チャタル・ホユック、「世界最古の地図」と呼ばれた壁画の解釈問題が再燃

こないだからちょいちょいネタにしているチャタル・ホユックに関わる捏造スキャンダル。
ここまでの流れは、前回まで↓の記事にて。

世界遺産チャタル・ホユック(チャタル・フユック)に関わる捏造疑惑が発覚
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_13.html

考古学者が見たトロイア戦争の夢と現実 ~捏造疑惑、調べてみたら闇が深かった
https://55096962.seesaa.net/article/201803article_14.html

見つけた遺跡自体は本物だし見つかっている遺物も本物。なので、世界遺産に登録されている遺跡の価値は変わらないのだが、そこから出てきた遺物の分析に問題の人物が関わっていたために、公表されている報告書の全てを信用することができないという厄介な状況になっている。

たとえば、遺品の中から壁画のスケッチの下書きが見つかっていることから、氏が「発見」したことになっているチャタル・ホユックの壁画の一部(発掘の過程で失われてしまったもの)については、捏造疑惑が強まっているのだが、疑惑の一部は、チャタル・ホユックの「売り」の一つである、いわゆる「世界最古の地図」にまで飛び火することになった。

画像


住宅の壁に描かれた幅10mほどの図である。これはメラート氏が発掘していた初期に発見されたもので、氏の説によれば、住宅の壁画として描かれたもので遺跡から140kmほど離れた場所にあるハサン山という火山なのだという。そして下の幾何学的な模様は、密集して建つ住宅を現しているという。今から9,000年も前の新石器時代に、これほど現代的な描写で記録を残せていたとするとすごいことである。

…しかし、その説には根拠が無い、として反発する学者も以前から居た。

以下の記事や論文では、壁画が描かれたとされる時代ごろに実際に噴火が起きていたため、噴火を描いたものである可能性はある、という結論で終わっているが、「描かれてるものがそもそも火山に見えない」「むしろヒョウか何かの動物の皮じゃないか」という疑惑は消せなかった。何しろ、これが火山を描いたものだという証拠は何もなく、「そう見えるからきっとそうだ」と主張した、発見者の意見をなぞっているだけなのだから。

Çatalhöyük ‘Map’ Mural May Depict Volcanic Eruption 8,900 Years Ago
http://www.sci-news.com/archaeology/science-catalhoyuk-map-mural-volcanic-eruption-01681.html

Identifying the Volcanic Eruption Depicted in a Neolithic Painting at Çatalhöyük, Central Anatolia, Turkey
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0084711

画像


そして今回、この壁画を火山だと強く主張していたメラート氏が、自身の説に合うよう一部の遺物を捏造していたことが発覚した。彼は空想的な解釈に固執し、自説に沿って遺物を解釈する学者だったのだ。氏の影響を強く受けて展開されていた、この「最古の地図」と言われている壁画の解釈についても一部で再燃している。「権威」の主張だから何となくみんなそう思おうとしていただけで、なんの脈絡もなく山の絵が壁に出てくるわけないじゃないか、と言う話だ。

(というか、四本の手足の描かれているヒョウ柄の四角がなんで山を描いてることになったのか始まりの部分からして私にはよく分からないのだが…。下の四角の並んでるのも、ただの模様で、町並には到底見えない)



このケースの場合は、遺物自体の「捏造」ではなく、本物の遺物の解釈が歪められているかもしれない、という話だ。

壁画は間違いなく本物の遺物なのだが、報告者が不適切に自身の空想を混ぜて報告してしまい、後世の学者がそれに引きずられてる可能性がある、ということ。たぶん、今まで「これ地図じゃねぇよ」っていい続けてた学者さんは「だろ?!」って言ってると思う…。

つうかね、資料に「チャタル・ホユックには世界最古の噴火の記録がある」って一行書かれてたら、よっぽど興味あるジャンルじゃない限りフーンで流すよ普通。実物の写真まで見て確認しないだろうし、見てもそこまで疑ってかからないと思うんだ。

このレベルで諸々の報告に疑わしいネタが混じってるとなると、本気で彼の関わった研究50年分を漁らないといけなくなって、何度も言ってるけどほんとマジで死ねる。アナトリアの先史時代の資料が色々変わってしまう。

あと、チャタル・ホユックの女神像で一番有名な↓コレもメラート氏の発見だったりするんだけど、発見時の状況とか復元とかは正しいのかしら。バレバレな捏造をしでかしてくれるほうがむしろ判りやすかったのに。とんだ遺産を残してくれました…。

画像


調べていくと、捏造事件が発覚するまでの間にも色々と「怪しい」と言われる伏線があったんだなぁということが見えてくる。こんな闇、知りたくなかったぞ勘弁してください。

この記事へのトラックバック