インフルエンザはどこから来たのか。人類とウィルスをめぐる長い長い戦いの歴史とは

いわゆる「新世界」にヨーロッパからの船がはじめて到着したあと、北米・南米の先住民たちの多くが疫病によって命を落としたという話は有名だ。インフルエンザ、牛痘、コレラ、チフス、etc。もちろんヨーロッパにおいても流行れば死ぬことのある病ではあるものの、新大陸の住人たちはこれらの病に対して抵抗力を持たなかったために弱かった。
かくして、地域によっては人口の9割もが失われる大惨事となったわけだが…

ここで疑問に思っていたのは、インフルエンザが新世界において致死的な存在だったことだ。インフルエンザは確かに体力が無ければ死に至る病だが、体力のある若者まで死ぬというのはどういうことなのか。似たような病気に全くかかったことがなかったからなのか。

考えているうちにふと、気になった。
旧世界の人間だって、そんな古くからインフルエンザにかかっていたわけではないはずだ、と。なぜなら、ほんの数万年前に新世界の人々がベーリンジアを越えていった頃には、まだ、ユーラシア大陸にそれは広く存在しなかったはずだからだ。

 そもそもインフルエンザっていつからあるんだっけ。

…と、いうわけでちょっと調べてみたのだが、意外にも、人類とインフルエンザの馴れ初めが判ったのはここ数十年の話であった。とりあえず参考を挙げておく。

インフルエンザの始まりはすべて鳥だった—さまざまなインフルエンザの脅威に備える—
https://www.kyoto-su.ac.jp/project/st/st11_08.html

"インフルエンザは、もとをたどるとすべてが鳥インフルエンザに行き着きます。というのも、インフルエンザウイルスは本来、カモやアヒルなど足に水かきのある水鳥、渡り鳥に感染するウイルスだからです。ただし私たちが腸管内に大腸菌を持っていても病気にならないのと同じで、水鳥がインフルエンザウイルス感染で病気になることは基本的にありません。インフルエンザウイルスが数百万年もの長い間、水鳥へ感染し続けた結果、両者に共存関係ができたのです。"


なんと、インフルエンザウィルスは、数百万年も昔から、ヒトのすぐ近くに生息して、接触もしていたのである。
ただしこのウィルスは、鳥から直接ヒトに伝染することができない。
ところが、間にブタを挟むと、ヒトにも感染できるウィルスに変異する。

ウィルスの吸着する受容体の形状が鳥とヒトでは異なるのだが、ブタは両方の受容体を持っているためだという。


カモやアヒルなどの水鳥は、インフルエンザウィルスと数百万年も共存していて、感染しても特に何も起こらない。
ブタは本来であれば水鳥とそれほど農耕に接触することがない生き物だが、人間がブタを飼いならし、カモやアヒルと同じ場所で飼うようになったことで、水鳥のもつインフルエンザウィルスがブタを介してヒトにも感染する形態に進化することが出来た。

つまり――

ヒトインフルエンザは、人間が牧畜なんか始めちゃったせいで生まれた存在だった可能性がある。

まさかの自分のせいだったよ!! あの悪魔を生み出したのは俺ら自身だったのか…ッ。

もしこの研究が正しいのであれば、ヒトとヒトインフルエンザの戦いの始まりは、ブタの飼育が開始されてそれなりに時間が経った後ということになるだろうか。農耕牧畜の開始とともに人類はそれまで知らなかった「疫病」という新たな宿敵を得た。農耕は労働力を要する食糧生産方法なので多数の人間が集まって暮らすことが前提になるが、そんな場所でウィルスが蔓延したらどうなるだろうか。初期には集落根こそぎやられたこともあったのではないだろうか。…そうした中から生き残った抵抗力を持つ精鋭たちの子孫が、今の我々とも考えられる。

出来心で調べ始めたところが、1万年に及ぶインフルエンザとの戦いの歴史を垣間見てしまった。
なお、最初に紹介したページでは、このようなことも書かれている。

"アヒルやカモのように、人間がインフルエンザウイルスと共存関係を築くためには、少なくともさらに数万年必要でしょう。ですから今は、感染しないこと、また、発生したときにはウイルスを拡散させない方策を考えるのが、インフルエンザウイルスとの闘いで最も重要になると考えています。"


ヒトが鳥に追いつくのに少なくともあと数万年。遠い遠い未来には、毎年ワクチンを打たなくても生き残れる体をもつ人類が登場しているのかもしれない。

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