【元ネタ解説】アサシンクリード・オリジンズDLC「ファラオの呪い」【おいでませ冥界】

えーめんどくs(以下略)

というわけで前回ちょこっとだけ元ネタとか書いたのですが、例によってなんの解説もなくコアなネタをぶっこみまくるこのゲーム、元ネタが判らずおいてけぼりになってる人も多そうなのでとりあえず全般的な説明を軽く流しておこうかなと。ここでは3月に拡張として実装されたDLC「ファラオの呪い」編に絞って、元ネタの解説とか調べ方とかを書いときますよ。

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★本編の元ネタ解説はこちら!★

【雑学解説】アサシン・クリード・オリジンズ/マニア向けエジプト解説【元ネタ色々】
https://55096962.seesaa.net/article/201801article_4.html
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■「テーベ」の町について

まず「ファラオの呪い」で舞台となっている「テーベ」という場所について。ここは、本編で訪れるメンフィス同様、かつて首都だったことのある古い都市です。アサシンクリード・オリジンズ本編はプトレマイオス朝の時代に設定されていて、首都は海沿いのアレキサンドリアに移っているので、テーベに対しては「古き都」とか「かつて栄えた…」と言われているセリフがゲーム内に登場します。

テーベが単独で主な首都として扱われていたのは紀元前1,500年~1300年ごろ。細かい首都の変遷は以下を参考にドウゾ。「ファラオの呪い」では敵として過去のファラオたちの亡霊が登場しますが、それらのファラオたちが活躍したのとだいたい同時期に栄えていたのがテーベの町です。

http://www.moonover.jp/bekkan/chorono/town.htm

ちなみにテーベの現在名は「ルクソール」で、ルクソール神殿などで有名なエジプトの観光スポット。治安のあまりよくない今でもわりかし安定して観光できる場所ですね。

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最初に上陸するのがテーベの「東岸」で、手前の大きな神殿がカルナック神殿、奥に見えているのがルクソール神殿。この2つはスフィンクス参道で繋がっているので、そのへんはゲーム内でもよく再現されていると思います。ただ、プトレマイオス朝時代の末期にはこれらり神殿はもうあまり機能していないはずなので、実際には、ゲーム内よりもっとボロい状態になっていたと思います…。

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川を挟んで対岸(西岸)に見えているのがハトシェプスト女王の葬祭殿。その奥が王家の谷。
位置取り的にはゲーム内の世界と現実世界はあまりズレがありません。ただしゲーム内は縮尺をかなり縮めているので、王家の谷の崖が実際よりだいぶ急斜面になってました。


■ファラオたちについて

出てきるファラオは四名、いずれも実在するファラオなので細かい説明は割愛。
てきとうに↓に資料を集めておきましたどうぞ…。

アクエンアテン
(※アテン信仰を推し、アマルナに遷都した異端の王)
http://www.moonover.jp/bekkan/chorono/farao65.htm

ネフェルティティ
(※大きな権力を持ち、夫ととともに共同統治した説もあるが、一般的には"女王"に数えないことのほうが多い)

ツタンカーメン
(※アクエンアテンの息子とする場合が多いが、実際には推測部分が大きい)
http://www.moonover.jp/bekkan/chorono/farao67.htm

ラメセス2世
(※このファラオだけ第19王朝)
http://www.moonover.jp/bekkan/chorono/farao72.htm

ちなみに王家の谷の墓の一覧がコレですが、ネフェルティティだけは墓がわからない。アクエンアテン同様、おそらくアマルナの近くに葬られたと思われ、そのまま放棄されたのか王家の谷に改装されたのかも不明。最近の説だとツタンカーメンと一緒に葬られていたのでは、というものもありましたが、今のところ証拠がないですね。
http://www.moonover.jp/bekkan/tomb/index.htm

ゲーム内では墓泥棒がもりもり入り込んで品物を運び出すシーンがありますが、まぁ実際あんなもんです(汗) ギリシャ語の落書きの多数残る墓なんかもあります…。



■冥界(ドゥアト)について

王家の谷から行ける冥界「ドゥアト」は、日本語で言う冥界とほぼ同じ意味の「あの世」ですが、古代エジプトの「あの世」にはいくつかの特徴があります。

・死者は本来、冥界を統べるオシリス神の審判に合格しないと冥界に入れない

冥界へ入るためのルートはひたすら長く、「死者の書」という攻略本は冥界の道順や、出現する敵の撃退方法が書き記されたカンペのようなものです。その内容は、本編に出てきたバエクの夢のシーンで、デカい天秤の前に立ったり、デカい蛇をひたすら矢で射たりするイベントがありましたが、あのあたりが相当します。

時代が進むにつれて冥界の設定は盛られていくので、末期王朝時代には「死者の書」はとんでもない長さになっていました。最も長いのは、グリーンフィールド・パピルスと呼ばれる世界最長のパピルス文書です。しかしあまりにも攻略が複雑になりすぎたので、プトレマイオス朝末期の頃には冥界入りの手続きが逆に簡略化される方向に進んでいました。紀元後まもない時代には死者の書がペラ紙1枚に簡略化されることも多くなっており、そのうちカンペすら無くなります。

ゲーム内で冥界に入るのがそれほど面倒くさくないのは、ストーリー進行の都合以外に、上記のような事情があるものと考えられます…。

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死者の審判のシーンは、死者の書の125章に詳しく書かれています。
ゲーム内では冥界の入り口の暗闇で話しかけてくるのが、このシーンに登場する冥界の裁判官の神々じゃないかと思います。本来はあの問いかけに正しく答えないとそこから先に進めないはずなんですが、主人公は力技で押しとおってましたね…w

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・死後の世界は「永遠の」楽園と考えられていた

オシリス神の住む「イアルの野(セケト・イアル、またはイダル)」は、永遠の楽園で、黄金の麦が茂る場所と考えられていたので、ゲーム内の再現はイメージ通りなのではないかと。死者はここで永遠に、生きていた頃と同じように過ごすことが出来るのです。生きてた頃より死んだあとのほうが長い!! そりゃこの思想なら、墓と副葬品に金かけますわ。のちに登場するキリスト教などと違って、最後の審判まで待たなくても、条件さえクリアすれば死んだ直後から楽園ライフが楽しめるぞ。まあその条件が時代によって厳しかったりするんですけども。

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・死後の世界は地下にある

地下です。
太陽が夕方に地平線の向こうに沈むのも「地下にいく=太陽が死ぬから夜になる」という思想でした。そして翌朝、太陽はふたたび東の空から「生まれ」て来て、空を横切り、夕方にまた西へ沈んで「死」にます。なので冥界があるのは西の地下です。テーベの町から見て、墓所のある王家の谷が西の崖の向こうにあるのは、そこが死者の世界に通じる入り口として設定されていたから。

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太陽が死んでは再び甦るように、死者もあの世とこの世を行き来できることを願って「太陽の下に出づることが出来るように」と祈ったのが、「死者の書」の始まりの部分。


・人間の魂は鳥の姿であの世とこの世を行き来できる

なんだよこの人面鳥…と思ったかもしれませんがそれ人間の魂(バー)です。
ゲーム内ではなんの説明もありませんが、ミイラとなった肉体から分離した死者の、いわば"本体"みたいなもんです。この姿であの世から戻ってきて、墓にそなえられた供物を得ることになっています。

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魂が通過する扉を「偽扉(false door)」というのですが、ゲーム内で魂が出てくる扉がまさにその形になってます。ゲーム内では冥界への入り口もすべてこの形の扉から繋がってるんです。よく見ないと気づかないけど。

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…本来は魂しか通ることの出来ないはずのこの扉をなぜか潜れてしまう主人公が謎すぎる(笑)

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■アマルナの町の再現

ゲーム内では冥界がいくつかのエリアに別れているのですが、中でもアクエンアテンのいるエリアは秀逸です。これ、彼自身が築いたアマルナ(アケト・アテン)の都の再現になってるんですよ。これはうまい出し方だなと思った。現実のアマルナの都は二十年も経たずに放棄されてその後は忘れ去られてしまうんですが、冥界というフィールドだと、全盛期の、人が住んでいたきらびやかな時代を再現出来るってことですね。

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アマルナの都は、アクエンアテンが死に、アテン神への信仰が異端として放棄された後は忘れ去られてしまったために逆に保存状態がよくて、古代エジプトの首都の中では全体のマップがはっきりしているほうなんですよね。ゲームクリエイターなら再現してみたくなる気持ちも判る(笑)

ちなみにアマルナには、毎日アテン神にささげものが出来るようにと365個の祭壇が設置されてたんですが、これもゲーム内で再現されてるので探してみてください。四角い台座が整然と並んでる広場が見つかると思います。



■アメンの神妻

今回のストーリーの鍵を握るのが、古代エジプトの巫女さんともいうべき「神妻」という職業。この職業は実在していましたが、ペルシアに支配された時代ごろに伝統が途切れているはずなので、ゲーム内のプトレマイオス朝末期の時代まで継続しているのは、おそらくゲームとしての設定。もし神妻職が復活していたとしても、過去の伝統をどこまで引き継げていたかどうかは謎。

詳細は以下にまとめたものがあるのでどうぞ。

リアルで知る古代エジプトの巫女さん ー アメンの神妻編 ー
https://55096962.seesaa.net/article/201007article_5.html



■アメン神(アムン神)の別名「隠れしもの」

ゲーム内では主人公たちアサシンのことを「隠れし者」と呼ぶ一方、アメン神を呼ぶときにも「隠れし者」が使われていますが、これは意図的に混同させようとしたのか、翻訳するときにちょっと気を利かせるのを忘れたのかわかれません。「隠されたもの」「不可視なるもの」=姿の見えない神、という意味で、アメン神のエピセットです。神様の名前を呼び捨て連呼するのは失礼なので、その神様を意味する肩書きのようなもので呼ぶわけです。たとえばアヌビス神だと「清めの幕屋(ミイラを作る場所)の主人」とか。

アメン神がなぜ「隠れたるもの」と呼ばれるようになったのかは、諸説あります。大気の神であることから来ていると言う説があります。また、「姿の神秘なるもの」や「多くの名を持つ者」といった別名も持ってたりします。

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つうかゲーム内でひたすら連呼されているにも関わらず、あまり姿が出てこないあたりが、「不可視なるもの」たるアメン神らしいところだと思う(笑) アヌビスたんとかソベクたんは、めっちゃ出まくってるっていうのにね!

アメン神は太陽神として描かれることも多いですが、これは元々いた太陽神ラーを合体させたから。
アメン・ラー(アムン=ラー)というのがその形態。ゲーム内ではさらに「地平線のホルス神」と呼ばれるホルアクティ神も合体させた名前で呼ばれてました。
「合体すると強くなる」は世の中の真理であり、神様にも適用されます。(`・ω・´) こうやって古代の神々は、時代が進むごとに習合合体を繰り返して属性を盛っていくのです…。

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神話の話は細かく解説するとしぬほどながいので、神様リストとか置いときますね!
http://www.moonover.jp/bekkan/god/index.htm



■全般

このDLCは、アマルナの都の作りこみやファラオたちのかっこいいビジュアル、現代のエジプト観光の人気スポットのルクソール(テーベ)など、本編に出しきれなかったネタをまとめてぶっこんできた感をひしひしと感じました。そのぶん史実とのリンクが少なくファンタジー要素強めでしたがw(何しろ冥界巡りさせられますしね!!)

ゲーム内ではタイムスケールがだいぶ誤魔化されていましたが、今回登場したファラオたちはすべて、紀元前1,300年~1,200年ごろに生きた人物です。

ゲームの舞台は紀元前40年~30年ごろの世界なので、主人公たちの生きている時代とファラオたちの時代は1,000年以上離れています。

これは、現代に生きている我々から考えると平安時代の初めにタイムスリップするくらいのタイムスケールとなります。ここに留意しておくと、主人公が「見ていたものを理解出来なかった」と言っている意味が判ると思います。そう、バエク兄貴が冥界で見ていたものは、彼からすると1,000年以上前の、伝説よりももっと遠い時代の世界なんです。

なので甦ったファラオと戦ってるアレは、日本でいうと 世直ししたい神官が長屋王を復活させたら暴走して誰彼構わず祟り始めたどうしよう 的な感じのイベントなのです。まぁそりゃ皆、アワアワするだけで何も出来んわ(笑)


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というわけで、ざっくり大枠部分の元ネタとか書いときました。知ってる人には当たり前のことばっかりじゃねーかよって言われそうですが。アサクリからエジプトにハマってこれから調べるわって人の入り口になれれば幸いです。おいでませ古代エジプト…古代エジプトは…楽しいぞ……!

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