テラフォーマーズか宇宙人か?! あの謎のエジプト神の正体がなんとナマズだった件
「あの」っていうか知ってる奴ほかに誰かいるのかっていう話ですがまぁそこは置いといて、パソコンの中の「いつか調べる」フォルダに入れたまんま忘れていた謎神の正体が皆の力でようやく明らかになったぞ! というお話。
見た目だけじゃ何なんだか判りませんね!
どう見ても虫にしか見えないのだが、よく見て欲しい。それぞれの左側に名前らしきものが書いてあり決定詞が魚。ということは、この神様は水属性(魚関連)なのだ。
書かれているヒエログリフを読んでみると、左側が
Aa28 = レンガ積み道具 kd
D46 = 手 d
Y2 = 巻物 決定詞?
M17 = 葦 =y
K2 = 魚 = 決定詞 = (音としてはbsだがおそらく決定詞?)
で kdy 、右が rsy となる。この組み合わせによく似た発音で「khdy(北方)」と「rsy(南方)」という単語があるので、もしかしたら方角関連の神様だろうかと思っていた。khdで決定詞が船なら「北へいく = 川を下る」という意味になったりする。
だが、四方の方角を擬人化した神はだいたい人間の姿のはずで、こんなよくわからん姿なのを見たことが無い。というかこの触覚は何。
…ここで なかのひとは かんがえるのをやめた → ・・・・そして時は流れた・・・。
ちなみに最初から神だと決め付けているが、何でかというとこれが石棺の外側に描かれている絵だからである。そこには通常、葬送の儀式と死後の世界を守護する神々への祈りが刻まれる。不幸なもの、縁起が悪いものは一切出てこない。なので、どんな奇妙な姿をしていても「神」なのだ。
というわけで時は流れ、今年のお正月、パソコンの中を整理していて発掘されたこれをわかりそうな人はいないかなーと配り歩いて情報を集め、ようやく辿り着いた答えがこれ。
「洞窟の書」にも登場するナマズの頭をもつ神が超簡略化された、古代エジプト王朝末期の姿だった。
そう、あの触覚のようなものは、ナマズのヒゲが手抜き 独特の描画様式によって再現された結果だったのである。こんなもんわかるか!!! いや、間の時代の変遷を追ってればなんとなく想像はつくのかもしれないけどさぁ。
ちなみに「洞窟の書」とは、死者の書と内容的に一部被っている内容の葬送文書で、冥界の道順や風景なんかが書かれている。特に新王国時代に王家の谷に墓が作られるようになってからは墓の装飾として用いられている。ナマズと辛うじて判る「洞窟の書」はKV9(ラメセス5世 & 6世の墓)の壁に描かれているもの。この時点では、リアルのナマズに近く4本のヒゲが生えている。若干ツノみたいになっているが、ナマズのヒエログリフからの連想でなんとか意味が判るw
冒頭のナゾの絵が虫っぽく見えるのは、ヒゲの生え方が逆になっているからだ。
で、どうしてこんなことになったのか調べてみたところ、この時代の絵師、生きたナマズではなくミイラ化されたナマズをモデルにしてしたのでは? という説が出てきた。
末期王朝以降は動物ミイラが盛んに作られる時代なのだが、ナマズのミイラは、布の上から目を書く。そしてヒゲがきれいに残らないので、人工のヒゲをつけたり、ヒゲの部分だけ別布で巻いたりする。すると、こうなる…。
原型のまだ判るKV9は、第20王朝(紀元前1200~1100年ごろ)。
今回の原型がわからなくなっている棺はプトレマイオス朝(紀元前300年ごろ)。
およそ900年くらいは時間が経過しており、しかもその間にヌビア人王朝になったりペルシアに併合されたりアレクサンドロスに征服されたりした上にギリシャ系王朝に支配されるようになっているわけで、伝統の形骸化が進みつつあった時代を表しているのかもしれない。そもそも「洞窟の書」だと七人いるのがなぜか四人(?)になってて、四方神と合体させられちゃってるぽいしね…。
なお、「このナマズ神の役割は何なのか?」だが、ナマズやハイギョなど暗い泥の中を泳ぎまわれる魚たちは、「原初の水(ヌン)を泳げる」と解釈され、地下世界における太陽の船の案内役だったらしいのだ。古代エジプトの世界観では、世界は、泥のような原初の水から太陽と共に地面が誕生して生まれたことになっている。地上は生きる者の世界。地下が死者の世界で、死者の世界の底には今も混沌たる原初の水が広がっているとされた。
太陽は、朝に東の地平線から生まれ、空をよぎって夕方に西の地平線に沈んで死ぬ。太陽を乗せた船が地下世界を西から東へと回送運転している間は、地下世界の魔物に襲われたり道に迷ったりしかねないため、道案内が必要なのである。KV9のナマズ神たちも太陽の運行を支えている。
ということは今回のデフォルメされつくしたナマズ神も、死者の国での道案内として描かれているはずだ。
棺の側面全体の写真を見てみると、問題のシーンの横に太陽があることがわかる。そして、続きのシーンは冥界をゆく太陽の船だ。ということは、つながり的にナマズ神がいるのは、太陽の船が現世からあの世へ突入する場面ということになるだろうか。方角を表しているのは正しそうだ。
細かいところまでは分からないが、おそらくこのナマズ神は太陽の船に乗る死者の魂を導くためにここにいるのだと思う。死者の魂は、太陽の船に乗り、地下の死の世界を西から東へと移動し、夜明けとともに再び生まれてくる、という思想がある。いつかまたこの世に戻って来られるように。という願いをこめた棺デザインとしては、伝統を踏まえつつアレンジも加えた、よく出来たチョイスだと言えるだろう。
神の顔が手抜…斬新すぎるけど。
****
この棺はネス・シュウ・テヌネトさんのもので、ウィーンの美術史美術館に収蔵されている。
とりあえず資料はこれ
http://www.globalegyptianmuseum.org/detail.aspx?id=4501
あと特定班が探し出してくれた資料がこれ
http://www.janestudies.org/drupal-jp/sites/default/files/JANES_NL_J_no12(2004)_Hagioda.pdf
最初期のナマズ絵は、古代エジプト王朝の初代の統一王ともされるナルメル王の名前に入っているこれ。
このヒエログリフを見たあとで、冒頭のナゾ絵を見ると、「さすがに省略しすぎだろうソレ・・・」としか言えないのであった。発注主はあんまり細かい絵まで見ない人だったに違いない。
見た目だけじゃ何なんだか判りませんね!
どう見ても虫にしか見えないのだが、よく見て欲しい。それぞれの左側に名前らしきものが書いてあり決定詞が魚。ということは、この神様は水属性(魚関連)なのだ。
書かれているヒエログリフを読んでみると、左側が
Aa28 = レンガ積み道具 kd
D46 = 手 d
Y2 = 巻物 決定詞?
M17 = 葦 =y
K2 = 魚 = 決定詞 = (音としてはbsだがおそらく決定詞?)
で kdy 、右が rsy となる。この組み合わせによく似た発音で「khdy(北方)」と「rsy(南方)」という単語があるので、もしかしたら方角関連の神様だろうかと思っていた。khdで決定詞が船なら「北へいく = 川を下る」という意味になったりする。
だが、四方の方角を擬人化した神はだいたい人間の姿のはずで、こんなよくわからん姿なのを見たことが無い。というかこの触覚は何。
…ここで なかのひとは かんがえるのをやめた → ・・・・そして時は流れた・・・。
ちなみに最初から神だと決め付けているが、何でかというとこれが石棺の外側に描かれている絵だからである。そこには通常、葬送の儀式と死後の世界を守護する神々への祈りが刻まれる。不幸なもの、縁起が悪いものは一切出てこない。なので、どんな奇妙な姿をしていても「神」なのだ。
というわけで時は流れ、今年のお正月、パソコンの中を整理していて発掘されたこれをわかりそうな人はいないかなーと配り歩いて情報を集め、ようやく辿り着いた答えがこれ。
「洞窟の書」にも登場するナマズの頭をもつ神が超簡略化された、古代エジプト王朝末期の姿だった。
そう、あの触覚のようなものは、ナマズのヒゲが
ちなみに「洞窟の書」とは、死者の書と内容的に一部被っている内容の葬送文書で、冥界の道順や風景なんかが書かれている。特に新王国時代に王家の谷に墓が作られるようになってからは墓の装飾として用いられている。ナマズと辛うじて判る「洞窟の書」はKV9(ラメセス5世 & 6世の墓)の壁に描かれているもの。この時点では、リアルのナマズに近く4本のヒゲが生えている。若干ツノみたいになっているが、ナマズのヒエログリフからの連想でなんとか意味が判るw
冒頭のナゾの絵が虫っぽく見えるのは、ヒゲの生え方が逆になっているからだ。
で、どうしてこんなことになったのか調べてみたところ、この時代の絵師、生きたナマズではなくミイラ化されたナマズをモデルにしてしたのでは? という説が出てきた。
末期王朝以降は動物ミイラが盛んに作られる時代なのだが、ナマズのミイラは、布の上から目を書く。そしてヒゲがきれいに残らないので、人工のヒゲをつけたり、ヒゲの部分だけ別布で巻いたりする。すると、こうなる…。
原型のまだ判るKV9は、第20王朝(紀元前1200~1100年ごろ)。
今回の原型がわからなくなっている棺はプトレマイオス朝(紀元前300年ごろ)。
およそ900年くらいは時間が経過しており、しかもその間にヌビア人王朝になったりペルシアに併合されたりアレクサンドロスに征服されたりした上にギリシャ系王朝に支配されるようになっているわけで、伝統の形骸化が進みつつあった時代を表しているのかもしれない。そもそも「洞窟の書」だと七人いるのがなぜか四人(?)になってて、四方神と合体させられちゃってるぽいしね…。
なお、「このナマズ神の役割は何なのか?」だが、ナマズやハイギョなど暗い泥の中を泳ぎまわれる魚たちは、「原初の水(ヌン)を泳げる」と解釈され、地下世界における太陽の船の案内役だったらしいのだ。古代エジプトの世界観では、世界は、泥のような原初の水から太陽と共に地面が誕生して生まれたことになっている。地上は生きる者の世界。地下が死者の世界で、死者の世界の底には今も混沌たる原初の水が広がっているとされた。
太陽は、朝に東の地平線から生まれ、空をよぎって夕方に西の地平線に沈んで死ぬ。太陽を乗せた船が地下世界を西から東へと回送運転している間は、地下世界の魔物に襲われたり道に迷ったりしかねないため、道案内が必要なのである。KV9のナマズ神たちも太陽の運行を支えている。
ということは今回のデフォルメされつくしたナマズ神も、死者の国での道案内として描かれているはずだ。
棺の側面全体の写真を見てみると、問題のシーンの横に太陽があることがわかる。そして、続きのシーンは冥界をゆく太陽の船だ。ということは、つながり的にナマズ神がいるのは、太陽の船が現世からあの世へ突入する場面ということになるだろうか。方角を表しているのは正しそうだ。
細かいところまでは分からないが、おそらくこのナマズ神は太陽の船に乗る死者の魂を導くためにここにいるのだと思う。死者の魂は、太陽の船に乗り、地下の死の世界を西から東へと移動し、夜明けとともに再び生まれてくる、という思想がある。いつかまたこの世に戻って来られるように。という願いをこめた棺デザインとしては、伝統を踏まえつつアレンジも加えた、よく出来たチョイスだと言えるだろう。
神の顔が手抜…斬新すぎるけど。
****
この棺はネス・シュウ・テヌネトさんのもので、ウィーンの美術史美術館に収蔵されている。
とりあえず資料はこれ
http://www.globalegyptianmuseum.org/detail.aspx?id=4501
あと特定班が探し出してくれた資料がこれ
http://www.janestudies.org/drupal-jp/sites/default/files/JANES_NL_J_no12(2004)_Hagioda.pdf
最初期のナマズ絵は、古代エジプト王朝の初代の統一王ともされるナルメル王の名前に入っているこれ。
このヒエログリフを見たあとで、冒頭のナゾ絵を見ると、「さすがに省略しすぎだろうソレ・・・」としか言えないのであった。発注主はあんまり細かい絵まで見ない人だったに違いない。