コミカルに書かれた悲劇の物語たち「ペルーの異端審問」

図書館のすみっこの本棚を漁ってたら奥の方から出てきた。ペルーって異端審問やってたんだ?! みたいな気分で手にとってみた。さらっと読めるんだけど実は結構重たい話ばかりだし、ちょいちょい真顔になるポイントがあってとても面白かった。

ペルーの異端審問
新評論
フェルナンド イワサキ

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この本は、16-17世紀のペルーの首都、リマにおける「異端審問」の記録を、スペインに残る記録から掘り起こして端的に書き直したものである。どこかコミカルで皮肉っぽい口調なので小説のように読めてしまうが、登場するのはかつて実在した人物たちであり、異端審問も実際に行われた内容となっている。読み終わったあとに巻末の「解説」を見ると、それぞれのエピソードがいつ、どこで行われた異端審問の話なのか、ソースがどの文書か、ということが説明されている。

もちろん、当時のペルーはスペイン領の植民地だ。だからこそ「副王」などという言葉も出てくるし、インディオ、スペイン人入植者、奴隷として連れてこられた「黒人」、混血のムラートやメスティソなど様々な民族・人種が混在する世界になっている。
そして、ペルーはインカ帝国の栄えた場所でもある。
「インカでなければ黒人で」という言葉が出てくるのは、そこが少し前までインカ帝国で、元々住んでいた人々はインカ帝国臣民だった人々でもあるからだ。

スペイン人によってキリスト教が布教された、植民地の大都会。そこで繰り広げられる「異端」の告発と異端審問。
かわいそうな一般人被害者が裁かれるのみではない。悪魔祓いをしようとした修道士が悪魔に取りつかれた女の誘惑によって「堕落」するといったスキャンダルもあるし、好色な告解役の聖職者が密室で女性を口説くこともあり、さらに自らをキリストに天啓を受けた聖女と名乗る者もおり、中には悪魔から秘伝のレシピを授かった女性も…。

異端の名のもとに断罪されていった彼ら、彼女らの物語は、淡々と語ればただの陰鬱な悲劇であり、当時のキリスト教世界の狂気を非難する感想しか出てこないだろう。しかしこの本では、書き方の妙によって物語をウィットに富んだ、少し笑えさえもする滑稽な仮面劇に仕立て上げている。登場人物はみな、「修道士」とか「自称聖人」とかの仮面をつけて舞台の上で役を演じている。顔が見えないから、生々しさを覚えずに読めてしまう。

しかしスペインの異端審問が、植民地でも行われていたというのは考えてもみなかった。言われてみると確かに、やっててもおかしくないのだが…。
もしもペルーがスペイン意外の植民地になっていたなら、ここまで厳しくなかったんじゃないかな、とも思う。

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