アサシンクリード・オリジンズ/リアルさと"ゲーム向けの設定" (※ネタバレ記述なし)

10月末に発売されたアサクリシリーズの最新作、「アサシンクリード・オリジンズ」。

めっちゃエジプトしてて細かいところにこだわりがあって楽しませてもらっているのだが、当然ながら、ゲームならではのフィクションも沢山入っている。
また、詳細な構造の記録がないアレクサンドリア大図書館の復元のように、諸説ある中の一説を選んでいる箇所や、ギザのピラミッドの外見や構造のように、史実よりもゲームとしての見栄え・攻略要素などを優先して設定したと思われる箇所も多くある。
そもそも即位当時のクレオパトラの年齢にも幾つか説があったりするくらいなので、素晴らしく作りこまれているしゲームとしてやる分には十分すぎるが、作中設定(特にストーリーに関わる部分)は「史実」とは思わないほうがいい。

画像

*おっぱい*

画像

*履いて…履いてない!!*




…というわけで、ここでは「じゃあ史実はどうだったのか」という話を書いてみたい。

なお、中の人はサブクエストと観光が楽しくて まだ序盤なのでストーリーに関するネタバレは全然ないよ!!
浴場で美少年の尻を狙っていたオッサンだけは優先してSATSUGAIしました世界の運命とかわりとどうでもいいけど美少年の貞操だけは守らなければと…思ったんで…! HAHAHA


■メジャイ(Mejay)とは何か

多分、まずここから説明しないといけない気がするんだ…。

アサシンクリードシリーズで、今回主人公の職業が「メジャイ」なので、メジャイってアサシン的なやつなの? みたいな感じで思われるかもしれないんだが、ちゃいます。

「メジャイ」とは、元々はエジプト南部のヌビア砂漠東部に住む部族名

そう、元々はエジプト人にとっては敵でもあった外部部族名なんである。ただしメジャイ族は身体能力や忠誠に置いて高く評価されていたためエジプトで王宮や神殿の警護を行う傭兵として雇われることが多く、メジャイ族出身の者が多く傭兵としてエジプトに雇われるうちに、いつしか部族名そのものが役職名ともなっていった。そして、新王国時代の末期頃には「治安維持を担うもの」、現代でいう警察のような意味合いで使われるようになっていた。

ちなみに記録に登場しはじめるのは第二中間期あたりからで、紀元前2千年頃まではヌビアでエジプトに敵対する集団として暮らしていた部族名として使われていた。
ゲーム内は新王国時代よりもさらに1000年以上経過したプトレマイオス朝時代なので、メジャイという言葉は単なる役職名になっており、ヌビア出身ではない主人公もメジャイという職業名を名乗っている…という設定なのだと思う。

(※エジプトの王朝区分と年表は こちら を参照)

なお、メジャイが世襲制だったという資料を私は知らないし、作中で主人公が持っているメジャイの印みたいなものもどこから持ってきたのか不明だ。シーワ・オアシスなんていう辺鄙なところに世襲メジャイが住んでる経緯も分からないので、そのへんは「ゲームとしての設定」と考えたほうが良さそうだ。


■クレオパトラはなぜ玉座を追われているのか


ゲーム内ではファラオが悪い組織に操られていることになっているが、実はそこはわりと史実に近かったりする。

クレオパトラ(7世)は弟プトレマイオス(13世)と夫婦として共同統治で即位していたが、二人の年齢差はそこそこあり、即位当時クレオパトラ18歳とするとプトレマイオスは10歳か11歳くらい。即位後4年が経過した紀元前48年、おそらく15歳という成人年齢に達したプトレマイオスは、実権を握る姉と衝突し追放する。

これがゲームスタート時点での状況である。

ただし、クレオパトラと主人公が組むに至ったいきさつやエジプト国内における怪しい組織の設定などは、史実ではなくゲーム内設定である。実際に若きファラオ・プトレマイオスをそそのかしたのはファラオの周囲にいた普通のギリシャ系の官僚たち(ゲーム内ではハイエナとかヘビとか呼ばれているキャラに該当)だろうし、おそらくファラオ自身も、いつまでも姉のいうなりになっていたくはないという思いがあったのだろう。


■プトレマイオス13世の圧政はあったのか

ゲーム内設定として仕方ない面もあるが、プトレマイオス13世は悪い王、ラスボスのような描かれ方をしている。史実を見れば最終的に姉との権力争いに負けて暗殺されてしまうので、ゲームはまだ序盤だけどまぁだいたい最期の想像もつく。
それに対し、ゲーム内のクレオパトラは、放蕩ではあるが主人公の後ろ盾となってくれてる面もあり、正統な王位継承者でプトレマイオスより良き人物のように見せられている。

これはゲーム内の設定だと思ったほうがいい。

正直二人とも、即位当時は民衆からの支持を得られていたとは思えず、どちらが王でも民衆に対する圧力はあったと思われるからだ。

プトレマイオス王朝を開いたのはアレクサンドロスの部下でもあったプトレマイオス1世で、3世あたりまでは問題なかったのだが、以降、代を重ねるごとに王朝の雲行きは怪しくなっていく。クレオパトラ7世の祖父、プトレマイオス9世ソーテール以降の時代は、内輪で暗殺しあったお陰で王家の直系の子孫がいなくなり、庶子に王位を継がせている。民衆の反乱が相次ぎ、内輪もめを収めるためにローマに助けを求めて内政干渉される始末である。

ローマの内政干渉やキプロス島の主権喪失といった失政が重なったこともあって、クレオパトラが即位する7年前、彼女の父の代である紀元前58年には、アレクサンドリアで王家に対する大規模な住民の反乱も起きている。ゲーム開始時点の紀元前48年は、プトレマイオス王家自体が人気をなくしており、クレオパトラもその弟も、どちらも住民にあまり好かれていなかった、と考えるべきだろう。

つまり、この時代は「多少無理やりにでも押さえつけなければ再び大規模な反乱が起きる状態」だったのだ。これが、プトレマイオスが王でもクレオパトラが王でも圧制を敷いただろうと考える理由である。

クレオパトラは治世後半においては住人たちの信頼を得ていたように見えるが、それは彼女が単独統治となり、知性と女性の武器という手腕を振るって父の代に失った領地やエジプトの主権を取り戻してからのことである。


■プトレマイオス朝末期のエジプト

プトレマイオス朝時代のエジプトは、「古代エジプト」としては最後の時代である。よく知られた史実として、エジプトは紀元前30年にローマ支配下に入る。クレオパトラの取り戻した最期の栄光の時は、ゲーム開始時点から二十年も経たずに時の彼方へと流れ去る。
しかし、独立を失う前から、エジプトは既に単独の突出した文化圏ではなく、"ヘレニズム世界"の一部に組み込まれる存在へとなっていた。

まだゲーム序盤でナイル上流に辿り着けていないのでどう描かれているかわからないのだが、今プレイしているナイル下流ではギリシャ人やユダヤ人、砂漠からきた行商人に土着エジプト人が交じり合って暮らしている。史実では実際には、ほかにもローマ人、エトルリア人船乗り、南方のヌビア人、西方のリビア人など多種多様な文化・民族が入り乱れる世界が展開されていた。なのでアレクサンドリアのような大都市なら、人々の格好はもっとてんでバラバラでいいし、ユダヤ人地区はもっと広くて特異な感じでもいい。

新しい文化と異国人も入り混じる中に、古代から受け継がれてきたいわゆる「古代エジプト」の神殿も聳え立っている。セラピスのように新たに信仰されるようになった神の神殿があれば、ホルスやセクメトのような古き神々に捧げられた神殿もまだ生きている。それが、プトレマイオス朝末期のエジプトの姿である。

主人公の住むシーワ・オアシスや古風な「メジャイ」という役職名も、主人公の住む世界が去り行こうとしている「古きエジプト」に属することを意味している。つまり、このゲーム内の世界は、エジプト最後の栄光を見せてくれようとしているわけなのだ。

…古代エジプト好きは… 泣いていいんやで……。


****

<まめちしき>

クレオパトラ7世は「最後のファラオ」って言われることがあるけど、厳密には最後じゃないです。
"独立国家としてのエジプト"の最後ですが、ローマ支配化においてもローマ皇帝を"ファラオ"としてカウントして即位名つけたりしてるんで。

なんでそうなったかというと、古代エジプトの年代の数え方が「xx王の治世xx年目」となっていて、ファラオ名=元号 みたいな扱いだから。要するにファラオがいないと「今年は○○年」っていうのが書類に書けない(笑)

ちなみに最後にファラオとして記録されているのは、ローマ皇帝ディオクレティアヌス。

****

「史実」としてのクレオパトラについては、以下の本がオススメ。サイズが小さくてコンパクトなわりに情報量が多く、家系図やアレクサンドリアの見取り図なども載っている。後世に書かれた「伝説」の部分を極力排除して実像に迫ろうとしているのも好印象。

ゲーム内に出てくるどのキャラが史実にもいる人なのか、とかも判る。

クレオパトラ (文庫クセジュ 915)
白水社
クリスティアン・ジョルジュ・シュエンツェ

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by クレオパトラ (文庫クセジュ 915) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


*****************

古代史クラスタはプレイするんだ! アサシンクリード最新作「オリジンズ」、最高にエジプトしてた
https://55096962.seesaa.net/article/201711article_5.html

アサシンクリード・オリジンズ/現存しない神殿等の再現についてのメモ ※ネタバレあり
https://55096962.seesaa.net/article/201711article_25.html

アサシンクリード・オリジンズ/ピラミッド内部の空間は新発見の空間とは関係ないよという話
https://55096962.seesaa.net/article/201711article_12.html

エジプト・ファイユームの地名(古名)マップを見つけたぞー
https://55096962.seesaa.net/article/201712article_5.html

この記事へのトラックバック