ヤマナ(ヤーガン)族は「服を洗濯しなかったせいで絶滅した」という俗説についての考察
ヤマナ族/ヤーガン族 (一般的にはYaghanのほうだと思う)は、南極に近い南米の最南端付近、パタゴニアと呼ばれる地方に住んでいた先住民である。寒い地方に暮らしているにも関わらず、衣服を殆ど着用せず、最初にヨーロッパ人が到達した際にはほぼ裸であったため衝撃を与えたという。
さて、このヤマナ(ヤーガン族)が絶滅した理由について日本では、「宣教師が服を着ることを教えたが、服を洗濯することは教えなかったため疫病にかかって絶滅した」というような俗説(?)が出回っている。私も特に興味がなかった頃はふーんで流していた。しかし、改めて考えてみると、この説はどうもおかしい。おかしいというより、まず有り得ない。
服を洗わないと確かに不衛生にはなる。が、だからといって致命的な疫病にはかかるとは思えない。
ダニやシラミが病気を媒介することはあるだろうが、そもそもパタゴニア地方の気温でダニなどはどれほど繁殖できるのか。それから、ヨーロッパから長期航海してやって来る船員だって、船上で服は洗濯しないだろう。
さらに言えば、よそ者の宣教師が言ったくらいで服を着るようになることが有り得るだろうか。ヤーガン族が半裸だったのには合理的な理由があるはずだ。つまり、その生活スタイルは人に言われて簡単に変わるようなものではないし、服が必要なら彼らだって服くらい作っていただろう。本来必要のなかった服を強制的に着せたりであれば、それは布教活動ではなく支配である。
…というわけで、ヤーガン族の絶滅に、服を着る着ないは、おそらく関係ない。
調べてみるとまさにそのとおりで、重要なファクターとなるのは以下のような内容だった。
・ヨーロッパからチフス、麻疹、天然痘が持ち込まれた
・ヨーロッパ人が食料となるアシカを乱獲してカロリー源を奪った
・ヨーロッパからの移住者たちがパタゴニアでヒツジの放牧を行い、先住民たちの土地を奪った
つまり、だいたいヨーロッパからの移住者のせいである。(ざっくり)
日本でよく言われている、「服を洗濯することを知らなかったから絶滅した」の出所はよく判らなかった。少なくても20年くらい前にはあったようだがソースが記載されていないのである。何かのテレビ番組とかだったのかも。
この言い方は、絶滅「させた」のではなく「勝手に絶滅した」というニュアンスになっており、無知な住民たちに責任があったかのような言い草になっている。だが実際は、入植者たちが先に住んでいた人々を野蛮人扱いして棲家を奪い、食料を奪い、病気をバラまいて追いやっている。少なくとも、英語で探せる範囲の、最近出版/公開された資料ではそのように記載されている。現地の観光局の資料も同じだ。
宣教師たちが野蛮人に「文明を教えてやる」という態度で接触したのは事実のようで、英語を教えると同時に着衣の文化も教えた(実際は強制した)というとこまではウラが取れたが、着衣は、ヤーガン族のその後の運命にはほとんど関係ないだろう。それはどちらかというと、真の原因を隠すための偏見に満ちた理由づけではないかと思われる。ちょっと考えてみるとバカバカしい理由づけなのに、こんな話を少しでも信じてしまったのは、自分の中にも「裸族=未開人」という偏見があったからなのだろう。反省しなければならない。
文化/文明に優劣はなく、その地域、今居る環境に最適化されて様々に進化した結果としての差異だけがある。地球上には、実に様々な場所がある。生存に必要な条件、あるいは生存のために手にすることの出来る物資は全く異なる。
ヤーガン族の場合、物資の少ない寒い地方に適応して生きてきた。濡れた服を乾かすよりも、濡れて服が凍るよりも、そもそも服を着ないで油や泥で直接体をガードして頻繁に火に当たったほうが合理的だと考え、実際にそれが「正解」だったから何万年も生き延びてこられた。それはつまり、彼らの文化が優れていたことの証明である。
服も着られない蛮族だとバカにする気持ちがあるのなら、それは、ヤーガン族を絶滅に追いやったヨーロッパからの侵略者たちと同じ過ちである。
ヨーロッパ人がやってきたときのヤーガン族の人数は、3,000人ほどだったという。
そのうち9割が疫病と栄養不足、環境の変化によるストレスなどが重なって短期間で死亡。近くに住んでいたほかの先住民の部族も同じような状況に陥ったという。そして現在では、純粋なヤーガン族の生き残りは高齢女性ただ一人。
結果として、ヤーガン族はヨーロッパからの侵略者たちに負けて消えていこうとしている少数民族の一つとなった。
しかし忘れないで欲しい。彼らは世界の最果ての地まで自力で辿り着き、"滅ぼされる"以前は、自分たちの力で、そこで命を繋ぐことが出来ていた。決して野蛮人などではなく、環境に応じて生活を最適化させることのできた、きわめて合理的で頭のいい人々だったのだと。
さて、このヤマナ(ヤーガン族)が絶滅した理由について日本では、「宣教師が服を着ることを教えたが、服を洗濯することは教えなかったため疫病にかかって絶滅した」というような俗説(?)が出回っている。私も特に興味がなかった頃はふーんで流していた。しかし、改めて考えてみると、この説はどうもおかしい。おかしいというより、まず有り得ない。
服を洗わないと確かに不衛生にはなる。が、だからといって致命的な疫病にはかかるとは思えない。
ダニやシラミが病気を媒介することはあるだろうが、そもそもパタゴニア地方の気温でダニなどはどれほど繁殖できるのか。それから、ヨーロッパから長期航海してやって来る船員だって、船上で服は洗濯しないだろう。
さらに言えば、よそ者の宣教師が言ったくらいで服を着るようになることが有り得るだろうか。ヤーガン族が半裸だったのには合理的な理由があるはずだ。つまり、その生活スタイルは人に言われて簡単に変わるようなものではないし、服が必要なら彼らだって服くらい作っていただろう。本来必要のなかった服を強制的に着せたりであれば、それは布教活動ではなく支配である。
…というわけで、ヤーガン族の絶滅に、服を着る着ないは、おそらく関係ない。
調べてみるとまさにそのとおりで、重要なファクターとなるのは以下のような内容だった。
・ヨーロッパからチフス、麻疹、天然痘が持ち込まれた
・ヨーロッパ人が食料となるアシカを乱獲してカロリー源を奪った
・ヨーロッパからの移住者たちがパタゴニアでヒツジの放牧を行い、先住民たちの土地を奪った
つまり、だいたいヨーロッパからの移住者のせいである。(ざっくり)
日本でよく言われている、「服を洗濯することを知らなかったから絶滅した」の出所はよく判らなかった。少なくても20年くらい前にはあったようだがソースが記載されていないのである。何かのテレビ番組とかだったのかも。
この言い方は、絶滅「させた」のではなく「勝手に絶滅した」というニュアンスになっており、無知な住民たちに責任があったかのような言い草になっている。だが実際は、入植者たちが先に住んでいた人々を野蛮人扱いして棲家を奪い、食料を奪い、病気をバラまいて追いやっている。少なくとも、英語で探せる範囲の、最近出版/公開された資料ではそのように記載されている。現地の観光局の資料も同じだ。
宣教師たちが野蛮人に「文明を教えてやる」という態度で接触したのは事実のようで、英語を教えると同時に着衣の文化も教えた(実際は強制した)というとこまではウラが取れたが、着衣は、ヤーガン族のその後の運命にはほとんど関係ないだろう。それはどちらかというと、真の原因を隠すための偏見に満ちた理由づけではないかと思われる。ちょっと考えてみるとバカバカしい理由づけなのに、こんな話を少しでも信じてしまったのは、自分の中にも「裸族=未開人」という偏見があったからなのだろう。反省しなければならない。
文化/文明に優劣はなく、その地域、今居る環境に最適化されて様々に進化した結果としての差異だけがある。地球上には、実に様々な場所がある。生存に必要な条件、あるいは生存のために手にすることの出来る物資は全く異なる。
ヤーガン族の場合、物資の少ない寒い地方に適応して生きてきた。濡れた服を乾かすよりも、濡れて服が凍るよりも、そもそも服を着ないで油や泥で直接体をガードして頻繁に火に当たったほうが合理的だと考え、実際にそれが「正解」だったから何万年も生き延びてこられた。それはつまり、彼らの文化が優れていたことの証明である。
服も着られない蛮族だとバカにする気持ちがあるのなら、それは、ヤーガン族を絶滅に追いやったヨーロッパからの侵略者たちと同じ過ちである。
ヨーロッパ人がやってきたときのヤーガン族の人数は、3,000人ほどだったという。
そのうち9割が疫病と栄養不足、環境の変化によるストレスなどが重なって短期間で死亡。近くに住んでいたほかの先住民の部族も同じような状況に陥ったという。そして現在では、純粋なヤーガン族の生き残りは高齢女性ただ一人。
結果として、ヤーガン族はヨーロッパからの侵略者たちに負けて消えていこうとしている少数民族の一つとなった。
しかし忘れないで欲しい。彼らは世界の最果ての地まで自力で辿り着き、"滅ぼされる"以前は、自分たちの力で、そこで命を繋ぐことが出来ていた。決して野蛮人などではなく、環境に応じて生活を最適化させることのできた、きわめて合理的で頭のいい人々だったのだと。