ギアナ高地は孤立した「失われた世界」ではなかった、という話

ギアナ高地というと、前人未到の場所もまだ多く存在する、孤立した世界というイメージがある。
というか自分が何となくそのイメージだった。台地(先住民の言葉では「テプイ」)の上には、はるか古代から生きている古代種の動植物がいて、下界からは切り離されている…と。

しかし実際は違っていた。

 ギアナ高地は、下の世界と密接に繋がった沢山の山の連なり

これが実際のところである。

まずぱっと見て判るのは植物だが、上と下の動植物はかなり共通点が多い。というか、ほぼ共通するものが生えていた。
台地の上は高度が2000m以上あるので全く同じ植生ではないが、それは日本の山でも同じである。高度差による植生の違いはどこでもある。そしてギアナ高地の固有種と言われるものが、台地の上だけでなく下にも生えているのは、前回書いたとおり。

アマゾン旅~ ギアナ高地へ行こう。
https://55096962.seesaa.net/article/201809article_16.html

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ギアナ高地には、テプイが沢山ある。それらを「山」と見なすと、いくつもの山の連なりが、互いに一部共通する、その地方ならではの固有種を持っているという状態。これは日本で言うところの立山連峰あたりで想像するとわかりやすい。険しい山にはそれなりに独特の生態系が築かれる。しかしいくら険しいからといって、外界から隔絶されているわけではない。という感じ。



確かに、台地の上に、大きな動物はしない。鳥もいない。
だがそれは食べ物がなくて生きていけないからで、別にここが隔絶された世界で辿り着けないから、というわけではない。現に台地のすぐ横を飛んでいく鳥の群れは見かけた。鳥がふんを落とせば、種が台地の上に落ちることもあるだろう。そのくらいの下界との距離感だ。

写真によっては断崖絶壁にしか見えないロライマだって、トレッキングツアーがあることから判るように実は人が徒歩で登れる斜面もある。
台地の裏側はこんな感じでなだらかな斜面が下から木に覆われていて、かえるなどの飛べない生物も登ってこられる環境だ。

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"テプイ"が、意外と孤立した環境ではないことを動物の観点から研究している内容がこれ。

ギアナ高地、テプイの不思議な生態系
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8403/


" ミーンズ氏の研究チームは、過去何年にもわたりガイアナのテプイを訪れ、各地のコイシガエルを収集。「DNA分析の結果、各テプイのカエルにそれほどの違いはなかった。大昔に完全に分断されていた場合、その差はもっと大きくなるはずだ」。

 したがってテプイと地上の間の遺伝子流動は、従来の想定よりも大きかったことになる。頂上と地上付近のコイシガエルを比較しても、分化はわずか数万年ほど前にすぎないという。 "



"「“孤立した古代種がそのまま残っている”といった単純な話ではない。それぞれのテプイの固有種も多いが、付近のテプイと密接なつながりを示す一部の種は、海に連なる列島の生態系を想起させる」。 "



まあそりゃそうじゃなきゃおかしいだろうな、と逆に思った。台地の本体が岩の塊なので上部に岩しかなくて森林は作られない、という条件下で生きていける生物であれば、台地の上と下を行き来するのは苦にならないはずだ。その気になれば、鳥や猿でも台地の上に行ける。水以外に何もないから、住まないだろうなというだけで。

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というわけで、ギアナ高地のテプイの上は、思ってたより開かれた世界でした。

そこは「失われた台地」や「古代を留めたまま時を止めた世界」ではなく、「失われた時代を一部残した、今もゆっくりとではあるが変わりつつある生きた場所」、だ。

なので、恐竜はいないだろう。
生きていける環境は存在しない。

ただ、風の音とか遠くから聞こえる雷の音とか以外なーーんも聞こえない、静か過ぎる上に奇岩の立ち並ぶだだっ広い岩盤の上なので、一人でじっとしているとそのうち幻覚が見え出すんじゃないかと思う。静か過ぎる雪山に一人で泊まった時と同じ感じの。日本の雪山で見る幻が雪女で、ギアナ高地で見る幻が恐竜なら、きっとそこでの恐竜は、もしかしたら妖怪の一種なのかもしれない…。

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