古代オリエント博物館、開館40周年記念特別展&記念講演会に行ってきた。

公式こちら

【開館四十周年記念特別展】シルクロード新世紀 — ヒトが動き、モノが動く —
http://aom-tokyo.com/exhibition/180929_silkroad.html

オリ博といえばシルクロードものだよね的な原点回帰のイベント。40周年ということもあり気合の入った展示の数々、そして図録がめっちゃ分厚い。なんだこれ的な圧倒説明量。日本の発掘隊、色んなとこで今まで仕事してきたんだな…。

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で記念講演会があったので、行ってみました。
以下、聞いてきた内容をメモがわりに。

古代シルクロードを知る:過去と現在、そして未来へ
http://aom-tokyo.com/event/181006_lectures.html


◆西秋先生の部分

シルクロード展なのに入り口のところに旧石器がいっぱい並んでて「ウワァ石器だぁ!」と喜んだわけですが、時代的にはもちろんシルクロードの時代ではなく、現在シルクロードと呼ばれている地域をかつて旅していった古代の人間たちのお話。

7万5千年前ごろには西からネアンデルタールがやってきた一方、新石器時代には東北アジアで生み出された押圧剥離という細石刃の製法が東から西へと伝播していった。シルクロードがシルクロードになる以前も、人や文化が行き来する道は細々と存在したという。

ちなみにシルクロード付近の原人は石器をあまり作らなかったそうで、古い石器がほとんど見つかっていないらしい。あとシルクロード付近ではネアンデルタールやデニソワといった旧人があまり火を使った形跡がないのも特徴だとか。

モビウス・ライン(Movius Line)の話が出てましたが、検索してみると日本語で全然ヒットしないっすね。これね。
https://en.wikipedia.org/wiki/Movius_Line

これは1948年ごろにアメリカの考古学者・モビウスさんが提唱した説。
旧石器時代の石器作りの技術がインド北部あたりで大きく分かれており、この東西のラインのことを「モビウス・ライン」と呼ぶ。このラインの東側はハンドアックスがメインだけれど、西側ではハンドアックスがほとんど出ず、形状的にも西のものとは全く異なるという。また東側では西側で一般的ではないチョッピング・ツールと呼ばれる石器が多数出ている。

ラインの東西で人種や文化が大きく異なるわけではないため、どうしてここでハンドアックスの系譜が途切れているのか良く分からないのだという。講演者の意見だと、「別にハンドアックスは生きるのに必須なわけでもなく、チョッピング・ツールとか別の形状の石器でなんとかなったんじゃない?」という感じだった。まぁ古代の人口密度ってめっちゃ低いから…東西で人の行き来があんまり無かったとしたらそういうこともあるかも。

それとデニソワ人の作っていた石器はネアンデルタールのものと全然違う形状をしている、という話がちょっと気になった。わりと最近、インドネシアで見つかった石器は実はデニソワ人のものじゃないか? というニュースを見たのだが、確かにシャープさがなくて丸っこい感じ。

http://www.sci-news.com/archaeology/118000-year-old-stone-tools-indonesian-island-sulawesi-03563.html

[>日本語だとこっち
11万8000年以上前の石器発見、デニソワ人か インドネシア
http://www.afpbb.com/articles/-/3073162

デニソワ人は最近見つかったばっかりでまだ骨も揃っていない人類なので、これからの研究に期待したいところ。


◆前田先生の部分

バーミヤン、という地名は古代イラン語のbamya(輝く)から派生した、「山の上の高き住処」という意味らしい。
あれ仏教建築だと思っていたのだが、話を聞いてみると実際は仏教思想+イランのクシャン朝時代の多神教。仏像の上部に描かれていた絵の中には仏典からきたものではなく、イランのゾロアスターの経典の中から持ってこられているものもあるという。

バーミヤンの近辺に作られている仏様はほぼ弥勒(いつか現われる救いの仏)で、阿弥陀(ニュアンス的には最高位の仏)はいないという話は興味深かった。弥勒への信仰はインドではあまり無かったらしいので、バーミヤンに仏を作らせたクシャン朝のカニシュカ王とかが、何か救われたい気持ちを持っていたのかもしれない。ちなみに阿弥陀はガンダーラ(ギリシャ支配されていたインドの西側地域)まで行けばあるそうだ。

仏像とともに存在した壁画は、タリバンによって跡形も無く破壊されてしまったが、日本でクラウドファンディングで甦ったものが存在し、いまこのイベントで展示されているので必見。質感なんかがすごくよく出来てて、ほぉーってなる。
https://readyfor.jp/projects/geidai-bamiyan

この復元された絵の説明がまた凄くてですね…えー… 時間オーバーするまでめっちゃ説明してくれたんですけど途中の、仏の脇にいるゴルゴンの盾もったどう見てもアテナ女神だろっていう人が実はペルシアでいう正義の女神アルシュタートで、見た目を借りただけだって話のあたりからキャパオーバーして極楽浄土に召されてしまったので、えー、…スミマセン予習シテ出治シテキマス

中央アジアの仏教美術はまだあまり知識のないジャンルなので専門的な話には追いつけない。。
ただ、ペルシア、ギリシャの文化・宗教と、インドから来た仏教が中央アジアで交じり合い、シルクロードを経由した中国から日本へと伝わってくるダイナミックな流れは本当に面白いと思う。

それと、バーミヤンの仏様、あれ昔は彩色されて金ピカだったという話があった。天然の岩盤を掘ってその上から彩色していたようなのだが、腰の辺りに地層の切れ目があり、かつてはそこがちょうどベルトのように見えていた、というのが玄奘三蔵が書き残したものから推測できるのだとか。ありし日の姿をCGで再現する企画とかあったら面白そう。


◆宮廻先生の部分

上記、天井画の修復を実際に指揮した先生の話。「文化財を守りたければ誰にも見せないのが一番だけど、文化は共有しなければ意味がない。」なので今こそ攻めにいく時だ。という熱いお話。どうするかというと、文化財の複製品を作ってそれを展示しようというのだ。
日本の持つ文化財のクローンを作り出す技術がとてもレベルが高い。本物そっくりどころか、本物の色の禿げてる部分や欠損してる部分まで補ってかつての姿を再現できる。壁画の失われた部分も、研究によってそこに何があったのか推測できる場合は、再現して埋められるのだ。

クローンなんて偽物でしょ?と思う人もいるかもしれないが、今回のイベントで展示されてるむちゃくちゃ出来のいい壁画のクローンを見ると「なるほど」と納得できる。

形あるものは、どんなに守ろうとしてもいつか失われる。あるいは、元の姿から変容してしまう。
かたくなに守ろうとするよりも、クローンを作ってより多くの人に見せる。文化を再生し続けることによって継承することを考える。これは確かに「攻め」と言っていい文化財に対する態度だなと思った。

あと中国の敦煌の遺跡の復元を手がけた話が面白かった。敦煌の仏像のオリジナルは唐のものだが、清の時代に再現されていて時代錯誤なしあがりになってしまっている。それを唐の時代の姿に戻すというのをやったらしい。中国には唐の時代の仏像があまり残っていないが、日本にはたくさん残っており、日本で「仏像」といえばだいたい唐の様式のものなので、むしろ中国より日本のほうが得意技だというのだ。再現された唐の時代の敦煌の仏像は、確かに我々のよく知るイメージのしやすい「仏様」の姿になっていた。


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というわけで色々興味深くお話聞けました。
シルクロード新世紀展は12/2まで! 興味のある方は年末で忙しくなる前にお早めにネッ。

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