サツマイモはどこから来たのか。その起源を巡る様々な研究
ジャガイモを調べるはずがなぜかサツマイモに辿り着いていたんですよ。
というわけで、ポリネシアや東南アジアで古くから広く食べられていたサツマイモについて、「いつ、誰が、どうやって運んだのか」という議論の話である。サツマイモの原産は、南米の熱帯地域。
現在、大きく分けて2つの説があるようだ。
(1)起源1,000年ごろのポリネシア人の拡散時期に南米まで辿り着いた人が持ち帰った
(2)サツマイモは元々ポリネシアに存在した
私としては、サツマイモの語源など包括的な証拠からして(1)説を推す。
ちなみに(1)説は「ポリネシア人が南米まで辿り着いて戻って来た」であり、冒険家トール・ヘイエルダールの説は「南米人がポリネシアに持っていって文化の起源となった」なので方向が逆だし影響度の推定も、想定している時代も全然違う。ヘイエルダール説は最初から俎上にも上がらない。
元ソースはこちら。
(1)説のもの
Historical collections reveal patterns of diffusion of sweet potato in Oceania obscured by modern plant movements and recombination
http://www.pnas.org/content/110/6/2205
(2)説のもの
Reconciling Conflicting Phylogenies in the Origin of Sweet Potato and Dispersal to Polynesia
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(18)30321-X?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS096098221830321X%3Fshowall%3Dtrue
これらはどちらも、サツマイモの植物遺伝子を分析して起源をさぐろう、というものである。
問題になってくるのは、現在の現地のサツマイモの遺伝子は、人の移住によって既に撹乱されていること。また、ヨーロッパ経由で(東周りで)南米のサツマイモが既にポリネシアに到達していることだ。そのため、現在のサツマイモの遺伝子だけ調べたのでは、起源が明確にさぐれない可能性がある。
これは、飼い犬や飼い猫の起源をさぐろうとした過去の各種研究で、起源地が何種類も出ていたのと同じ状態。ぶっちゃけ言えば、研究者の出したい結果が出せてしまう。なので遺伝子解析だけだと、結果はどうとでもなると思う。
(1)説のほうがアリだろうなと思ったのは、サツマイモを意味する「名称」が、サツマイモの起源地と連動しているという情報があるからだ。
こちらの図にあるとおり、ポリネシアのサツマイモの名称は、起源地と思われるペルー沿岸のケチュア語「クマラ」と連動しているという。また時代が少しずれるがメキシコから持ち帰ったと思われる東南アジアでは「カモーテ」に由来する名称になっている。ヨーロッパ人はカリブからサツマイモを持ち帰り、そこでは「バタタ(のちのポテト)」と呼ばれていたので、ヨーロッパ経由で持ち込まれた地域は「バタタ」を名称として使っている。
この名称が近代になって創作されたものでないならば、証拠としては十分だろうと思う。
また、もしポリネシアに既にサツマイモの原種があったとしても、南米大陸で「このイモは食える」ということを知り、持ち帰ったものを作付けしているうちに土地の原種と交雑した、というモデルは成りたつように思う。
いずれにしても、今のところまだ定説というものは出ていない。複数回持ち帰られた可能性はあるし、複数ルートで伝播してきたというのもありえる。ただ、南米との人の交流が全くなかったという証明は出来ないし、海のど真ん中のイースター島まで到達できる人々が、その先の世界を見ずにガマンできるわけがないだろ。と思うのである。
*****
追加分
ポリネシアでサツマイモを意味する「クマラ」の語源がケチュア語であるという説については、反論もある。
この言葉は一般的ではなく、ケチュア語での一般的なサツマイモはapichuかajiだろうという説もあるようだ。また、ポリネシア人がたどり着いたと考えられる沿岸部ではケチュア語の「クマラ」は使われていなかったとする説もあるという。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/126/12/126_12_1341/_pdf
この点については、おそらく言語学だけでなく、植物の遺伝子研究と合わせて結論づけられていくものかと思う。
*****
おまけ
ジャガイモ警察が中世風ファンタジーに文句を言ってるの見て、ちょっとポテトの語源を調べてみた
https://55096962.seesaa.net/article/201609article_13.html
トール・ヘイエルダールについて
https://55096962.seesaa.net/article/201406article_7.html
イースター島住民はいつ南米先住民と出会ったか? DNA解析の注目の結果は
https://55096962.seesaa.net/article/201710article_18.html
というわけで、ポリネシアや東南アジアで古くから広く食べられていたサツマイモについて、「いつ、誰が、どうやって運んだのか」という議論の話である。サツマイモの原産は、南米の熱帯地域。
現在、大きく分けて2つの説があるようだ。
(1)起源1,000年ごろのポリネシア人の拡散時期に南米まで辿り着いた人が持ち帰った
(2)サツマイモは元々ポリネシアに存在した
私としては、サツマイモの語源など包括的な証拠からして(1)説を推す。
ちなみに(1)説は「ポリネシア人が南米まで辿り着いて戻って来た」であり、冒険家トール・ヘイエルダールの説は「南米人がポリネシアに持っていって文化の起源となった」なので方向が逆だし影響度の推定も、想定している時代も全然違う。ヘイエルダール説は最初から俎上にも上がらない。
元ソースはこちら。
(1)説のもの
Historical collections reveal patterns of diffusion of sweet potato in Oceania obscured by modern plant movements and recombination
http://www.pnas.org/content/110/6/2205
(2)説のもの
Reconciling Conflicting Phylogenies in the Origin of Sweet Potato and Dispersal to Polynesia
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(18)30321-X?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS096098221830321X%3Fshowall%3Dtrue
これらはどちらも、サツマイモの植物遺伝子を分析して起源をさぐろう、というものである。
問題になってくるのは、現在の現地のサツマイモの遺伝子は、人の移住によって既に撹乱されていること。また、ヨーロッパ経由で(東周りで)南米のサツマイモが既にポリネシアに到達していることだ。そのため、現在のサツマイモの遺伝子だけ調べたのでは、起源が明確にさぐれない可能性がある。
これは、飼い犬や飼い猫の起源をさぐろうとした過去の各種研究で、起源地が何種類も出ていたのと同じ状態。ぶっちゃけ言えば、研究者の出したい結果が出せてしまう。なので遺伝子解析だけだと、結果はどうとでもなると思う。
(1)説のほうがアリだろうなと思ったのは、サツマイモを意味する「名称」が、サツマイモの起源地と連動しているという情報があるからだ。
こちらの図にあるとおり、ポリネシアのサツマイモの名称は、起源地と思われるペルー沿岸のケチュア語「クマラ」と連動しているという。また時代が少しずれるがメキシコから持ち帰ったと思われる東南アジアでは「カモーテ」に由来する名称になっている。ヨーロッパ人はカリブからサツマイモを持ち帰り、そこでは「バタタ(のちのポテト)」と呼ばれていたので、ヨーロッパ経由で持ち込まれた地域は「バタタ」を名称として使っている。
この名称が近代になって創作されたものでないならば、証拠としては十分だろうと思う。
また、もしポリネシアに既にサツマイモの原種があったとしても、南米大陸で「このイモは食える」ということを知り、持ち帰ったものを作付けしているうちに土地の原種と交雑した、というモデルは成りたつように思う。
いずれにしても、今のところまだ定説というものは出ていない。複数回持ち帰られた可能性はあるし、複数ルートで伝播してきたというのもありえる。ただ、南米との人の交流が全くなかったという証明は出来ないし、海のど真ん中のイースター島まで到達できる人々が、その先の世界を見ずにガマンできるわけがないだろ。と思うのである。
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追加分
ポリネシアでサツマイモを意味する「クマラ」の語源がケチュア語であるという説については、反論もある。
この言葉は一般的ではなく、ケチュア語での一般的なサツマイモはapichuかajiだろうという説もあるようだ。また、ポリネシア人がたどり着いたと考えられる沿岸部ではケチュア語の「クマラ」は使われていなかったとする説もあるという。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/126/12/126_12_1341/_pdf
この点については、おそらく言語学だけでなく、植物の遺伝子研究と合わせて結論づけられていくものかと思う。
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おまけ
ジャガイモ警察が中世風ファンタジーに文句を言ってるの見て、ちょっとポテトの語源を調べてみた
https://55096962.seesaa.net/article/201609article_13.html
トール・ヘイエルダールについて
https://55096962.seesaa.net/article/201406article_7.html
イースター島住民はいつ南米先住民と出会ったか? DNA解析の注目の結果は
https://55096962.seesaa.net/article/201710article_18.html