エンジェルフォールに滝つぼがないのは、「水が霧散してしまうから」じゃないのでは? という話

エンジェルフォールは、落下高度が高すぎて水が霧散してしまうので滝つぼがない、という話をよく聞くしガイドブックにも書いてあるが、実際見てみたら滝つぼらしきものはあるし、落ちてくる水が風でこっちに飛ばされてくると痛いし、霧散だけで説明つかんでしょ。という話をしたい。

まずこちらの写真。エンジェルフォールの背景にある崖が大きく削れていることに注目してほしい。
これは水の力で削られたもの。つまり、落下してくる水の勢いは、流れ落ちる背後の崖をこれだけ大きく削れるだけの威力を持っている

この時点で、「落ちてくる間に霧散してしまうから」は間違っているなと思ったのだ。水には、岩盤を削って滝つぼをつくるだけの威力は余裕で備わっている。下の写真のように、上空から見ても、水が流れ落ちる先の崖が大きく削れている。

では、なぜ「滝つぼがない」と言われるのか。

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ここで注目したいのは、水が流れ落ちようとしている大元、出発点のあたりだ。これだけの水量が流れ落ちているのに、崖の上部、つまりテーブルマウンテンの上部は、大きく削れているわけではない。わずかに谷のようになっているだけ…

これは、テーブルマウンテン自体がとても固い岩で出来ていることに起因すると思われる。

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テーブルマウンテンの大元は、約20億年~14億年前あたりに形成された岩盤とされ、そのうち柔らかい部分が雨風で侵食されきった姿が今の状態となる。つまり、現在テーブルマウンテンとして残ってる部分は「とても固い」。億年単位で雨風に耐えられる、地球上最も安定した地層の一つがここなんである。なので他の場所のように、簡単に滝で削られることはないと考えられる。

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そう思って他のテーブルマウンテンの写真を見てみたら、やっぱり、落下高度がエンジェルフォールほどではない他の滝でもみんな、日本でイメージされるような淵を伴う「滝つぼ」は存在しなかった。エンジェルフォールと同じで、背後の断崖が削れつつ、水の落下地点では、凹んだところに大きな岩がごろごろしている形状になっている。

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つまり、エンジェルフォールの下に滝つぼがないように見えるのは、落下高度が高いから滝つぼが出来ないのではなく、テーブルマウンテンがとてつもなく固い岩で出来ているので滝つぼらしい削れ方をしないだけではないか、というのが私の結論となる。

言い換えると、この形状がギアナ高地の滝つぼなのだ、ということ。
滝つぼは実際には「ある」。あるけれど、水が溜まるほどはっきりした窪みにはなっていないので、それっぽく見えてないだけじゃないんじゃないかと。

もちろん、テーブルマウンテンの形状の都合上、ほぼ垂直に落下しているうえに落下高度が高いことにより水がある程度分散しているのは確かなので、それも滝つぼの形状に関係していると思うけど、「水が霧散しているから滝つぼ無い」という理由づけでは、ギアナ高地のほかの滝も同じ形状になってることを説明出来ない。

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ちなみに、他の落下高度の高い滝の場合。

世界2位 
Tugelawaterval 948m

アフリカのトゥゲラ滝。斜めに崖に沿って流れ落ちる形状なので「…これは滝なの?」という感じ。滝つぼは無いっぽい。

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Waihilau Falls 792m

ハワイのワイヒラウ。水量が少ない時期と多い時期があるようなのだが、多い時期のを探すと滝つぼはある。

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あとヨセミテ国立公園にある Yosemite fall 739m、これも滝つぼあり。

そもそも真っ直ぐに900m落下している滝が他になくて比較しようがないのだが、約800m落下している滝でも滝つぼはあるのだから、その100mちょっとで劇的に変化しているのでない限り、落下高度が高いから水が霧散して~ という理論はやはり成り立たない。

というわけなので、「滝つぼの形状は水の落下高度というより岩盤の状態による変化が大きい」という説をプッシュした上で、以下の論文をそっと置いておきたい。

人工岩石を用いた滝つぼ形成実験に関する予察的報告
http://www.ied.tsukuba.ac.jp/wordpress/wp-content/uploads/pdf_papers/tercbull09/t943.pdf

(既にやってる人がいるんだよ…さすがだよ…)

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