の枝にリボンが絡まっている…というわけで、ここが確かにルートなのだ。山のお約束を知ってる人向けの道なんである。このコースは北アの山系では珍しいくらい、どこまでも塩対応だ。

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7:11、歩き始めて約2時間。ようやく朝日が届き始めた。下草の露のせいで、すでに全身はぐっしょり濡れている。渡河で水没したせいで、靴下は両方ともぐじゅぐじゅ。日に当たれば少しは乾くはずと思いながらひたすら高度を上げていく。

このあたりからクリヤ谷をようやく外れはじめ、等高線の間隔が開いてくる。コース内でも数少ない、歩きやすくコースタイムを稼げる場所である。

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完全に文字の剥がれ落ちた看板が哀愁を漂わせている。

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倒木の下をくぐる。

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目の前にででーん! とでっかい木。写真でお察しのとおりこのあたりの草と笹は自分の背丈より高い。そのためなかなか日に当たれず、体はどんどん濡れていくばかりである。風も吹いていない…。青空をうらめしく見上げながらどんどん進む。

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7:53、ヒロサコ尾根の水場に到着。ようやく目の前が開けて、ここではじめて全身に太陽の光を浴びる。
水場の水量は多くないが、ここまでザックを下ろしてゆっくり休める広場のような場所がほぼ無かったため、水場の前の日当たりのよい場所が開けているのが有り難かった。さっそく濡れた靴下を思いっきり搾った。(笑) そして朝ごはんをたっぷり食べる。

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ここまでは標準コースタイム-1時間くらいで余裕。問題はここからだ…!

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■ヒロサコ尾根の水場~クリヤの頭~雷鳥岩まで


日当たりのよいヒロサコ尾根のゆるーい道をサクサク進む。このコースで唯一に近い、歩きやすいポイントである。服は乾いたがこんどは暑くなって来た。

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振り返ると焼岳方面がよく見えた。
そして一時間ほどでサクサクと最終水場まで到着。

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最終水場の岩には「水」と白く書かれている。水量がかなりあり、大きな音もたてているので気づかず通り過ぎることはないと思う。なお、ここを過ぎると水場は一切ない。荷物は重くなるが、ここで2リットルを確保する。

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…この直後から 地 獄 が 始 ま る 

地図上でやたらジグザグになってる道があると思う…そう…あそこな…、あれただのジグザグ道じゃなくて、崖だから。

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※ただの岸壁に見えるが正規ルートである


斜度85度くらいかなぁー! たーのしー♪ もちろん鎖なんて無いですよぉお
地図上の距離では2センチくらいしかないのに全く進めない。キツくなってきたら振り返って穂高を眺める。高度は2000m、ここまでで既に1000mは上げてきたはずなのにまだ残り900mあるという事実が胸に突き刺さる。

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9:46、歩き始めてから4時間半。岩の塊が頭上に現われる。クリヤの頭かと思ったが、そのあと雷鳥岩まで40分かかっているので違ってたようだ。なお頭上に見えている白い○印はもちろん、「ここがルートです」という意味だ。

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このあたりは登るのもキツいが、下りはそれよりさらにキツいと思う。何しろ崖しかないのだ。雨が降っていれば足元は滑りやすくなるし、テントなどを背負っていれば足に掛かる負担は増える。下りでこのルートを使って余力を残せるのは、岩壁が得意な人に限られると思う。

10:07、ようやく北尾根を見下ろせる位置に到着。

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10:37、雷鳥岩。確かに雷鳥には見えない、やたらと四角い形をしている…。崩れて昔と形が変わってしまった、とかだろうか。
ひたすら崖をよじ登ってきたせいで、ここまででかなり体力を消耗している。コースタイムは5時間17分、標準より少し早め。ただしこの先にコースタイムを縮められるような場所はほとんどない。

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岩を眺めながらお昼ご飯を食べ、ラスト3時間に備える。

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■雷鳥岩~笠ヶ岳山頂まで

さて、ここからが勝負どころである。地図で見ると、この先は等高線をほとんど横切らず、ほぼ横ばいのトラバースルートになっている。だから楽勝だろうと勝手にたかを括っていた。

全然そんなことなかった。

両側断崖絶壁に申し訳程度につけられた30センチほどの平らなところが道だった。

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右手側がとんがったピーク、左手側が申し訳程度のハイマツと崖下の見える断崖絶壁。ガラガラ崩れる岩の上を必死に水平を保ちながら1時間ほど歩く地獄のトラバースの始まりだ! ヒャッハー!全然距離が稼げねえええ

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いいカンジに遠い谷底が見えているので全く気が抜けない。そしてさらに、はるか遠くに見える笠ヶ岳までの距離が心を折りに来る。皆がキツいキツいいってた意味がようやく判ったのは、この時であった。自分、登るだけなら無心に登れるので崖は大したことないんですが、はるか彼方にゴールを見せ付けられて「ククク勇者よ、それで強くなったつもりなのか? 貴様の力などその程度だ…」されるの一番辛いっす。これが本当のマウンティングってやつだ。

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12:11。
なんとか最後の尾根に取り付いたところで、目の前に現われる真っ白な世界、ファッ?! てなりながらしばらく呆然とした。高度2800m、登りは残り100mもないはずなのに…ここからの残雪が…キツい…

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白い○のついているところがルート。
ルートぎりぎりまで雪が迫っているところはまだ何とかなるのだが…

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完全にルートが雪の下、かつ雪と岩の間にスキマが見えていて踏み抜き確定の場所などは、雪の上を通れないのでハイマツ帯を無理やりトラバースするしかない。アイゼンなど雪山装備も持ってきたが、これでは全く役に立たない(´・ω・`) 今年は残雪が多いとは聞いていたが、日当たりのいいこのルートでも溶け切っていないとは予想外だった。。

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三箇所ほど道なき道のトラバースを越えて、ようやく正面に笠ヶ岳ピークが見え始める。

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ただの崖にしか見えませんが笠ピークの真下です!!
遠くから見るとすんごいキレイな三角錐の形をしてるあの山、あの笠ヶ岳の、これが間近に見る姿だったのです(真顔)

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13:15、ようやく頂上に到達。
誰もいなーーい!! 風景独り占めである。ガスが渦巻いてて周囲の山はチラ見えしかしないんだけど。平たく砕けた岩の折り重なった山頂になっていて、なんだか、周囲の岩を適当に集めてケルン作れば山の標高が1mくらいすぐ変えられそうな気がした(笑)

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ここまでジャスト8時間。最後の残雪トラバースに苦労しなければもう少しタイムが上がった可能性はあるが、こんなもんだと思う。ここまで6時間とか7時間とかで上がってきているのは、かなり山道に馴れている人だろう。危険箇所も多く、あまりタイムを上げすぎると事故ってしまいそうだ。

ここから笠ヶ岳山荘までは下り10分もかからないくらいの距離。頑張れば日帰りも…、まぁ、出来なくはない…と思うが…、やめておいたほうが無難だろうなあ。膝を大事にするのならば。


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単独登山/雪山装備あり/晴れ時々曇り
7月半ば/例年より雪融けが遅く残雪多め。(ただし気温は高い)

【総コースタイム】

一日目 クリヤ谷~笠ヶ岳山荘

登山開始 5:15
最初の渡河 5:56
ヒロサコ尾根手前の水場 7:53 (ここまで2:38/標準-0:52)
<朝ごはん>
最終水場 9:00
クリヤの頭 9:45
雷鳥岩 10:35 (ここまで5:20 標準 -1:10)
<昼ごはん>
トラバース終了地点 11:21
偽ピーク到達 12:35
笠山頂 13:15 (ここまで8:00 標準 -1:30)
小屋着 13:24

-------------- TOTAL 8:07


二日目 笠ヶ岳山荘~新穂高ロープウェイ前バス停

スタート 5:15 
笠新道入り口 6:15 (ここまで1:00/標準通り)
杓子平 7:01 (ここまで1:46/標準-0:34)
標高1,920m地点通過 8:05
笠新道入り口 8:57 (ここまで3:42/標準-1:32)
バス停 9:40 (ここまで4:25/標準 -1:46)

-------------- TOTAL 4:30

ヤマレコとか見てるとアホみたいなタイムで縦走してる人もいるけど、クリヤ谷コース登りは9時間~10時間が目安、笠新道下りは5時間~6時間が目安という登山本に書かれた数字は、実際に歩いてみても妥当な時間だと思う。

自分は人よりは歩くの早いほうではあるのだが、一般人で余力残しつつだと、今回のタイムを大幅に縮めることは難しそうだった。あまり急ぐとミスしたときに大怪我に繋がるので、標準コースタイムに従うのが無難だ。

キツいキツいと書いたが、変化に富む面白いコースでもある。舐めプで通えるコースでもないのだが、面白い道にガチな気分で挑戦してみたい登山者にはお勧めしたい。マイナールートやガレ場が好きな人には向いている。

あともう一度繰り返すが、クリヤ谷は 下山向きの道では ない。

筋肉痛なら数日でなんとかなるが、ヒザを故障すると長引くしヘタすると山に行けなくなる。 ヒザ大事。 身体と命は替えが効かない、両方無事でこそのお山趣味なのですよ。


●山のコース選びは自分のレベルに合わせて!!

レベルが分からない場合はまずは低い山から。
あと、今年はじめての山が3,000m級とかいうのはNG。筋力体力は自分が思ってるより早く落ちます、「昔はこのコースでもいけたから…」とかいうのは完全に死亡フラグ。

●高山は14時に行動終了が基本!! 

下山or幕営地到着がそれ以降の時間になる場合は日帰りしちゃダメ。ヤマレコとかでたまに無茶なコース設定で日帰りしてる人もいますが、そういう人はいつの日か山で風になってしまう予備軍なので、人のまま町に生還したいなら真似しないほうがいいです。

山行は、つねに「いのち だいじに」モードでお願いします。

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